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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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隣と彼方 探偵奇談9

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焦りと覚悟と



ところどころ、教室の明かりが灯っているのは、再来週に控えた学校祭の準備のためだ。部活後も準備ができるよう、最終下校時刻が特別に延びている。だからだろうか、いつもと違う夜の雰囲気。浮ついた空気。わくわくするような感覚は、普段の学校生活にはないものだ。

伊吹は、後輩の瑞とともに職員室をあとにする。部活が終わり、顧問との話を終えて二人で並んで歩き出す。

「遅くまで電気ついてますね」
「学祭間近だからな」

日が暮れてからクラスメイト達と過ごすというのは、どことなく特別な感じがする。学祭マジックだ。夜の学校は事件のさいに何度か足を踏み入れたが、電気の灯った夜の学校というのは、また違う趣がある。

「おまえのクラス、何するの」
「うち?お化け屋敷です。洋風の。ホーンテッドマンションみたいな」
「定番じゃん」
「伊吹先輩のクラスは?」
「うたごえ喫茶」
「なにそれ!」
「喫茶店プラス楽器や歌の生演奏をするんだ。俺、タンバリン担当。ずーっとシャンシャンしてるだけ」
「タンバリンて!!」

二人の笑い声に混じって、教室や廊下で作業をしている生徒たちの声が聞こえてくる。

「すっかり秋ですね。夜は寒いや」

風がもう冷たくて、夏からずいぶん季節がすすんだことを感じる。過ごしてきた日々の、短くも濃い時間。この後輩との距離は、ずいぶん縮まったように思う。
穏やかに、ゆっくりと時間は過ぎる。だけど瑞が焦りに似た不安を抱えていることを伊吹は知っている。時折見せるその不安は、伊吹にもきっと同じように存在しているのだが、それでも何を知ってもこうして過ごす平凡な日常を選んだのだから、覚悟はしている。何が待っていても。どんな結末であっても。