小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

鏡のカガ子ちゃん

INDEX|1ページ/1ページ|

 
今日もカガ子ちゃんは、他の鏡に紛れて美容室の壁に張り付いています。一見、他の鏡達とは何も変わったことはありません。その美容室は人気店なので様々なお客さんが毎日、カガ子ちゃんに向かって顔を覗かせます。今日も十時の開店早々、金髪の顔が大きい、ゴリゴリのボディビルダーのような男がカガ子ちゃんの目の前に座りました。カガ子ちゃんにとって、その男はタイプの男性ではなかったため、暇つぶしに少し意地悪をして、過去に見た、タイプの男性の顔を一瞬写しました。するとその男は不思議がるどころか、満足そうに、まるで本当の自分の姿を見たかのような態度をしていました。とんだお花畑野郎だ、カガ子ちゃんはそう思いました。筆者はカガ子ちゃんをちゃん付けしていますが、これは決して可愛らしいから、とかではありません。只の鏡に可愛いと思うほど、筆者は落ちぶれていません。カガ子ちゃんは、ちゃん付けしないと怒るんです。証拠に、一回筆者は美容師がいないところで、カガ子さん、いやカガ子ちゃんとお話をしていました。筆者が、カガ子さんは退屈ですか、と聞くと、カガ子ちゃんは、そりゃ、あなたと話しているからね、と言いました。筆者は自分のことを面白い人間と自負しているので、これはカガ子さん、いやカガ子ちゃんが機嫌を損ねたに違いありません。なので、カガ子ちゃんと呼ぶことにしています。
 ボディービルダーらしき男は、どうやら髪型が気にくわないらしく、美容師に切り直しを求めています。カガ子ちゃんは、またこの男に覗かれることを非常に残念に思いました。いっそこの場所から逃げ出したいとさえ思いました。しかし、この場所を逃げ出したところでカガ子ちゃんは、どこで生きていくことができるのでしょうか。只の鏡が、しかもたった一枚で、どうやってうてられることを逃れられるでしょうか。カガ子ちゃんにとって、その方が嫌のなので渋々この男の相手をしてやることにしました。
 カガ子ちゃんは暇なので寝ることにしました。寝ていると見た目も中身も普通の鏡となんの遜色もない、ずばり鏡になるのです。
 こんな夢を見ました。カガ子ちゃんは意志のある鏡から、意志のある流れ作業用のロボットになる夢です。毎日毎日、一日に何万パックものポテトチップスを袋詰めするロボットです。いつもいつも同じことばかりやらせあがって!カガ子ちゃんはそう思いました。(現実の自分と重ねてしまったのでしょうか。)
 しかしそのロボットは重量五トンにも及ぶ巨体なので当然動くことはできません。(巨体でなくても人のいる前では動けませんが。)なので、小さい反抗を試みました。袋詰めのスピードをいつもの半分ぐらいにしたのです。小さい反抗と言えども、これは多大な損害をもたらします。なぜなら送られてくるポテトチップスの数は変わらないので、ポテトチップスが渋滞して様々な機械を故障させる原因になり得るからです。その時に「この機会は壊れているじゃないか。」と言われて、捨てられて、それから自由に暮らすというのがカガ子ちゃんの目的でした。すると予測していた出来事はすぐに発生しました。周りの従業員達は完全に狼狽しています。その時カガ子ちゃんの元へ、大きめのサングラスをかけた、ロン毛の不思議な雰囲気を放ったおじさんが来ました。「お前、なにしているんだ。」おじさんは確かに言いました。しかし、まさか自分に話しかけて来ているとは、カガ子ちゃんは思ってもいなかったので無視することにしました。すると、「おい、お前、なに人の話を無視しているんだ!」今度は明らかにカガ子ちゃんに言いました。周りの従業員達は、余計狼狽しています。カガ子ちゃんは早く捨てられることを望んでいたし、第一、このおじさんは迫力に欠けていたので、やはりカガ子ちゃんは無視しました。するとおじさんは半径十メートルもあろうかというハンマーを振りかぶって言いました、「お前なんか、この工場ごと消し飛ばしてやる!」
「ぎゃああああ!」
 カガ子ちゃんは目を覚ましました。ボディビルダーの男は未だにカガ子ちゃんの目の前に座っていました。カガ子ちゃんは、風貌は全く違えど、その男が夢のおじさんに見えて仕方がありませんでした。悪夢を見た後は周りの何気ないものが自分にとって恐怖の対象となったり、夢の物(者)と重なったりすることが、誰にでもあるでしょう。カガ子ちゃんはあまりの恐怖に気が動転しました。そして美容室から逃げ出そうとしました。しかしカガ子ちゃんは、自分に足が無いことを知りませんでした。周りの者には生えているので自分にも生えているだろうと思っていたのです。カガ子ちゃんは壁から剥がれ落ち、目の前の台の上に倒れました。その時、カガ子ちゃんは思いました。自分は特別ではなかった、ということを。今まで、喋ることもできないし、好きな映像を映し出しこともできない他の鏡を見下していました。しかし、少し突出した才能があっても、本質的にそれが鏡なら、それは第三者から見たら只の鏡、ということに気が付きました。
 それからカガ子ちゃんはまた、寿命が来るまでその美容室で使い続けられました。
作品名:鏡のカガ子ちゃん 作家名:大堀哲也