小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
月とコンビニ
月とコンビニ
novelistID. 53800
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

たし子さん

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
『たし子さん』

【著】山田直人

○山賀(脚本、演出)男
○野町(役者)男
○大和(役者)女
○斉藤(楽屋、役者)女

舞台上に椅子が五つ、乱雑に置かれている。四つの椅子に、それぞれが座っている。

【斉藤の話】
舞台奥手の壁に「斉藤の話」という言葉が映される。全員、一度それを見る。
斉藤が話し始める。

斉藤 何があったのかとか、詳しいことは知りません。私は、彼女と一緒に稽古をしていた訳ではありませんから。元々、小さな劇団ではよくあることなんです。それが、大学の演劇サークルとなると人間関係も縺れ易くて困りますね。いえ、私はこのサークル好きですよ。とにかく、よくあることなんです。私は元々、衣装やメイクを担当する楽屋スタッフとして、公演に参加していました。近頃、外部の座組でずっと役者をやっていたので、今回はちょっとした休憩のつもりだったんです。稽古場に行ったのも、顔合わせの時と、演出の山賀くんとの打ち合わせの時くらいでした。山賀くんの脚本は癖があって独特だけど、みんな割とすんなり受け入れていましたよ。稽古場の雰囲気も、とても明るかったように思います。それが、本番の二週間前に、山賀くんから電話がかかってきたんです。ええ、彼女が失踪してたから代わりに出てくれないかという内容でした。勿論、最初は断りましたけど、代わりの役者が、そうそう掴まる筈がないということも分かっていました。彼も言っていましたが、私しかいないんですよね。仕方なくですが、引き受けました。今は、引き受けて良かったなと思います。新入生の子たちが可愛くて、仲良しになりましたね。それでも、台本を一から覚えるのはきつかった。もう必死です。役を深めるとかは、ほら、山賀くんがあんな作風ですから、多少はね? 意外とそういうところが引っかかってしまったんじゃないかな、たし子さん。彼女、神経質な所があって、人間関係を作るのが上手じゃないんですよ。脚本や演出家さんにも、合う合わないがあるんです。役者として、それどうなのっても思うんですけどね。いや、上手なんですよ。表現者としては尊敬しています。本当です。新入生は可愛いし、山賀くんとは一年生から一緒で、気心が知れているはずなんですけどね。今回の役者の話だって、彼が直接オファーしたんですよ。それなのに消えちゃうなんて、勘弁してほしいですよね。まあ、個人的な事を言うなら、私は彼女が嫌いですね。ええ。

【山賀の話】
舞台奥手の壁に「山賀の話」という言葉が映される。全員、一度それを見る。
山賀が話し始める。

山賀 まあ、仕方がなかったんじゃないかな。身体は元気でも、心がどうにもならないことってあるじゃない。たし子さんを誘ったのは、新入生にいろいろと教えてくれると思ったからでね。面倒見はいい方だから。でも、男性恐怖症だったって話もあるし、僕の脚本も合わなかったみたいだから、無理して話を受けてくれてたんだろうね。新入生は、どう思ってるのかね。実質、一緒にやったのは一週間くらいじゃないかな。話はしてたよ。そういえば、野町とは少しやり合ってたな。野町が彼女に、螺子を差し込む場面でね。お互いに解釈が異なるみたいだった。野町は、乱雑に、感情的に、自分のものだと誇示するようにやりたいみたいだった。たし子さんは、もっとこう、機械的な、淡々としているけれども反発し合っているような。性格が出ていると思うね。正直、自分の中にイメージはあったんだけど、二つが混ざり合っていくのが面白くて何も言わなかった。そこだけでも、野町とたし子さんで見せたかったよ。野町も新入生だけど、結構言う方だから。ぶつかってたねえ。でも、それで消えるほどたし子さんは弱くないよ。一年生の時から一緒だけど、そう無責任なことを簡単にやる奴じゃない。逆に、そういう擦り合わせて作り上げるのは好きな方だと思うね。噂では、稽古場から帰る電車の中で痴漢にあったんだと。男の人にトラウマ持ってるのに、さらにね。怖かったろう。言葉にすればするほど、安っぽく聞こえるだろうけどさ。ほんとに怖かったろうね。男の人には想像できないことだもの。彼女のせいではないんだ。でも、また一緒にやれるかって言うとね、それは信用の問題だから。それから一週間も稽古に来ないし、連絡もつかないから、代役を立てようという話になってね。いきなりだったけど、楽屋の斉藤さんにお願いしたんだ。稽古場にも何回か来ていたし、脚本も大体わかってくれていたから。助かったよ。結果的に、新入生も凄くやりやすかったみたい。すぐ仲良くなってね。彼女、優しそうに見えて妥協しない人だから。自分にも他人にも厳しいんだけど、そこが先輩として尊敬できたんだろうね。稽古場も、斉藤さんが来てから一つ引き締まったな。彼女は、先輩として稽古場に立ってたんだと思う。たし子さんは、どちらかというと役者として立ってたかな。どっちがいい悪いの話ではなくてね。さっき言った、野町が螺子を差し込む場面だって、野町の話を聞いた上で、客に見せられるように変えていってたもの。まあそれは、僕の仕事でもあるんだけどね。アレはアレでいい場面になったと思うよ。個人的な事を言うと、たし子さんと作った方が楽しみだったんだけど、アレも良かった。舞台も無事に終わったし、斉藤さんには頭が上がらないな。今度、ご飯を食べに行く約束をしてるんだ。次の舞台をどうするかの相談も兼ねてだけど。やっぱり、ご飯くらいは奢らないとね。

【野町の話】
舞台奥手の壁に「野町の話」という言葉が映される。全員、一度それを見る。
野町が話し始める。
作品名:たし子さん 作家名:月とコンビニ