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暗闇を越えて

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志望校名隣の評価判定欄にBと記されている。絶叫しそうになるのをすんでのところで思いとどまり、芳雄は頭を抱えてうずくまった。
遅くまでの残業から帰ってきた父は、さっき、明日の朝に成績表を見せろと言って寝室に入っていった。明日の朝に成績表を見た父は、ためらいなく拳を振るうだろう。高校2年生の夏に志望校判定がCだったとき、父は芳雄を竹刀で打ち続けた。あの竹刀はしばらくして壊れた。
父は芳雄を殴るたびに、父を超えろと言った。息子は父を超えるべきなのだ、勉強をし、いい大学に入り、父を超えるような優秀な医者になれと、そう言い続けた。だから芳雄にとって、国立大学医学部に入学することが、私立医科大出身の父を超えるための、唯一の目標であった。
小4の頃から医者になるためにと言われ、父自らが芳雄の勉強を見た。父の作った小テストで満点が採れないと、一回殴られる。それがルールだった。父は母と妹には手を上げることは決してしなかった。それも父のルールだったからだ。なにがあっても男は女に手は上げない。だから芳樹もそれは厳守しろ。力が弱い女に振るう拳は、それはただの暴力なのだと。
母は父の行動には口を挟まなかった。芳雄がどんなに泣いても、なにも起きていないかのように振舞った。母はいつもなにも話さず、目を伏せている人だった。三歳年下の妹は、いつしか夜遅くまで家に帰らないようになっていた。父はそんな妹と顔を合わせるたびに怒鳴りつけていたが、決して手は上げなかった。
去年の冬、母が妹を連れて家を出て行った。しゃべらない母と家に寄り付くことがなか妹がいなくなったところで、家の風景が大きく変わるわけではなかった。母について、父にはなにも聞かなかった。父が何も言わなかったからだ。ただ一回だけ、「これだから女は駄目だ。すぐに逃げる」と呟いているのを聞いた。母からは一度だけ電話があった。父から離れ、母と一緒に暮らすかという内容だった。芳雄は「それでは逃げることになるので、できません」と答えた。電話は切れ、二度とかかってくることはなかった。
作品名:暗闇を越えて 作家名:渡来舷