小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
daima
daima
novelistID. 61590
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

小さなトルネード

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

あくまでも優雅に、堂々と。そして叫ぶのだ、球場の隅々にまで響き渡るようにあのセリフを。


「ファール!!」


(結論③! ここか? ここなのか? 私が陽平の力になれて、かつ精神状態を保っていられる場所は……。待たせてゴメンな三塁ベース、君の角ばった白い顔が私に微笑みかけてくれてるみたいだよ)


かくして私は、三塁審に特化した変則的な審判員となった。


そして誰に似たのか、身体は小さいながらエースでキャプテンにまで成長した、陽平率いる城咲フェニックス六年生達の引退試合が来月に迫っていた。

ここ最近、目に見えて調子を落としている陽平にとって、今日の野球教室が何かを掴むきっかけになってくれればいいのだが。



              *



「それじゃあ記念撮影しまーす!もうちょっと真ん中に寄ってくださーい!」


指導が始まる前に、NOMOベースボールクラブ選手と子供達との記念写真の撮影が始まった。ナマ野茂に興奮した保護者達が、一斉にスマホを取り出しカメラモードに切り替える。

クラブ所属の営業担当カメラマンが撮影を進めようとするが、保護者が邪魔で中々位置取りが上手くいかない。


「ちょっと!お父さんお母さん下がって貰えますかぁー!ウチのカメラマンの邪魔なんで!!」


ドスのきいた低音ボイスの関西弁が球場内に響き渡った。声の主は野茂英雄オーナー、明らかに不機嫌そうな顔をしている。

ビッグな身体と存在感も相まって、その迫力に保護者も子供達も果ては関係者達まで一斉に静まり返ってしまった。

なるほど、マスコミ嫌いで有名な野茂の人となりを一瞬垣間見れた気がした。勿論このあと、自分の方から野茂に話しかける子供も保護者も一切現れなかった。

話しかけてくれるなオーラを自ら放出しているように思えた。スムーズに、そして淡々と野球教室のメニューは進行していく。


「じゃあ最後に、練習試合をしまーす!」


これから本日最後のプログラム、参加二チームによる練習試合が行われるようだ。ポジションごとの指導で散っていた子供達選手全員が一斉にバックネット前に集合した。

運営スタッフが何やらフェニックスの監督に耳打ちしている。監督はオーケーオーケーとばかりに右手を何度か振ってから、明らかに嫌な笑顔で私に向かって走ってきた。


「河原さん河原さん!」

「何です監督? 何とも言えない顔になってますよ」

「いやぁー、これから練習試合なんですけどね。ウチからも塁審出すように頼まれちゃって」


何か嫌な予感がする……。気が小さい分、こういう時の危機察知能力は他の人よりも敏感に働くのだ。


「で? 私の出番ということですか」

「おぉ話が早いですね! はい、お察しの通りです。今日引率のパパさんで審判の講習済みなのは河原さんだけでして……。ただですねぇ」

「え、何か嫌だなぁー。ただ、なんですか?」

「頼まれたのが二塁審なんです。やってもらえますかねぇ?」

「えーー? 何か半分顔が笑っちゃってるじゃないですか! それに、そんな限定的な頼まれ方ってあるんですか?」

「あるんです。そして実はもう引き受けちゃいましてね」

「そんなこったろうと思いましたよ。さっき、オーケーオーケーやってましたもんねぇ。弾ける笑顔で」

「ハハ……見てらしたんですかー。キツイなぁー河原さん!」

「キツイのは私の方ですよ! 監督私が三塁審専用機なの知ってるじゃないですか! まして野茂とこのギャラリーの前でなんて……とても」

「そこを何とかお願いしますよ、絶対大丈夫ですって。あれ?そろそろ僕オーダー表持っていかないと……」

「か、監督? かんとくうぅーーー!!」


行ってしまった。ヤバイヤバイヤバイ! どう考えてもヤバイぞ! 二塁審なんて何年やってないと思ってるんだ。

ん?でも待てよ? 考えてみれば二塁審の位置って、ピッチャー陽平を応援できる特等席じゃないか。普段は公平性を期す為に自チームの試合で保護者が審判をすることはない。

でも今日は野球教室の練習試合。試合中の陽平の背中……見守ってやりたいなぁ。


「うーーん……よし!決めた」


私は腹を括った。陽平のスポ少引退まであと僅か。たまにはこんな日があってもいいじゃないか。大丈夫、きっと大丈夫さ。



              *


「ベンチ前!!」


球審の号令で選手たちがベンチ前に整列し、いよいよ試合が始まる。


「集合!!」


二塁審の私も、他の塁審と共に球審の横に一列に並んだ。もうすでに緊張から吐きそうである。あの野茂が見ているとなると尚更だ。


「両キャプテン握手!」

「お願いしまーーす!!」


陽平の握手する手が力強い。たくましくなりやがって。

軽やかに身体を動かしながら、それぞれが自分のポジションに走っていく。後攻であるフェニックスのピッチャー陽平がマウンドから投球練習を始めた。うーーん最高、思った通り距離が近い。

頑張れ陽平! 父さん今日はこっから応援しているぞ。

肝心の投球の方はというと、球自体は走っているように見える。だが当人からすると今いちコントロールが定まっていないのだろう、首をかしげるような仕草を時々見せていた。


少年野球は、まだ成長期である子供達の身体への負担を考慮して七回制で行われる。試合時間も同じ理由から一時間半で区切られる事が多い。

おのずと試合テンポも監督の采配も早くなる。試合は、両チーム得点のないまま中盤の四回まで進んでいた。

初めこそ慣れない二塁審の位置に戸惑ったが、ここまではこれといったミスもなく無難にこなせている。

こんなことなら、怖がらずにもっと二塁審も受けていればよかったかな……。ナイス私、自分でも知らず知らずの内に成長していたパターンだな。

そして四回裏のフェニックスの攻撃中、ふいに相手チームのショートを守る背番号六番の少年が話しかけてきた。


「おっちゃん、審判初めてなん?」

「え!もしかして、そう見えるのかい?」

「めっちゃキョドってるもんや。だいたいそこ、俺の邪魔やねん」

「あ、スマンスマン。でも、おじさんだってこう見えてベテラン塁審なんだぞ」

「ふーん、どっちでもええけど、ドンくさいことして俺の足引っ張らんとってな」


カッチーーン!


このクソ坊主、誰に向かって口をきいてるんだ。曲がりなりにも私は審判員だぞ。敬語を使え敬語を! だいたい何で一人だけ関西弁なんだ。気に食わない、この六番の何もかも気に食わない。

決めた! 決めた決めた決めちゃったもんね。背番号六番! この試合中、絶対お前にアウトコールしてやる。大人の恐ろしさを思い知らせてやるぞー。

予言しよう。 六番、今夜お前は涙で枕を濡らすことになるだろうと!


おっと、いかんいかん、つい興奮してしまった。試合に集中集中。

ワンナウト、ランナー三塁。この試合初めての得点チャンスで打席には陽平が立っていた。

作品名:小さなトルネード 作家名:daima