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尖閣~防人の末裔たち

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「艦長、あと15分でSeagull-02が着水します。これから最終進入コースに入ります。停船願います。」
US-2飛行艇Seagull-02の誘導にあたっていた三田かが、倉田に言った。倉田は、艦頷くと、自ら艦内電話を手にとって艦橋で操艦の指揮を執らせている副長の冨沢に連絡した。護衛艦「いそゆき」は、少しでも沖縄本島との距離を縮めるために航行中であったが、飛行艇の着水を前に、位置を固定し、波も立てないように配慮する必要があった。
 倉田が艦の行き足が止まったことを体感し、収容作業を見届けるため艦橋へ向かおうと歩き出した時だった。
「本艦より北西160海里(約300km)に飛行物体2出現、速度540ノット(1000km/h)高度3000フィート(約900m)本艦に向かってきます。」
レーダーを担当していた武田3尉のよく通る声が急を告げる。
「何っ!」
倉田は、武田のいるレーダー卓に駆け寄った。
「この低高度で、これだけのスピードを出せるとなると、戦闘機か巡航ミサイルのどちらかだな。ただ、巡航ミサイルにしては高度が高すぎるか。。。」
倉田が顎をさすりながら呟く。
 巡航ミサイルは、ジェットエンジンを装備しているものが多くレーダーを避けるように低空を這い回るため、ジェット戦闘機のように見える場合がある。
「ん~、巡航ミサイルではないと思います。艦長が仰ったように巡航ミサイルにしては高度が高いですし、エコーも低いです。これだけ明確ならばもっと大きな物体ですね。それにコレ見てください。」
 武田が右手に持ったペンを逆さまにして画面上の点を指すと、言葉を続けた。
「中国の空母、遼寧(りょうねい)です。5時間前に司令部から入った衛星情報で確認しているので間違いありません。」
武田が指している点は戦闘機と思われる2つの点のすぐ近くだった。
「しかし、遼寧(りょうねい)は、実験段階の空母で、まだ航空機の運用能力が無いというのが主流な説じゃないのか?」
倉田は、突然の事態の急変に、発生している現実に納得がいかなかった。なぜこうも重ね重ねにいろんな事が起こるんだ。。。しかし、艦長としてそんな態度はおくびにも出さず、武田に答えを促す視線を向けた。
「ですが艦長、あの空母はもともと旧ソビエトでは実用化されていた空母の同型艦ですよね。モノとしてはちゃんとした空母なんです。しかもスキージャンプ式の飛行甲板ですから、カタパルトなんて無い。飛行機は、自分の力で勢いをつけて艦首の坂道を登りきってジャンプするように発艦すればいいんですから、それはもう、飛行機の性能とパイロットの腕次第です。実際中国だって、ロシアが空母で使っていたSu-33(スホーイ33)と同型機を持っている訳ですから、全然不可能じゃないんですよ。」
 なるほど、「いそゆき」の軍事オタクとして揺るぎない地位を得ている武田の言っていることは正しいのだろう。でも、それを知ったところでどうすればいいか?は艦長である俺が判断しなければならない。こっちへ向かってると言っていたが、何が目的なんだ?今来られては昇護をUS-2に乗せられなくなるのではないか、一秒でも時間が惜しいときに。。。何てこった。。。ん、もしかして、US-2を妨害するのが狙いか?いや、中国がこの状況を分かっているとは考えにくい。国家として人命救助の行動と分かっていて妨害してくることはないと信じたい。すると。。。P-3Cか?そうだTIDA-03だ。あの皆川さんなら、かなりしつこく中国海警船につきまとっているに違いない。たまりかねた中国海警船が、中国海軍に泣きついた可能性が高い。中国海軍にとっても、空母の戦闘機で追い払った。となれば、他国への軍事的アピールとなることは間違いない。輝かしい空母部隊のデビュー戦となるだろう。。。追い払うだけですませてくれればいいが。。。
倉田は自らの推測のもたらす結果の悲惨さを想像して背筋が凍り付くのを感じた。とんでもない犠牲が出る。。。航空自衛隊の戦闘機なら妨害して退去させることができるだろうが、那覇からは約400km。。。航空自衛隊のスクランブル機では間に合わない。。。
 この艦には対空ミサイルがある。今の状況に有効な武器だ。たった2機しかいない戦闘機など問題ではない。しかし使うための法律がない。即ち、このまま指をくわえて犠牲者が出るのを待つしかない。ということだ。これが我が国の危機管理の実態だ。
 何もしないことが平和をもたらす。という偶像崇拝の人々と、代々事なかれ主義に徹した政治家たちが作り上げてきた「平和」の「生け贄」として彼らが犠牲になるのを俺は黙って見ているしかないのか?倉田は唇を噛みしめていた。
「艦長。あと10分で接敵。魚釣島沖のTIDAー03に向かっている模様です!このままだと領空侵犯されます。那覇から空自(航空自衛隊)がスクランブル発進しましたが、中国の艦載機の方が近いです。間に合いません。」
緊張のあまり武田が裏返りそうな声で報告する。
「クソッ。日本の領海だぞっ!」
倉田は、唸るような声で呟いた。


作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹