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ダカーポ2 snowy tale

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第2話



 いつも通り授業を乗り切り、ようやくやって来た放課後。いつものように杏と脚本作りをしようと、早々に帰宅の準備をしていたら渉が声をかけてきた。

「なぁ、義之ちゃん。今日は暇? 暇だろ? 暇と言って下さい」
「あのな、今は追い込みの時期なんだよ。それくらいわかるだろ?」

 小恋、茜、ななかは被服類の準備で忙しいだろうし、杉並はその他の必要物品の確保と問題行動で捕まらないだろう。それで俺に来たんだろうが、生憎と俺は杏と過ごす時間の方が大切だ。いつもならこれで引き下がる渉だったが、今日に限って妙にしつこい。

「頼む、義之。今日はマジなんだよ。この通りだ! 杏にも許可は取ってある!」
「は? 杏がそんな許可を出すと思うのか? なぁ、どうなんだ、杏」

 杏は日課になりつつあるメモ帳の確認をしていた。大切なことを忘れないように記録しているのである。

「そうね……確かに今日の朝、義之をレンタルに出したみたい。別にいいわよ、たまには羽を伸ばして来なさいな」
「何を言っているんだよ。今は大事な時期だって言っていたじゃないか。第一、俺がいないとまともに飯も食わないだろ?」
「人の好意は素直に受ける。私のことが好きで好きで堪らないのもわかるけど、渉だって大切な友達じゃない。たまにはそっちを優先しなさい」

 そう言われては何も言い返せない。事実、渉は大切な悪友だしな。

「いいか、5分で済ませろよ? 俺は忙しいんだ」
「わーってるって……て、5分は酷くね?」

 そんなふざけた話をしながら、俺たちは商店街へと繰り出して行った。冬は日暮れが早い。見る見るうちに日が沈み、夜になってしまう。明日は休みだからいいものの、もし平日なら帰りたい。

「ここだ、ここ。ほら、義之。中に入れって」
「何だよ、ここ。高いんじゃないのか?」
「大丈夫だって。ただのカラオケなんだから」

 見た目はどう見てもキャバクラの店に入ると、確かにカラオケボックスのような内装だった。見かけによらないらしい。
 受付を済ませて個室に入ると、そこには既に杉並が座っていた。

「はっはっは、驚いたか!」
「ま、大方予想はしていたけどな」

 渉がこんな店を知っているとは思えない。こいつの入れ知恵だろうと思っていたさ。適当に飲み物を頼み、歌った辺りで俺から尋ねることにする。

「それで、今回はどんな悪巧みをするつもりだ?」
「おぉ、同志桜内。遂に先陣を切る決意を固めてくれたか! 良かろう、この不肖杉並、一世一代の大事の準備を整えようではないか」
「いらんわ! ……って、整えるってことはまだ何も企画していないのか?」

 てっきり、悪い相談かと思ったんだけどな。杉並でないとすると、渉だろうか。

「渉……振られたのか」
「ば、どうしてそうなるんだよ! まだ告ってすらいないってーのに!」
「なんだ、違うのか。じゃあ一体どうしたんだよ?」

 杉並と渉は顔を見合わせた後、盛大に溜め息を吐いた。

「つれないなぁ……義之。俺たちダチだろうがよ。悩んでいること、あるんだろ? それを聞くためにこうしてセッティングしたんじゃんか」
「そうだぞ、同志桜内。俺たちはかけ値なしの友ではないか。何を遠慮することがある?」
「お前ら……」

 顔に出したことも無ければ、愚痴を零したこともないつもりだったんだけど、どういう訳かこいつらは気付いてしまったようだ。完敗だな、こりゃ。

「……実はな、杏と結婚しようと思っている」
「……は?」
「ほほう……良いだろう、続けてくれたまえ」

 流石に内容までは想像できなかったか。それもそうか、一言も言ってないんだから。

「杏は記憶力が少し人より劣る。それに加えて人一倍頑張りやだからさ、色々と無理してしまうことが多いんだよ。それが見ていられないんだ」

 遡ること約4年前、人形劇を皆でやった時のことだ。あの時、杏は学校に泊まり込んで台本を作っていた。あの時だけかと思ったけど、付き合ってからというもの、演劇や生徒会の仕事、学園祭の度に杏は無理をしている。その結果、風邪を引いたのは一度や二度じゃない。

「卒業したら……杏は本島の大学に進む。いくらこっちから通ってくれるとは言っても、毎日の通学だけでも結構な負担じゃないか。俺は杏の夢を一番近くから支えてやりたいんだよ」
「よく言った、義之ちゃん!」
「うむ、それでこそ同志桜内だ!」

 言い終わるや否や、渉と杉並に何度も背中を叩かれる。

「お、おい、止めろって」
「それであの時、卒業旅行に賛成したのだろう。宜しい。この杉並、最高のデートスポットを探し出し、旅行プランに組み込んでみせる!」
「お前、あの時って……まさかバスの中にいたのかよ?」

 まだあの場限りの話で、杏に話すらしていないかったのに。

「ふふふ、企業秘密だ」
「あぁ、そう言うと思ったさ」

 こいつの場合、盗聴器か何かでも仕かけていそうだもんな。そこは突っ込まない方が良いだろう。

「俺も協力するぜ、義之。結婚を申し込むなら指輪がいるよな? 金は大丈夫か? 少ないけどさ、俺も出資するぜ?」
「いや、それは遠慮しておく。こういうのは自分の力で用意したい」
「義之……わかった。ならさ、アルバイトはどうだ? 俺、友達にあたって良いバイト先探して来るぞ?」
「バイト……バイトかぁ」

 確かに、今の小遣いじゃ大した指輪は買えない。しかし借りるのも気が引ける。アルバイトをするのは当然なんだが、そうなると杏と一緒に過ごす時間が減っちゃうんだよな。

「安心しろって。ある程度融通が効くバイトを見繕ってくるからよ」
「渉……悪い、お願いする」
「おぉ、任されよ!」

 本当に、俺は良い友達を持った。杉並と渉。この2人とこうして笑っていられて、俺は幸せだ。

作品名:ダカーポ2 snowy tale 作家名:るちぇ。