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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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第8話「二人の煌めく獅子が交わるとき」


 ズゴォォォォォォォォン!!
 突如、星空から落下して来た帚星が砂浜に激突し、砂塵が噴火したように天高く舞い上がった。
 砂嵐はやがて潮風によって流され、クレーターの中心にある謎の楕円状の物体が姿を見せた。
 楕円状の物体は貝が口を開くように、ゆっくりと天井部を稼働させる。
 その中から人影が立ち上がった。
 月光を浴びて輝く白銀の軽鎧(けいがい)。
 風に靡く白銀の髪の上で小刻みに動く獣の耳。
 自らの長く伸びた尻尾を手元で弄びながら、瑞々しい唇で艶笑を浮かべた。
「薄汚れた空気……まさかこんな辺境の地に〈聖杯〉があるとはな」
 玲瓏な声音がさざ波の音と共に響き渡った。

 休日の朝、女装プラス白銀の髪とネコミミを隠すニットキャップ姿のミケは、とある部屋の前に立っていた。
 ドアが開き玄関から出てきたのは、笑顔のペン子だった。
「おはようございます綾織さん」
「おは、おはよう……(なに慌ててるんだよオレ)」
「なにかご用ですか?」
「いや……そのさ……今日ヒマ?」
 明らかにミケは動揺しているそぶりだった。
 不思議な顔をしてペン子は首を傾げる。
「ひまですけど?」
「あのさ、親父から水族館のタダ券二枚もらったんだけど」
「行きます!」
 即答だった。
 この会話を物陰から聞いていたポチとパン子。
「なぬーッ! あれは明らかに許せん抜け駆けだ」
「ミケ様が、アタシのミケ様が……ペンギンとデートなんて!」
 ポチとパン子は互いに顔を見合わせ、深く頷いて示し合わせた。
 さっそく水族館に出かける二人を追って、地獄の果てまでストーカーしてやる!
 水族館は家族連れやカップルでごった返していた。
 しかもペン子は写メを撮ろうとする人々に囲まれてしまう。ペン子は快く写メに応じるが、その間ミケは不機嫌そうな顔をしていた。
 そして、パン子も人に囲まれていた。
 ポチはというと、今は変装で目立たない格好をしており、耳もニット帽を被って隠している。
「これではペンギンを見失ってしまうではないか」
「下手するとペン子とはぐれそうだな」
「「え?」」
 ニット帽とニットキャップの二人が顔を見合わせた。
 ミケが声を荒げる。
「なんでポチがいんだよ!」
「たまたまだ、たまたまに決まってるだろう!(貴様とペンギンの尾行しているなど言えるか)」
「聞こえてるぞ」
「卑怯だぞその能力!」
「オレだって聴きたくて聞いてるんじゃねーよ!」
 二人が言い合っていると、やっと解放されたペン子がやってきて、遅れてパン子もやってきた。
 ここでペン子とパン子が鉢合わせ。
「おはようございますポチさんと山田さん」
「お、おはよう……(最悪)」
 ばつが悪そうにパン子はあいさつを返した。
 明らかに三人はこの状況を痛いほど把握しているが、のほほ〜んとしたペン子はわかっているのだろうか?
「お二人も水族館に遊びにきたのですか?」
「そうです!」
 ポチ即答。
 ペン子はポチとパン子を見つめて、にっこり微笑んだ。
「ではポチさんと山田さんはデートなのですね」
 このセリフは死の呪文級の攻撃力だった。
 思わずフリーズするポチとパン子。
 数秒してパン子が解凍した。
「勘違いしないで誰がこんなヤツとデートなんか! そっちこそアタシを差し置いてミケ様とデートなんてしないで!」
「う〜ん、言われて見ればデートに見えますねヒナと綾織さん」
 ここでミケがムキになって、
「別にデートなんかじゃねーよ、親父からタダ券もらったから、誰でもよくって」
「だったらアタシを誘ってくださいよー!」
 パン子はミケの肩を持ってブンブン揺さぶった。
 こっちも解凍したポチは、
「(ペンギンと二人っきりにさせんぞエロリック)では、せっかくだから四人で水族館を回ろう」
「それがいいですね」
 笑顔でペン子は同意した。
 仕方がなく四人で水族館を回ることになった。
 いろいろな水槽を見て回っているうちに、いつの間にかミケの横にパン子、ポチの横にペン子という配列になっていた。
「(ふふっ、勝ったなエロリック!)」
 その声を聴いたミケは振り向いて思いっきりポチを睨んでやった。
 やがて四人はペンギンの水槽の前まできた。パン子は軽くスルーしようとしたが、ミケの腕を引っ張っても動かない。仕方がなくペンギンを眺めることにした。
 ペン子はあまり楽しそうな顔をしていなかった。穏やかな表情ではあるが、どこか哀しげな。
「本当は一年に一回しかここにこないのです。特別なその日にだけ、悲しかったり、辛かったり、嬉しかったり、たくさんあったその日の思い出がここにはあるから」
 ペン子の横顔を見つめていたミケは目を伏せた。
「ごめん、誘ったりして」
「いいのです、ぺんぎんさんを見られるのは嬉しいですから」
 二人の間に流れる空気に断ち割って入るパン子。
「ミケ様イルカショーがはじまるらしいですよ。行きましょ行きましょ」
 強引にミケの腕をグイグイ引っ張ってパン子行ってしまった。
 ショースタジアムに続く渡り廊下は橋のように下が空洞になっている。
 パン子は途中で立ち止まって、海のほうを指差した。
「あ、赤い風船が飛んでるー」
 同じ方向を見たミケは殺気のようなものを感じた。 
 シュォーーーーーン!
 衝撃波の音がした刹那、崩れ落ちる渡り廊下。悲鳴があげなら人々が落ちていく。
 ミケはパン子を抱きかかえどうにか無事に着地した。ペン子とポチも無事のようだ。
 しかしほかの人々は瓦礫の下敷きになったり、落ちた衝撃で負傷した者がほとんどだった。
「オレが狙いなのか?」
 ミケはポチに顔を向けた。
「俺はそんな連絡受けていないぞ(通信拒否していたが)」
 不甲斐ないポチには任せておけず、新たな刺客がミケを狙いに来たのかもしれない。
 突如、轟音を立てながら床が割れた。衝撃波が通った道だ。その道はペン子に続いていた。
「きゃっ!」
 ペン子の身体が何十メートルも後方に飛ばされ、道路を走っていた車にぶつかって、さらにそれでも勢いは治まらず、車ごと近くの店に突っ込んだ。
 事故の煽りを受けた車が次々とクラッシュして、辺りは大惨事となった。
 白銀に輝く小柄な影を見たポチは驚愕せずにはいられなかった。
「獅子煌帝(ししこうてい)アレック、どうして貴様がこの星にいるのだッ!」
 煌帝と呼ばれた者はまだ幼い子供だった。
「ほう、暗黒公子ポチではないか。戦線を離脱したと聞いていたが、こんなところで会おうとはな。目的は余と同じか?」
「(同じ目的だと? 奴の目的はいったいなんだ?)」
「違うのか、ではなぜここにいる?」
 ポチがなにかを考える前に、アレックの〈サトリ〉で聞こえてしまったのは、
「(皇帝ということは……まさか、オレと関わりがあるのか)」
 ミケの心の声だった。
 見る見るうちにアレックの表情が増悪に染まり、全身の震えを押さえられずにいた。
「ありえん。そんな偶然が許されてたまるか。そこにいるのは女……いや、まさか、そのアルビノ特有の白い肌と髪、そしてよく見れば緋色の瞳。馬鹿なッ!」
 刹那にしてアレックはミケの懐に入り、そのままミケを押し倒して馬乗りになった。
「この亡霊めッ!」