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尖閣~防人の末裔たち

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 デジタル通信での通話は、マイクで捉えたアナログな声を特定のルールによって「1」と「0」もっと簡単に言えば信号のオンとオフの組み合わせによるデジタル信号に変換して送信する。受信する側は、そのルールに則って「1」と「0」の組み合わせをアナログの音声に変換しスピーカーに出力する。このため通信機には、デジタルからアナログへ、アナログからデジタルへとルールにもとづき変換する回路が組み込まれている。このため、通常のアナログ無線では、周波数さえ合っていれば通話内容を誰でも傍受することができるが、デジタル無線では、この変換回路がなければ周波数が同じでも「1」と「0」の組み合わせが発する雑音しか傍受できないので、通話の内容を知られることはない。デジタル無線は日本では警察無線にいち早く導入された。そのきっかけは、逃走する犯人が無線で警察の無線を傍受しながらその裏をかき逃走し続けたことによる。その後、デジタル無線は通話だけでなく、デジタルという特性からデータ通信など様々な用途に普及してきた。携帯電話は、一般に普及しているデジタル通信の身近な例といえる。また、一部の鉄道でも、通話と各種情報の送受信をデジタル通信で行っている。ただし、デジタル通信は、電波が弱くなる遠距離や障害物により受信感度が悪くなる山岳地帯など、電波で送られたデジタル信号を確実に受信できなければアナログ音声に変換することが困難となる。これに対してアナログ通信は、電波が弱かったり途切れやすい場合でも、受信できた部分については弱いなら弱いなりにも、途切れたなら途切れる直前まで、アナログ波で直接受信しているので、感度が悪くても感度が悪いなりそのまま音声として聞くことが出来るのである。よって音声通話が主体で、通話の確実性を重視する通信、あるいは一般的に傍受されても問題ない通信の場合は、電波で直接アナログ音声を伝えるアナログ通信が主流である。航空機、消防などもアナログ通信を使用している。
 こういった知識を持ち合わせていた倉田は、通常の漁船がデジタル通信を用いていることに疑問を感じた。
「了解、怪しいな~。何でわざわざ漁船がデジタルを使ってるんだ?しかも音声だけじゃなくデータ通信だって?うん、海保に教えてやろう。」
と呟くと続けて通信室への指示を出した。
「よし、川崎3尉、海保の巡視船「はてるま」に連絡してくれ。発;護衛艦「いそゆき」艦長。宛;海上保安庁巡視船「はてるま」船長。貴船隊付近の船団は、デジタル無線による通話及びデータ通信を行っている。通常の無線運用にあらず、行動に注意を要されたし。以上だ。」
 倉田は努めて明瞭な声で伝えた。
「了解。送信内容復唱。発;護衛艦「いそゆき」艦長。宛て;海上保安庁巡視船「はてるま」船長。貴船隊付近の船団は、デジタル無線による通話及びデータ通信を行っている。通常の無線運用にあらず、行動に注意を要されたし。以上。」
川崎3尉は、自分の報告を真摯に受け止め、共に検討し、最大限に活用してくれようとしている艦長倉田への信頼感が増し、また、自分が役に立っているという高揚感も相まって、自然と復唱する声に力が入った。
「復唱よろし、送信頼む。」
「了解。」

 海上保安庁第11海上管区保安部所属の巡視船「はてるま」を中心とした3隻の巡視船隊は、尖閣諸島の北東30海里から南下し始め、尖閣諸島に向かってくる5隻の漁船と思われる船団を補足する行動を始めた。
そこに海上自衛隊の護衛艦「いそゆき」からの通信を受けた
「船長、海上自衛隊護衛艦「いそゆき」から通信が入りました。貴船隊付近の船団は、デジタル無線による通話及びデータ通信を行っている。通常の無線運用にあらず、行動に注意を要されたし。とのことです。」
「ありがとう。この海自さんはジェントルマンだな。返信しておいてくれ。発;巡視船「はてるま」船長。宛て;護衛艦「いそゆき」艦長。助言に感謝する。引き続き監視をお願いしたい。以上だ。」
船長の兼子は、海自の好意に感謝すると共に、倉田と同じく疑問を感じた。
「デジタルでの通話にデータ通信か、まあ、海は島でもない限り見通しはいいからな。使えなくはないが、なんでわざわざ金のかかるデジタルにしたのか?聞かれたくない会話をしているとでもいうのか。それとも何か良からぬことを企んでるということか。データ通信も気になる。どんなデータ通信をしてるのか?まさか暇つぶしにネットサーフィンをやっているわけじゃああるまいし。。。そもそも衛星携帯電話でもない限りこんな場所じゃ、電波届かんからな。」
 兼子が頭の中であらゆる危険なパターンをシミュレーションする。
「用途が船舶無線ならばともかく、作業用に単に新しいトランシーバーを買ったらデジタルだったということもなきにしもあらずですよね?周波数の割り当てがだんだん足りなくなってきて将来的には、一般用にもデジタル無線を使うとかという話もあり、結構売ってるみたいですから。」
 起き掛けの副長が欠伸を我慢するような顔をしながら答えた。なるほど、暢気な答えのような気もするがそういう一般論はあるんだな。しかし。。。
「なるほどな、じゃあ、簡単に買えるわけだ。。。だとしたら、最悪の方向で考えよう。デジタル無線を買った。それは通話内容を聞かれたくない。イコール密漁か?それとも?」
起き掛けで寝ぼけている副長や勤務明け間近で疲れきった当直の頭を活性化するかのごとく、倉田は続きを促すかのように末尾を上げた。
「密輸?ですか?」
 当直が答えた。
 兼子は、甘いなと思いつつ、もう1つ判断材料を付け加えた。
「行き先は尖閣諸島。ハッキリしているからな、密輸ではないだろう」
「あっ、まさか尖閣への強行上陸?」
副長が突飛な声を出した。
「その可能性が強いな。強行といっても我が国の領土だから上陸してしまえば、中国もそうそう手を出せんだろうが、辿り着くまでにはありとあらゆる手を使って妨害してくるだろうな」
「上陸されたらされたでかなり大きな国際問題になるでしょうね。」
副長が腕を組んで悩ましそうに言う。
「いや、副長、それをいうなら2国間問題だろう?まだ国際社会が中国に味方しているわけじゃあない。ま、いずれにしても大問題だな。だいたい自国領と言っておきながらも自国民が上陸することを問題視している我が国自身も問題だよな。」
兼子は溜息混じりに言った。
「そうですね。我が国自身の領土に対するぼやけた方針も問題ですよね。だから付け入られる。やはり上陸が本日最大のリスクですね。」
副長は兼子の皮肉に苦笑いで答えた。
兼子は副長に頷くと命令を下した。
「よし、上陸の可能性への対処で動こう。総員配置につき交代で朝食後をとらせろ。」
それを聞いて副長は館内放送で命令を伝えた。
兼子は副長の放送が終わると
続けて兼子は副長に
「護衛艦「いそゆき」に連絡。貴艦の助言により当船では、当該船団が最悪の場合、尖閣諸島魚釣島に上陸を企図するものと判断し、接近運動を試みる。周囲に異変ある場合は連絡を乞う。だ」
副長は、了解。と答え、復唱の後、「いそゆき」に連絡した。
それから数分経過後「いそゆき」から通信が入った。
「船長、「いそゆき」からです。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹