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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ケツ持ち稼業! 笹塚さーーん!

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「ひぃぃ! ごめんなさいぃ!」

「ごめんじゃ警察をいらねぇんだよ兄ちゃん!!
 さっさと肩の骨の治療費出せやコラァ!!」

もめているところに、ゆっくりと歩み寄る。
コツは"こんなことも慣れてる"と見せることだ。

「あ! 笹塚さん!」

絡まれていた男は俺を見るなり顔が緩んだ。

「さ、笹塚……さん!?
 あの、いくつも暴力団をひとりで壊滅させた!?」

「おう」

いつもよりワントーン落とした声で返事する。
そして、さも意識してないように絡まれた男に声をかける。

「で、こいつ誰?」

「さ、さっき肩ぶつかったときに折れたとかで……。
 慰謝料を求められてるんですよ」

「ふぅん」

ガラの悪そうな男をじろりと見て、一言。

「もいっこも、折ろうか?」

「ごごごごごごめんなさい! 折れてません!
 お騒がせしました! 許してください!!」

さっきまでの威勢はどこへやらで男は逃げた。

「笹塚さん、さすがです!
 笹塚さんにケツ持ちやってもらって本当に助かりました」

「おう」

俺は金を受け取って去った。

心臓はバクバク鳴って、今にもちびりそうだった。
相手、めっちゃこわい。
本当に殴られるかと思った。よかったーーー。


ケツ持ち。

やくざなどがバックにつくことで、トラブルを解決する。
普通は組織などを後ろ盾にするのが多いが、俺は個人事業。

安い値段と、恐ろしい武勇伝を盾にケツ持ちをしている。

「まあ……武勇伝なんて全部うそだけど……」

昔からウソは得意で、飲み会の席で調子こいてしゃべったのが原因。
噂が独り歩きしてついには反社会勢力まで伝わった。

今じゃ過去の経歴(嘘)を引けに出すだけで、みんな逃げる。

「っと、電話か」

『もしもし? 笹塚さん!? 助けてください!!
 ガラの悪い奴に絡まれて……あ――ブツッ』

「おう」

都会で生きていくにトラブルはつきもの。
ケンカっ早い人間はごまんといる。

さて、仕事しに行きますか。

髪をキメて、眉間にしわをよせて、ドスの利いた顔を作る。
血っぽいにじみを残した服に袖を通して、いざ急行。

現場につくと、電話した男の前に土下座したおっさんが一人。

「あ、笹塚さん!」

「なんだ、もう解決してるみてぇじゃねぇか」

良かったーー!!
俺なんかケンカとかできるわけない!

穏便に解決されていればなんの文句もない。

「で、こいつ誰?」

いつものフォーマットで会話を続ける。
威厳を保つにはこのパターンが必須なのだ。

土下座おっさんは顔をあげる。

「実は……笹塚さんをお呼びしたくて、難癖をつけたんです」

「あ?」

「笹塚さんにつぶして欲しい暴力団があるんです!
 いくつもの組織を壊滅させた笹塚さんにしか頼めないんです!」

ムリムリムリ!!
それ酒の席でいった冗談だから!!

し、しかし断れば俺の仕事生命も終わる。

「お、おう……」

「声震えてませんか?」

「震えてねぇよ」

足は震えてるけどな。

「笹塚さん、やってくれますか!? お金なら出します!」

「そういう問題じゃねぇよ」

1人で壊滅させるのが無理なんだよぉぉぉ!!

発するセリフと心の声との葛藤で頭がおかしくなりそう。

「え……!? まさかただでやってくれるんですか!?
 笹塚さん……! あなたって人は……!」

「え」

「それじゃお願いします!」

「おう」

やんわり断るはずが、了承してしまった。

その帰りに、こっそり依頼された暴力団事務所に行ってみると
入口に番兵を置くほどの気合いの入りよう。

こんなところに乗り込んだら3枚におろされてしまう。

「ど、どうしよう……」

肩書きだけの強さでケツ持ち稼業をやっていた。
それだけに1回でも失敗すれば致命的になる。

俺の肩書きを疑われたら完全に廃業だ。

肩書きがなければ俺なんて、色白のひょろ人間なんだから。

「まずいまずい!! このままじゃ完全に終わる!」

追い込まれた俺は必死に頭を回す。
でも思いつかないので任侠映画を見て勉強することに。

「そうだ! 組織を対立させればいいんだ!!」

映画から作戦を思いついた。
任侠映画では組同士のなんだかわからない対立で
組員がばっさばっさと死んでいく。

組織同士を対立させて共倒れさせて、俺の手柄にすればいい。

どっちも壊滅したら、連合軍を俺一人で倒したとかにすればいい。

「よし! さっそく対立……」

そこで止まった。
どうやって対立させればいいのか。
そんな方法は何もない。

暴力団じゃないにせよ、火のない所に煙は立たない。
焚き付けるにも俺は暴力団を襲撃する勇気なんてない。

 ・
 ・
 ・

気が付けば、期限は明日にまで迫っていた。

何をどうやっても組織同士を争わせるなんてできない。
なにより、危ない場所に関わりたくない。

「もう終わりだ……。
 俺の肩書きが嘘だってばれて、今までの敵から
 ボコボコにされてしまうんだ……ああぁぁぁ……」

死を悟った俺はパソコンに自分の遺書を残すことに。
パソコンを開いたら、またアイデアが思いついた。

「そうだ……この組織をぶつければ……!!」



数日後、土下座おっさんが嬉しそうにやってきた。

「笹塚さん、さすがです!!
 あの暴力団、見事に壊滅してました!!」

「おう」

「でも、暴力団の本拠地はまっさらできれいでした!
 笹塚さんなら、抗争すらせずに収束させちゃうんですね!」

「まあな」

俺は額から出るあぶら汗を必死に抑えて話を終えた。


い、言えない……。
俺が暴力団に焚き付けたのはPTAだったなんて……。