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尖閣~防人の末裔たち

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25.低空飛行


「あと1時間ほどで、魚釣島周囲の領海に入ります。」
河田は手スリに取り付けられた台の上に置いた日除けを立てたタブレット端末から顔を上げると傍らにいる古川に言った。前回とは異なりタブレット端末にはキーボードが接続されており、ノートPCのような格好になっていた。
「そうですか。今度こそは領海内に突入するんですか?」
古川は緊張を隠して尋ねた。前回は、中国の監視船「海監」に妨害されたが、流石に元海上幕僚長とその部下達は、逆に「海監」船隊を手玉に取っているかの如く見事な操船で「海監」船隊を翻弄した。だが、最終的には事態の悪化を恐れた海上保安庁巡視船「はてるま」の説得によって引き返すという、呆気ない幕引きとなったのだった。古川は、その行動に物足りなさを感じていたが、後日その説得の内容について海保を、そして政府を批判する行動に出たことで、一挙にマスメディアの関心を引き、番組や講演会に引く手あまたとなった経過をつぶさに見、そしてジャーナリストとして協力してきた古川は、前回の「呆気ない幕引き」も始めから計算の内だったのではないかと思うようになってきた。
-ただの愛国活動家じゃない。政治家以上に策略家かもしれない-
油断ならない。というのが、最近の古川の河田評であった。
一瞬、河田の目が曇ったように見えた。古川は「今度こそ」という言い方がマズかったかもしれない。と直感的に思った。フォローする言葉を探して頭の中が高速回転しているのが分かる。
「当然です。本来誰にも遠慮する必要はないんです。自分の国の領海を漁船が航行するという当たり前のことがまかり通らないという現実を伝えてください。そして危険感を国民に持ってもらう記事を書いてください。よろしく頼みますよ。今回は、海上保安庁の「泣き落とし」には応じません。そして中国にも示しをつけないと。日本人は海上保安庁のようなお人好しばかりではないということをね。」
河田は、まるで悪戯っ子含みのある笑みで答えた。さっきのひと言は気にしてないらしい。古川は胸を撫で下ろすと
「分かりました。しっかり撮ってしっかり伝えます。」
古川は肩から提げていたカメラを手に持って顔の前に掲げながら言った。
「よろしくお願いします。」
河田は言うと、タブレット端末に向かいキーボードに文字を打ち込み始めた。
「あれっ、今回はキーボードを付けたんですね。」
古川がタブレット端末を覗き込むと、河田は素早くしかしさりげなく画面を切り替えた。画面には数行の文字が記されていた。
「いえ、恥ずかしながら、本を書こうと思いましてね。」
河田は、はにかみながら答えた。
「そうなんですか、どんなジャンルをお書きになられてるんですか?」
やはり、先ほど俺を呼びに来た船員が持っていたタブレットと同じサクセス7だった。
「国防論的なモノを書いてます。売れるかどうかは分かりませんが、自費出版をしてでも出すつもりです。完成の暁には、古川さんにも読んでいただけると幸いです。」
河田は、古川に笑顔を向けると、タブレットの画面を消した。
「はい。勿論です。是非私にも読ませてください。」
答えながらも、古川の頭の中では全く別の考えが湧き出してきた。それは河田のサクセス7についてだった。そもそもサクセス7にGPS機能は無かった筈だ。と、古川は記憶を探る。前回尖閣へ行った時、確かに河田は、タブレット端末をGPSに使用している。と言っていた。当時、古川はタブレット端末への興味が薄かったため機種や機能に関する知識が殆どなく、スマートフォンの画面が大きい端末がタブレットという程度の認識しかなかった。当然スマートフォン同様GPS機能が付いていると思っていた。しかし今の古川は違う、もともと電子云々という端末に異常なほど興味を持つ、いわゆる「ガジェット好き」な古川は、その後タブレット端末に触手を伸ばし、購入を検討していた。「ガジェット好き」な古川は、この検討の過程も楽しみの1つだった。巷では「タブレット端末」とひと括りになってはいるが、その基本システムであるOSは、Android、ios、Windowsと様々であり、それぞれに特色が異なる、さらに端末メーカーによって機能が異なるばかりか、画面のサイズも様々な、古川にとては、実は奥の深い買い物なのだった。その中で古川の目を一際引いたのがサクセス7でもあった。なぜならサクセス7がOSにWindowsを使用しるからだった。これまでWindowsパソコンを使用し、Windows系のモバイル端末を使ってきた古川にとって、使いなれていて、且つWindowsパソコンとの各種データの同期などに親和性の高いWindows端末はジャーナリストという物書きの仕事をしている古川にとって必須のアイテムだとは考えていたが、サクセス7にはGPS機能が無い。それがネックとなり、古川は未だにタブレット端末を購入するには至っていなかったのだった。しかもサクセス7のWindowsは、タブレット端末向けの簡易版ではなく、パソコンのWindows向けと同じOSであったことから、小さいながらも機能はパソコンと同じ。古川にとって「実に惜しい端末」だったのだ。それ故に今の古川はサクセス7を知り尽くしていた。
 やはり、何かがおかしい。なぜGPSだと嘘をつかなければならないのか?実際に前回はGPSの画面を見せてもらった。確かにGPSの画面だった。もしかしたらGPSを使っていると俺に認識させたい「何か」があるのだろうか。何れにして再度こちらからGPSについて質問するのは、疑っているということに気づかれて墓穴堀になるな。古川は心の中に深い不審の澱みが広がっていくのを感じた。
 古川は視線を水平線から、隣にいる河田に移す。不審な目に気付かれぬように横目に見た。
-まただ-
 さっきから河田は、キーボードを頻繁に使っている。執筆活動を始めたというが、なにも「ここ一番」の尖閣沖まで来て執筆しなければならないほど時間が惜しいのだろうか?それにしても、キーを打つ時は数秒間だけ打つ。多分1行程度の短い文だろう。それからしばらくキーを打たない。歳相応にキーボード操作が遅いのかというと決してそうではない。人並み以上のタイピング速度だった。書く内容に苦慮してなかなか筆が進まないのかといえば、そうでもないように見える。悩みの色は見えない。一度不審に思うと何から何まで不審に思えてしまうものだ。と古川は澱みを取り払おうと軽く頭を振った。
河田は、そんな古川には目もくれず、首に下げた双眼鏡を手にとって覗き始めた。
覗き始めるとほぼ同時に
「古川さん。来ました。マストが見えます。多分中国船ですね。」
といって水平線を指差し、双眼鏡を貸してくれた。
「こちらに向かっているんですか?」
と古川は双眼鏡を受け取りながら訊ねた。
「う~ん。マストだけじゃ分かりませんが、恐らくこちらへ向かってくるでしょう。彼らにとって我々は目の上のタンコブですからね。派手に動き回れたら、あちらの威信に関わる。」
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹