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尖閣~防人の末裔たち

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夜には、花火大会も催され、巡視船、護衛艦のイルミネーションとのハーモニーが、港の祭りの醍醐味を観客に提供していた。夕方に巡視船の展示が終了した昇護達も例外ではなく、乗組員達と共に花火大会を楽しんだ。いつかは美由紀と将来授かるであろう子供達とこの祭りを楽しみたいという思いが涌き上がってきた。昼間案内した親子連れの印象がよほど強かったのかな。と思った。花火の色鮮やかな光に照らされた昇護の顔はいつのまにか微笑みに変わっていた。

翌朝、朝食を終えた頃に、護衛艦より一足先に出港し、日立港を後にした。昇護は独り飛行甲板から故郷の景色に別れを告げた。昨日とは打って変わった視界の悪い小雨混じりの雨の中、みるみる故郷の海岸線が霞んで見えなくなっていった。次の寄港地は、長崎県の佐世保港。また洋上での生活が始まった。あれ以来、美由紀からのメールは無い。このまま携帯電話の通話圏外になる。期待を込めて携帯をチェックしては失望する日々よりはマシかもしれない。。。でも、もしかしたら圏外の間にメールが来るかもしれない。。。いや、そもそも、もう二度と来ないのかもしれない。。。クルーのみんなはああ言って元気づけてくれたけど、そもそも美由紀が結婚自体に興味が無かったら。。。不安と喪失感が募る。俺は本当に美由紀が好きだったんだな。胸の動悸が高まるのと同時に、熱い何かが込み上げてくるのが分かった。俺はこんなにも弱い男だったのか。。。という思いも融合して頭の芯まで届いた時、目から涙が溢れそうになっているのに気づき。慌てて指で拭った。人差し指の腹に着いた涙が雨空に鈍く光っていた。さようなら。と叫びたい衝動を昇護はじっと堪え、ただ一度だけ陸に向かって大きく手を降った。無言で。。。霞んで何も見えない陸地に、そして愛する人に別れを告げた。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹