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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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悪口ツボの底にある秘密

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その日、その家には強盗が入った。
家にいた嫁は死んでしまった。運が悪かった。

家を物色していると、変なツボを見つけた。

「なんだこれ? 遺品……でもなさそうだ」

きりの箱に入っていたので高価なものかと思ったが、
中身はなんてことのない古びたツボ。
さらには取扱説明書までついてくるという新説さ。

「なになに? これは悪口のツボ。
 どんな悪口もこのツボの中で言うと吸収されます
 ……ホントかなぁ」

ツボの口はちょうど口がすっぽり収まるサイズ感。
俺はツボを口に当てて、思い切り悪口を叫んだ。

「*************!!!!!!」

言った自分が驚いた。
かなりの大声で叫んだつもりが少しも聞こえない。
それどころか、悪口の内容も聞き取れない。
きっと中で消化されてしまったんだろう。

「こんなのが家にあったなんてなぁ」

俺はすっかりツボを気に入った。

 ・
 ・
 ・

家に強盗が入ってしばらくすると、
こんな仕事じゃダメだと思ってまっとうな仕事に就くことに。

「しゃ、社会人経験はありませんが、よろしくお願いします!」

かくして、普通の会社の社員にはなれた。
人生はいつでもやり直しがきくのだと思っていた。

でも、現実はそんなに甘くなく
もともと社交的でないのも足をひっぱり、
またたく間にオフィスの嫌われ者として地位を確立した。

「つか、あいつマジでトロくね」
「何考えてるかわからないっていうか」
「あの目、絶対人殺してるよねwwwwwww」

給湯室の前を横切ると悪口が聞こえてくる。
聞こえよがしにいっているのか、無神経なのか。

なんにせよ、社会人になったとたんに俺のストレスは急上昇。
しだいにツボを取り出す機会も多くなっていた。

「*****!! ******ーーーッ!!!!」
「*********!!!!」
「**! **! *******!!!」

ツボの中なら絶対に聞かれることもない。
大きい声を出すと、頭から怒りがすっと抜けて楽になる。

いつしかツボを手放せなくなっていた。


「でさ、今日は君も飲み会来るよね?」


そんな折、上司から飲み会に誘われた。
最初は俺をダシにした罰ゲームかと思っていたが、
どうやら話を聞くと本当に俺を純粋に誘ってくれているらしい。

「で、飲み会どう?」

「いきます! 行かせていただきます!!」

願ってもないチャンス。
普段、ツボばかりに話しかけている俺を脱却するときだ。

ここは誰よりもいっぱいしゃべって、
「面白い俺」をこの職場にプレゼンするまたとない好機!

「ようし!! 今日は語明かすぞ――!!」

俺は酒をかっくらって、積極的に自分から語りに行った。


「でさぁ、やっぱりあれはダメだよな? そうだよなぁ?」
「俺前からあいつはクズだと思ってたんだよねぇ」
「ホント、何もかもダメだよなぁ、そう思うだろ?」

必死に話しかけてに言ってるのに、しだいに俺の周りから人ははけていく。

「あれ? あれれ? おかしい……。
 なんで誰も話に付き合ってくれないんだ!?」

俺はこんなに楽しい話を提供してるのに。
まるで理解も納得もできない。

そこに上司がやってきた。

「お前……自分で原因わからないのか……?」

「わかりません! どうして、俺だけみんなから避けられるんですか!?
 俺はそこらの引っ込み思案とは違います!
 ちゃんと自分から話しかけています! ぼっちなんてありえない!!」

「お前の話は、悪口ばかりなんだよ」

「えっ……」

雷に打たれたようなショックを受けた。
言われてみると、確かに悪口ばかりを語っていた。
というか悪口しか話してない。

「悪口ばかり話すやつに、近寄りたい人なんていないぞ」

飲み会は上司の痛烈なコメントでお開きになった。
ぐうの音も出ない。その通りだ。

誰かの悪口を話すということは共犯者になれってこと。

そんなのを毎回話すような人間に、人が寄り付くわけがない。

「はぁ……いつからこんなになっちまったんだろう……」

原因はひとつしかなかった。
そう、あのツボだった。

悪口をなんでも吸収してしまう、最高の聞き役であるツボ。

これに悪口を貯めこんで吐き出すもんだから、
いつしか俺の口から出る言葉は悪口だけになってしまった。
こんな自分を変えるのは……。


「ツボを……壊すしかないっ!」

ツボをどこかに隠しても、またストレスに負ければツボに吐き出す。
そんなのを続けていればいつまでたっても悪口癖は治らない。

悪口のツボを壊して、逃げ道をふさぐしか方法はない。

「よ……よし、いくぞ……!」

ツボを割ったらどうなるか。
これまでの悪口が一気に爆発するのか。

死すら覚悟しながら、悪口のツボを地面に落とした。


ガシャーーン!!


高い音とともに悪口のツボが飛び散った。

「……あれ?」

でも、何も聞こえない。
悪口が爆発したりも警戒したが損をした。

やっぱり悪口は本当に消化吸収されていたんだ。

「これは……」

そんな中、悪口のツボの破片に紛れて、
小さな言玉(ことだま)が入っていた。

このツボの中では悪口はたちまち消化されてしまう。
でも、ツボの中に未消化で入っていたということは……。

俺は言玉を再生した。


『あなた、聞こえてますか? 悪口のツボを使っていますか?
 きっと使っているでしょうね。
 人生には辛いことも厳しいこともありますから。

 でも、メッセージを残しておきます。
 あなたが辛くなったりしたときに聞いてください。

 あなたが悪口を言う姿は、世界中の誰よりも似合いませんよ。
 素敵なところをたくさん持っているあなたですから』


未消化だったのは、素敵な言葉だったからだ。
今は亡き妻からの暖かく優しいメッセージ。

それを聞いた俺は涙が止まらなくなった。
彼女のやさしさと思いやりに感動した。



まあ、強盗に入ったのは俺なんだけどね。