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ひこうき雲

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 取り返せない後悔は数多あるが、将来は楽になる。買ってしまった土地はどうにもならないがこれからは自分たちのことだけ考えればいいのだから。。。
 いちばん大変なのはヨシとその奥さんだ。
(それでも俺はきっと親父を許すことができないだろう。。。返せ、俺の人生。。。)
 でも今夜だけは、楽しもう、、、もう二度とないだろう親子水入らずの「じゅうじゅう」を。。。

「広明には申し訳ないことをしちゃったね。これからも兄弟で助け合って欲しい。」
 片付けを手伝っているときの母の言葉にやっと俺の魂は救われた。涙がこぼれそうになる。いい歳のオッサンになっても子供は子供なんだな。。。そして母親は母親なんだな。。。と思った。

 翌朝、元々子供部屋だった2階の大部屋で目を覚ました。正確に言えば、親父がシルバー人材の仕事出掛けたのを見計らって布団を出た。
 この12畳の部屋で兄弟3人で寝起きしていた。年の離れた弟達が寝た後にスタンドの明かりだけで猛勉強していた俺は、成績が上がる反面視力が落ちた。パイロットになりたかった俺にとって中学3年生で眼鏡が必須になった時点でその夢は「不可能」になった。大空を目指して猛勉強した俺は、結果として大事な視力を削って成績を上げていたのだ。中学2年生の時に建てたこの家。「家を建てるなら勉強部屋が欲しい」という俺の願いは、「子供は兄弟仲良く同じ部屋にいるべきだ。」という親父に一蹴された。
(やっぱり許せない。何もかも。。。)
ぶり返してくる暗い気持ちをなだめるように秒を刻む時計の音に気付く
 壁の時計はあの頃と同じ場所から俺を見下ろしていた。あの頃と同じように時を知らせてくれている。東側の部屋、強い朝の日差しまで何もかも愛おしい。先々は俺たち夫婦の寝室にと考えていた部屋
 もう来ることはないだろうこの部屋に別れを告げて身支度をした。
 そしてお袋の作ってくれた朝飯、二度とないと思うと食欲がなくてもお代わりした。
(何もかもが愛おしい。そしてその何もかもが二度とない。)

「もう帰るのかい?今日は仕事休みなんだろう?ゆっくりしていきなよ。」
 引き留めるお袋に適当な理由をつけて言葉を返し、朝飯が済んだ俺は何もかも振り切る思いで愛車に乗り込んだ。いつもなら足元に置く手土産の漬物を助手席に置いた。
「体、大事にね。」
 見送るお袋に言葉を掛ける。これも最後かもしれない。もう。。。ここへは来たくない。。。
 ミラーに映るお袋は、珍しくいつまでも手を振り続けていた。
「ありがとう。」
 ミラーの中でどんどん小さくなっていくお袋に俺は叫んでいた。

作品名:ひこうき雲 作家名:篠塚飛樹