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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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総合的な学級崩壊の時間

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先生が教室に入ってくると、なぜかプロテクターをつけていた。
まるで野球のキャッチャーだ。

「さて、みなさん。6時間目は総合的な学習の時間です。
 今日は人間として生きていくのにだいじなことを学びます」

小学生の生徒たちは全員「説教かよ」とうんざりした。

「実は、この時間の前にこの中の一人が鍵を持っています。
 その鍵の持ち主が誰なのかを探してください」

「先生はどうして変な恰好なんですか?」
「護身用です」

「鍵って誰が持ってるんですか」

「そうやってすぐに答えを誰かに聞かないでください。
 これは総合的な学習の時間。
 自分で答えを見つけ出す過程に意味があるんです」

先生の唐突な授業に生徒はやる気が出なかった。

「もし、見つけ出すことができたら
 みなさんの成績は最高評価をつけます」

生徒は色めき立った。
ここは進学校なだけに成績は金以上の価値がある。

「ただ、鍵の所持者は最後まで隠してください。
 隠しきることができたら、その人だけ成績を最高にします」

みんな、には鍵の持ち主が含まれていない。
隠しきれるか、見つけ出せるかの勝負。

まずはクラスの委員長がせきを切った。

「鍵を持っている生徒は出してください。
 合理的に考えて、あなたひとりが最高評価になるよりも
 みんなが最高評価になる方が救われる人が多いです」

生徒はしんと静まり返って誰も動かない。

「どうして誰も動かないの!?
 授業の時間が終わるまで時間がないの!
 あなた一人だけ助かってなんになるの!?」

「そういう委員長が怪しいよな」
「なー」

思わぬ切り返しに、委員長は目を丸くした。

「私は鍵なんて持ってないわよ!
 休み時間はずっと、愛ちゃんと一緒にいたもの!
 そうよね、愛ちゃん!」

「うん……でも、ずっとじゃないよ……。
 先生が鍵を渡そうと思えば渡すタイミングも……」

「ほら、やっぱり怪しいぞ」
「怪しいぞ」

一転して委員長が怪しいムードになってきた。
こうなると、誰が鍵を持っているかの推理よりも
誰をつるし上げるかに目的がすり替わってくる。

「待って……待ってよ! 私は本当に何も持ってないの!」

「どうだかな」
「なー」

皮肉屋の双子は声を合わせて委員長を追いつめる。

「待てよ! みんな真面目に考えろよ!!」

成績トップの男が立ち上がった。

「なんだよお前。こいつの肩持つのか」
「のかー」

「違う。真面目に考えろって言ってるんだよ。
 委員長が鍵を持ってるとは限らないだろ。根拠はなんなんだよ」

「だって怪しいし……」

「魔女狩りじゃないんだ、真面目に考えよう。
 全員でカバンや机の中をチェックするんだ」

全員が「ああ」と納得した。
まず真っ先にすべきことだったのに、みんな忘れていた。

「机の中のものと、鞄の中身を机に広げるんだ。
 少しでも渋ったり、怪しい動きをする人には
 こっちから調べるからスムーズにな」

親が警察官なだけあって、少年の指示はどこか高圧的。
とはいえ、的確ではあるのでみんな荷物を机に広げた。

教科書、スマホ、ゲーム機、筆箱などなどなど……。

誰も鍵は持っていなかった。

「なんでだ……? 誰も鍵を持ってない……?」

「やっぱりダメだったな」
「なー」

「いや、ポケットや服に隠している可能性がある!
 みんなペアになって服の中に隠してないかボディチェックだ!」

これには女子が猛反発。

「そこまでするの!? ありえない!」
「サイテー! デリカシーなさすぎ!」

「いや、もちろん女子は女子同士で……」

「そういう問題じゃないし!!」

女子グループの猛烈な反発には逆らえない。
結局、犯人捜しはまたふりだしへと戻された。
もう授業の時間は残りわずか。

「ああ! ちくしょうバカ野郎! 誰でもいいから出てきやがれ!!」

クラスで一番の不良が耐えきれなくなって叫んだ。

「隠し通すつもりってんなら容赦しねぇ!
 ひとりひとりぶん殴っていけば糸口もつかめるだろ!!」

さながら拷問にちかい発想。
それだけに、ひ弱な彼らには大いに効果的な脅し文句。

「おい! 早く名乗り出ろよ!」
「隠してるのは誰よ!」
「お前さっき先生と話していたよな!?」
「あれは授業の質問で……そういうお前はどうなんだよ!」
「いやああ! 私殴られたくない!」

完全に教室は崩壊した。

逃げ出そうと鍵のかかったドアにすがる生徒。
怖くなり机の下に隠れる生徒。
先生に泣きつく生徒。ケンカを始める生徒。



――キーーンコーンカーンコーーン


阿鼻叫喚の教室に間延びしたチャイムの音が鳴った。
授業終了の合図だった。

「はい、みなさん。授業は終了です」

その言葉でやっと教室は安定した。

「鍵を隠してたのは誰よ!! 早く名乗り出なさいよ!!」

「私ですよ」

先生は鍵を取り出してみせた。
生徒は不意をつかれて見入った。

「この中で鍵を持っている人を探せと言いました。
 先生が鍵を渡したなんて一言も言ってません」

「あっ……」

「みなさん、先入観でものを判断しすぎです。
 大事なのは相手の話を聞くことと……」

「なんで先生はプロテクターなんですかー」
「なんですかー」

空気を読まずに双子がツッコむ。

「鍵について一番知っているのは先生です。
 力づくで情報を先生から聞きだす可能性もあったので護身用です」

考えてみれば先生が何もかも知っている。
極端な話、先生をぼこぼこにすれば手っ取り早くわかったはず。


「この授業を通して先生が伝えたいことは、
 立場なんか関係なく相手に立ち向かえる勇気です。
 大人なるためにはそれが必ず必須なんです」


先生の言葉にみんな納得した。

「先生……! 私たち、間違ってました!」

「総合的な学習、できましたね。
 みなさんも先生のように大人になるために、
 立場を恐れない勇気を持ってください」




そこに校長先生がやってきた。

「鴨居先生、他の教室からここがうるさいと聞きました。
 いったい何をやってたんですか?
 ほかの授業を邪魔するなら減給ですよ」

「校長先生!! 校長先生に逆らうわけないじゃないですか!
 ちがうんです、悪いのは生徒なんです!」

先生は揉み手で校長先生にこたえた。
この後、教室は再度崩壊し先生はぼこぼこにされた。