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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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この家……動くぞ!!

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「こちら、玄関は広くて、コンロも大きい。
 風呂とトイレは別なんですよ!」

「で、時速は?」

「ああ、やっぱり気になりますか」

「時速は?」

「はい、この家は時速60kmで走りますよ。
 しかも振動軽減されているので、揺れも気になりません!」

「買った!!」

こうして、一つの家に新しい人が入った。

車が完全にすたれてしまった昨今。
いまや、家を買うことは移動手段も兼ねた大きな買い物。

「時速60kmか、良い買い物をしたなぁ」

翌日からさっそくその俊足が生かされることになった。

朝になり、タイマーが作動すると
家からはすね毛のはえた足が飛び出して、道路を走る。

信号では止まり、左折、右折し目的地へと急ぐ。

この時間はほかの家も道路を走っている。
ちょうど通勤ラッシュの時間帯なんだ。

「ふぅぁ~~……おお、ぜんぜん揺れてない。
 今はどのあたりを走っているんだ?」

窓から外を見ると、もう会社の近くまで来ていた。
駐家場に家がとまると、着替えを済ませて出勤した。

「おはようございます!」

家が移動するようになってから、これが日常になっていた。



翌日も、タイマー通りに家は走り始めた。

「うぅ~~ん。むにゃむにゃ」

寸前まで寝ていたいので、うっすらある意識を手放して
布団の暖かさに甘えていた。

そのとき。


ドォン!!!

「わっ!? な、なんだぁ!?」

あまりの衝撃に布団から飛び出して窓から外を見た。
交差点の真ん中で、ほかの家と正面衝突していた。

お互いの家の壁が壊れて煙をあげている。

「事故ったのか……? うそだろ……!?」

向こうの家のインターホンを押すと、
ネグリジェの美人が出てきて顔を青くしていた。

「あの、す、すみません……。
 今日は急いでいて、手動運転してたんですけど
 私ったら少し目を話してしまって……」

「まあ、事故ったものはしょうがないですよ」

しばらくして、レッカー家がふたつの家を運んで交差点からどかす。
修理業者も呼んだものの、しぶい顔をしていた。

「派手にいってますからねぇ、ちょっと時間かかりますよ。
 なにせ家ってのは巨大な精密機械ですからね」

「ですか……」
「本当にすみません!」

家の修理が終わるまで、二人はルームシェアをすることになった。



いつも肩を並べているうちに、
俺はだんだんと彼女のことを意識するようになっていった。

気が付けば、お互いの修理がいつまでも終わらなければいいのにと
願うようにすらなっていった。


「はい、家の修理終わりましたよ」

現実は残酷だった。

お互いにお互いの気持ちを気付いたころには、
別れの瞬間がすぐそばまで来てしまった。

「あの……ぶつかってごめんなさい」

「いいんだよ、そんなこと。
 それより、俺は君とこうして一緒に居られたのが幸せだった」

「えっ……! それって……!」

俺は意を決して彼女に伝えた。


「俺と……二世帯住宅になってください!」

「はい、お願いします!」


こうして、恋に落ちた家同士は二世帯住宅になった。
住んでいた住民はやむなく新しい家を探し始めた。

「いやぁ、家にも心ってあるんですねぇ」

修理業者はのんきに家の様子を見てつぶやいた。