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「メシ」はどこだ!

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第9話



 カレーを食べ終わり携帯に手を伸ばした時だった。いきなり着信音が鳴り出した。相手を見ると優子だった。泰造は電話を掛けるつもりだったので都合が良いと思った。
「もしもし、牛島ですが」
「優子です。家に帰って夫に今日のことを話したら、泰造さんに直に言いたい。って言うのですが、会って貰えますか?」
 優子の夫とは初対面だが、今日の優子の話ぶりでしは、もっと詳しく事情を知っているのでは無いかと思った。もしかしたら、本当の依頼主はこの人物ではと考えた。
「是非会いたいですね。願ったりですよ」
「ありがとうございます。夫と替わります」
 電話の向こうで受話器を渡す感じが伺えた。
「もしもし、初めまして、優子の夫の鷹村孝です。電話では話せませんが、直接お会い出来たら、色々な情報を提供出来るのですが、如何でしょうか?」
 やはりそうだと思った。鷹村孝は市場の闇を知っている。そしてオヤジさんがそれに巻き込まれてしまった事に関して何らかの情報を持っていると感じた。
「どこで会いますか?」
「私がお店に伺います。人の耳がある場所で話せる事ではありませんから」
「判りました。では日にちと時間は?」
「お店の営業に影響しない時間帯がいいですね」
「では店の営業が終わった後になりますが」
「それで構いません。私も仕事を終えて、そちらに向かうとなると、そのぐらいになりますから」
「そうですか、それで何時頃来られますか?」
「明日にでも良かったらお伺いしたいのですが?」
「それはまた早いですな」
「いや、なんせお義父さんが関わっていますから、時間は、有るようで無いのです」
 確かに娘夫婦なら心配事ではある。
「判りました。それでは明日お待ちしています」
 通話を切ると、横でやり取りをを聞いていた美菜が
「私も同席しても良いでしょう?」
 そう訊いて来た。興味津々の顔をしている。電話の様子を横で聞いていただけなのに、明日、優子の夫が閉店後の時間に来る事が判ったみたいだった。
「何だ、判ったのか?」
「うん。ね、いいでしょう?」
 泰造は美菜も同席させた方が良いと思っていた。ここまでの事態を美菜は完全に知っている。この先もこの娘の考えも捨て難いと思っていた。
「ああ、構わないが、お前それを聞いたら後戻り出来ないぞ。俺と一蓮托生になるからな。それだけは覚悟しておけよ」
 泰造にとってはこの世で一人だけの肉親だから忠告をして置きたかった。
「判ってるわよ。お父さん一人じゃ心配だもの」
 美菜はそう言ってカレーの器を片づけた。

 翌日、店の営業が終わる頃。美菜が暖簾を下げている時に、背の高いがっしりとした、歳の頃なら三十代半ばの男がトレンチコートを身に纏って現れた。
「ごめんください。昨日電話で話をさせて頂いた、優子の夫の鷹村孝と申しますが」
 声を掛けられた美菜は
「あ、お話は伺っています。どうぞ店の中に」
 そう言ってから店の中を振り向き
「お父さん。鷹村さんがお見えになったわよ」
 そう声を掛けて鷹村を店に招き入れた。その声を聞いて泰造は奥の調理場から出て来て
「いらっしゃい。牛島泰造です」
 そう自己紹介をした。鷹村も鞄を置いて名詞を出しながら
「四菱商事の食品部門に在籍しています、鷹村孝と申します。どうぞよろしく」
 こちらも自己紹介をした。
「ま、お座りになってください。ビールでも何か出しますか?」
「あ、お構いなく。話が話なのでアルコールは不味いと思います」
 鷹村はコートを脱ぎながら今日来た目的を述べた。
「そうですか、では話が終わってから出しましょう」
 泰造がそう言うと美菜がお茶を持って来て泰造の隣に座った。
「お嬢さんにも話しても構わないのですか?」
 鷹村の言葉に美菜が
「私も父と一緒に調べたので、ここまでの事情は知っています。どうぞ構いません」
 そう言って笑みを浮かべた。
「なら、話をしましょう。優子が何処まで言ったのかは判りませんが。市場に大卸をしている会社は幾つかあります。千住なら「北魚」が一番ですが、冷凍物なら「大都冷凍」です。ここを通さないと市場では売る事が出来ません」
「それは判っています。そのことは優子さんと話しました」
 泰造が先日の事を言う
「では、その先を……冷凍物の消費期限は大きく分けて一年の物と二年の物があります。冷凍の海老などは二年物が多いですね。それから魚介類も二年物が多いです」
 鷹村の説明に泰造も頷きながら
「逆に一年を切っていると格安になりますね」
「まあ、会社としても売れ残るなら元値でも売ったしまいたい所ですからね。でもそれでも売れ残ったらどうなると思います?」
 そこが、この前も疑問に思っていた所だった。泰造としても二束三文でも売れない品物は確かにあるのだ。
「引き取りですか?」
 泰造は前から考えていた事を述べると鷹村は
「書類上はそうなります。私共の商社に戻って来る事になっていますが、売れない品物なのでそのまま欠損扱いになります」
「書類上?」
「そうです。実際は私共が引き取る事は殆どありません。処分業者に任せる事が殆どです」
 それを聞いて泰造はこの前世間を騒がせた事件を思い出した。カレーチェーンで使うはずだった冷凍のカツを消費期限が切れたので処分業者に廃棄頼んだのに業者が格安で横流ししていた事件だ。この事件を聞いた時に、そう言えば美菜が近所のスーパーで冷凍トンカツが格安で売っていたと話していた事を思い出した。
「では処分業者が横流ししているのですか、例の事件みたいに?」
 泰造はきっと何処でも同じような事が行われているだと漠然と考えていた。
「まあ、物によりますよ。売れないものは処分するしか無いのですから。問題は商品価値があるのに消費期限が三ヶ月を切ったと言う理由で廃棄になってしまった時です」
「それを横流しするのですか?」
「簡単に言うとそうですが、そこは上手くやります。まず国内では行いません。処分を海外でする事にして国外に持ち出すのです」
「国外!」
「そう、国外なら誰にもその先は判りません。日付を改竄して別な国に販売されれば、もう誰にも判りません」
 泰造はそんな事が行われていたなんて全く知らなかった。飲食の業者として市場に通っていて、噂などは幾らも耳にしたが、公的市場でそんな事が行われていたとは全く知らなかったのだ。
「問題はそれだけじゃ無いのです。冷凍には冷凍食品以外にも冷凍されて流通されている品物が多くあります。例えば冷凍の鮪です」
 冷凍鮪と聞いて泰造は「花村」のオヤジさんがヨーロッパの養殖鮪を視察に行った事を思い出した。
「そうです。お義父さんが視察に行ったのもこれ絡みだと私は睨んでいます。だから再びヨーロッパにとんぼ返りしたと見せかけて実は国内に居ると思うのです」
「でも冷凍鮪はそんなに持たないでしょう?」
 泰造も冷凍鮪を使う事があるので、冷凍で商品価値を保てるのが、どの位なのかは大凡判っていた。
作品名:「メシ」はどこだ! 作家名:まんぼう