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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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神に近づく人と、人に近づく神

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「なんでなんだろうなぁ」

「どうした?」

「子供のころ、すごく欲しかったものが
 大人になってどうしてあんなに欲しかったかわからない。
 ――そんな感覚ってないか?」

「よくわからないな」

「もしかして、その感覚を手に入れたのかな……」

「さっきから何言ってるんだ。順を追って説明してくれよ」

「わかったよ」

それは前に俺がある神社にいったときなんだ。
神社につくと妙な声が聞こえてさ。

"捨てよ……5感を捨てて、新たな感覚を手に入れよ……"

「5感を捨てる?」

本気にはしなかったよ、もちろん。
でもふざけて「触覚」を選んだんだ。

"触覚……確かに受け取った。
 これで私も人間に近づける……。
 礼に気覚を授けよう……"

「気覚?」

第6感として「気覚」を手に入れたわけだ。

今もそうだけど、俺は触覚を失ったものの
人の体調や物の傷み具合をオーラの色で判別できる。

「え、それってすごくないか?!」

「うん、どうやらこれが気覚らしい」

そりゃはしゃいだよ。
病院なんかいくとさ、誰のどこが悪いかすぐわかるんだ。
家に行けばどの柱が壊れそうなのか一発だ。

次に神社へ訪れたのは、すぐだったかな。

"捨てよ……感覚を捨て、新たな感覚を手に入れよ……"

「味覚なんていらない! 新しい感覚をくれ!」

"味覚……感謝する。我も人間に近づいた……。
 礼に時覚を授けよう……"

時覚をもらってから、時計はいらなくなったな。
体の中に目覚まし時計とメトロノームが入ったみたいで、
どんな時間も完璧に把握することができるし
常に一定のリズムを刻むことができる。


でも、これってそんなに嬉しくないよな?


味覚を失うまでして得た感覚にしては、
ちょっと割りが合わないというか釣り合わないというか。

触覚と味覚を失っているから、
何を食べても、何を食べているかわからないんだぜ?

「それは……辛いな」

「で、すぐ神社に戻ったわけ。クーリングオフをしにね」


神社に戻ると、またいつもの声が聞こえるんだ。

"捨てよ……感覚を捨て、新たな感覚を手に入れよ……"

「なぁ、やっぱり味覚を返してくれないか?
 時覚もあんたに返すからさ」

"ならぬ……一度手放したものは二度と手に入らない……"

「だったらせめて、何と交換するかくらい教えてくれよ!」

"神の采配に口を出すのか?"

「ぐっ……」

言われてみれば、こうして新しい感覚を手に入れられるのも
すべては神の力あってこそで、へそを曲げられたら終わり。

「なぁ、あんた人間になりたいんだろ?」

"その通り……すでに肉体はあれど……感覚がない……"

「もう5感は与えられないけど、その代わりに人間らしさをくれてやる。
 だから、5感をまたくれないか?」

"いいだろう……お前の人間らしさ……すなわち欲をもらおう……"






「で、どうなったの?」

「今じゃ睡眠欲も性欲も食欲も出世欲も……
 ありとある欲を神に渡したんだ。
 もうどうしてあんなに感覚を欲しかったのかすらわからない」

物欲もごっそりなくなって仏に近くなった俺には、
どうしてあんなに新しい5感を求めていたのかわからない。

「いや、お前じゃなくて神は? 欲を手に入れたんだろ」

「それならニュースでやってるよ」



『都内で道行く女性にとびかかりキスを迫る不審者が
 ただいま現行犯で逮捕されました。
 容疑者は"我は神ぞ!"などと供述しており、
 薬物の可能性も視野に捜査が進められています』


「……そういえばモラルや倫理観って、欲じゃなかったな」

「ああ、神様はそれだけ交換してなかったから」