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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ライバルシミュレーターなんて最高だ!

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学校でも人気者、スポーツ万能、成績優秀、彼女もいる。

およそ欠点らしい欠点がない。
まさに俺の人生はすでにバラ色。

「ねぇ、今日一緒にデートしない?」

「悪いな、今日はひとりで夕暮れの波止場に立ちたい気分なんだ」

「なんてハードボイルド……抱いて!!」

誰もがうらやむ人生を満喫している俺には悩みがあった。
あまりにバラ色過ぎて、ぜんぜん面白くないことだ。

「……というわけで、この研究所に来たんだ」

「聞いてるとぶん殴りたくなりますね」

研究員は握りこぶしを白衣の中に押し込んだ。

「この研究所では自分のライバルを作ってくれるんだろ?
 ライバルがいれば俺の人生にも波が立って、刺激になるだろ」

「正式にはライバルではなく、しん……まあいいです。
 装置に入ってください」

ドーナツ型の装置に入ってスキャンを済ませると、
しばらくして、顔も体も俺と正反対の男がやってきた。

「彼があなたのライバルです。
 学校でも人気者でスポーツ万能で成績も優秀で彼女はいません」

「彼女だけはいないんだな」

「自分、不器用ですから」

雄弁にしゃべる俺とは対照的に、無口で仕事人気質なライバル。
これは面白そうだ。


数日後、学校でテストが行われた。

廊下に張り出された順位のトップには俺の名前、
そして2位にはライバルの名前がかかれていた。

「ふふん、ライバルといっても俺の劣化というわけか」

「不器用なんで」

ライバルを早々に突き放してしまった自分のあふれる才能に、
我ながらほれぼれしつつ、次の体力測定へと向かう。

「位置について……よーい、どん!」

走り出すと、並走するクラスメイトをぐんぐん抜いていく。
所詮は俺と違う凡人だから、俺が負けるはず……。

「なっ!?」

俺より先にライバルがゴールテープを切った。
ぎりぎりの差だった。

「ライバル君すごーーい!」
「俺君に勝ったのはじめてじゃない!?」
「足すっごく速いんだね!」

「不器用ですから……」

「くっ……!」

スターである俺を大番狂わせで勝ったライバル。
あっという間にお立ち台に引き出されている。

「ふざけやがって……俺の方が優れているんだ!」

それから俺はことあるごとにライバルと争った。

学校の成績や友達の人数、ラブレターの枚数。
はては、給食の食べ終わる速度から帰宅までの時間まで。

どんな小さなことでも俺は負けたくなかった。

勉強時間もトレーニングも努力する時間も、
ライバルが出てくるよりもずっとずっと増えていった。

それなのに……。

「またライバル君の勝ちだね!」
「ライバル君って謙虚でかっこいい!」
「必死感がないからすごいよね!」

「不器用なだけなんで……」

俺とライバルの差はだんだん広がっていく。
努力すればするほど、泥沼にはまるように負けていく。

「負けるか!! 俺の方が、俺の方がずっと優れて……あれ……?」

 ・
 ・
 ・

目を覚ましたのは病院だった。

「大丈夫ですか? 睡眠不足に過労がたまっていました。
 苦学生でもないのに、いったい何をしてたんですか」

「ああ……努力しなくちゃ……負けるわけには……」

「何言ってるんですか。患者なんだからおとなしくしてください」

寝かしつけられても頭の中はライバルでいっぱい。
今、こうしている間にもあいつに俺の居場所が奪われる。

でも……どうせ勝てない。

そう思った瞬間だった。
自分の中で張りつめていた糸がぷつんと切れた。

「……あーあ、なんだかどうでもよくなった。
 まあ、負けたっていいか。どうせ努力しても無駄なんだし」



「自分もそう思う」

ライバルは向かい合わせのベッドで寝ていた。

「な!? なんでお前がここに!?」

「自分、不器用なんで」
「説明になってねぇよ!」

「自分、汝と争うことに前々からずっと疲れていまして。
 その無理がたたったのか、過労と睡眠不足と栄養失調で
 ここにかつぎこまれたんです」

「俺より、倒れた理由が1個多い……!」

ここでもこいつは俺を超えようとしてるのか。
いや、争うな。
こんなやつもうどうでもいいじゃないか。

「ああ、そうかよ。でもどうでもいいね。
 もう争ったりすることに興味ないんだわ」

「自分もです。テストで負けたあたりから
 争ったりすることにどうでもよさを感じてました」

「くっ……俺の方がもっとどうでもいいって思ってるわ!!
 かけた時間じゃねぇよ! 気持ちは俺の方が上だ!」

「こういう言い争いもどうでもいいと思ってます。
 自分、不器用ですから」

「このっ……!!」

どうでもいいと思うことにすら、俺は負けている。
こいつ、いったいどこまで張り合うつもりなんだ。


入院生活も終盤になったころ、病室に彼女がやってきた。

「ふはははは!! そうだよ! 忘れてた!
 俺には彼女がいる!! こればかりは俺の勝ちだ!!」

と、その直後に別の彼女がライバルのもとにやってきた。

「ライバル君、大丈夫?」
「不器用ですから……」

「なにぃ!?」

もう俺の勝っている部分なんてどこにもない。
なにをやっても俺よりも上をいく。
こんな奴とどう付き合えばいいんだ。

俺の心は入院し始めたころより、ずっとずっと荒んでいった。


「俺君、最近あってないよね」

「ああ」

「私のこと嫌いになったの?」

「いや」

「じゃあなんで会ってくれないの」

「…………」

毎日ライバルに負けないよう努力し続けて、
睡眠時間も削っているのに、のんきにデートする時間なんてない。
でもそれを伝えて理解してもらえるとは思えない。

「……答えてよ。ちゃんと話してくれなきゃわかんないよ!」

ヒステリックになる彼女に、
心に余裕がなくなった俺はついに爆発した。

「ああ!! 話してやるよ!! わかったよ!
 今は俺の頭はあいつでいっぱいなんだ!!
 どこに行ってもあいつの顔がチラつく!

 あんたなんかとイチャつく時間なんてないんだ!!」


「やっぱり好きな人ができたのね!」


「えっ?」

「最近ずっと連絡してくれないし、そうだと思ったもん!
 だったら最初からそう言ってよ! さよなら!」

「あ、いや浮気ではなく……」

彼女は俺の言葉を待たずに去っていった。

なんてこった。
友達も居場所も奪われ、あげくに彼女を失う。

なにもかも終わりだ。


がっくりと落ち込んでいると、病室にライバルがやってきた。
顔には平手のあとがくっきりと残っている。

「お前……それどうしたんだ?」

「不器用なんでフラれました」

「フラれた?」

「はい、自分、不器用なんで」

「平手って……」

俺はひっぱたかれるまでエスカレートはしなかった。
ライバルは常に俺の上をいきやがる。

いい意味でも、悪い意味でも。

「あはは。ビンタされて別れるなんて、なにしたんだよ」

「……不器用ですから」

「俺たち、本当に似た者どうしだよな。
 お前、ライバルなら俺と同じ気持ちか?」

「いえ、自分、俺さんよりも早くに同じこと思ってました」