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同調率99%の少女(11) - 鎮守府Aの物語

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--- 5 着任式



 那珂がふと時計を見ると、あと2〜3分で14時という時間になっていた。ほどなくして近くの階段を提督と阿賀奈を連れて五月雨が降りてきた。

「みなさーん。お待たせしました。これから着任式を行います〜。内田さんと神先さんはこっち来てくださーい。」

 ロビーに足を踏み入れた五月雨が号令をかける。提督は五月雨に合図をして着任式の行われるロビーの一角、先ほど五月雨たちが準備をしていたテーブル付近に立つ。
 そこは、那珂が着任式をしてもらったときと同じ場所だった。

「流留ちゃん、さっちゃん。さあここからはあなたたちが本気の主役だよ。あとは提督と五月雨ちゃんの指示に従ってね?」
「「はい。」」

 那珂は二人に声をかけて背中を押し、ロビーのある一角に集まった皆の中央に誘導する。全員の前、つまりその場の真ん中に今回の主役が姿をあらわすと、ざわついていたその場が静かになった。
 流留と幸の周りにはさきほどまで一緒にいた那珂、三千花、三戸、和子の同高校の生徒、教師の阿賀奈。五十鈴、不知火、そして少し遅れて工廠よりやってきた明石。その面々の向かいには五月雨、時雨、夕立、村雨の白露型の4人。そして懇親会会場の会議室より遅れてやってきた妙高がその後ろに4人の保護者かのように立っている。なお、手伝いに来ている大鳥親子は関係ないのでそのまま会議室で懇親会の準備続けていた。

 学校の行事と違う空気が張り詰める。流留も幸もその普段しないレベルの空気により強い緊張感を抱いている。そんな流留と幸の正面には提督が立っている。流留と幸はいよいよこれから、艦娘になるのだという意識を改めて持った。
 提督はニコリとわらいかけ、そして口を開いた。

「それでは内田流留さん、神先幸さん両名の、着任式を行います。」
「「はい。」」
 二人は真面目に、そしてハッキリと返事をした。返事を聞いて、西脇提督は艦娘たちの管理者・上官として真面目な面持ちで着任の儀を進める。

「内田流留殿、神先幸殿。あなた方を軽巡洋艦型艤装装着者、通称艦娘川内、神通としてここに任命し、着任を許可致します。そして……光主那美恵殿。」
 提督は最初の一文の最後に突然那珂の本名を口にしてその場の全員の視線を那珂に集めさせた。さすがの那珂も突然のことで慌てふためく。

「へ?へ? なんであたし?」
「光主さん、二人の後ろへ来てください。」
「? は、はい……。」

 困惑した様子の那珂が流留と幸の間の真後ろに立った事を見ると、提督は言葉を続けた。

「あなたの尽力により、我が鎮守府と○○高校の提携が成りました。もちろんあなただけでなく、そちらにいらっしゃる○○高校生徒会の皆さんのお力添えもあってのことです。あなた方のおかげで、大事な生徒さんが二人も艦娘として着任していただけることとなりました。まこと感謝に絶えません。鎮守府……もとい正式名称、深海凄艦対策局および艤装装着者管理署千葉県○○支局・○○支部、支局長および支部長、西脇栄馬より正式に感謝を述べさせていただきます。」
 提督は鎮守府と提督と呼ばれるものの正式名称で丁寧なお礼を述べた。それは国が決めた長くて味気ない名称だった。しかしあえてそれをこの場において正式名称に触れることで、目の前の少女達がどういう組織に入るかというのを現実のものにさせたい目的を持っていた。現場の各責任者および艤装装着者はほとんどのケースで通称で呼ぶものであるため聞き慣れない言葉ではあるが、艦娘になった者は自然と身が引き締まる思いをする。

「これからあなた方3人には侵攻止まぬ深海凄艦という怪物との戦いに従事していただくことになります。……大人としてあなた方のような少女たちに戦ってもらうのは非常に心苦しいものがあります。テレビのヒーローのように私があなた方の代わりに戦って守ってあげられればと思うこともあります。ですが私は艤装を使えず戦うことができません。だから私にできるのは、艤装に選ばれて怪物と戦うことになるあなた方をあらゆる手を使って支援、つまりバックアップすることです。
 私を無責任な大人だと思うかもしれません。ですが外に出て戦うあなた方を、疲れて帰ってきたあなた方を、優しく迎え入れて心身ともに癒やしを与えられる場所、そして安心して皆と交流できる日常の延長線上たる場所を提供することはできます。あなた方の戦い、そして生活を助けたいのです。それだけは心の奥底に留めておいてくれると幸いです。

 軽巡洋艦川内になる内田さん、神通になる神先さん。あなたたちには五月雨、那珂、そして五十鈴とともに鎮守府Aの中枢を担っていただきたい。俺があなた達に望むのは、すべてをまとめあげる統率力、恐れず果敢に立ち向かう勇気、冷静な立ち居振る舞い、皆を励まし元気づける明るさ、そして知恵と策を生み出す豊かな発想力です。どれか一つ欠けてもいけない。5人がそれらすべてを持ってくれるなら助かりますが、無理に求めません。足りない部分を互いにかばいあって運用していければと思います。

 先の5人だけではありません。時雨、夕立、村雨、不知火、妙高。そして将来あなた方に続く新たな艦娘たち。あなた方もうちの鎮守府の大事な一人ひとりです。俺一人だけでは鎮守府を回すことはできません。作戦をミスすることもあります。あなた方に理不尽に厳しく当たってしまうこともあるでしょう。俺はあなた方が思っているほどできた大人・人間ではないのです。だからこそ、みんなの力が必要なのです。
 あなた方は一人で戦うわけではありません。今だってこれだけの艦娘仲間がいるのです。助け合い、励まし合い、時には厳しく衝突してお互い競い合って精進していってください。そして人々の生活を脅かす深海凄艦を、根絶やしにして平和を取り戻そうではありませんか!皆で一丸となり、暁の水平線に、勝利を刻みましょう!!」

 最後に発した掛け声は、その場にいた艦娘なら誰もが己の着任式のときに聞いたことのある一言であった。それは西脇提督という人物が気に入っている言い回しでもある。
 おっとりしていてドジだが純真で優しく聡明、周りを癒やす存在感の五月雨、少々幼いが天真爛漫で恐れを知らない夕立、物静かで思慮深く慎重派、皆の陰のまとめ役である時雨、鋭い指摘をして皆を現実と向き合わせる事が多い、結構なお金持ちの家のお嬢様な村雨、寡黙で冷静沈着な不知火、真面目で努力家な五十鈴、近所の主婦で提督と近い年代の、おっとりしているが皆を優しく包み込む母性を醸し出す最高齢艦娘の妙高、皆立場も性格も感じ方も異なる。
 提督の言葉は特段寒くもなくバカ受けしているわけでもなかった。しかしほどよくロマンに浸った彼のその言い回しは、艦娘としての彼女らの上長である西脇という者の人間性を好意的に捉えさせる一つの要素となっていた。

 一拍置いた後に提督は締めた。
「この言葉を持ちまして、川内と神通の着任式とさせていただきます。ただ今回はそれだけではありません。二人が加わったことで、当鎮守府の所属艦娘は10人超えました。一つの節目として、この時、この日を、このメンバー同士で大切にしたいと思っています。……これからもよろしく頼むよ、みんな。」