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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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クリーン屋敷を体験してみた

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「クリーン屋敷……あ、ここだ」

地図を頼りにやってきたのは、クリーン屋敷体験場。
ゴミ屋敷の反対で「クリーン屋敷」というわけだ。

噂を聞いて興味があったのでちょっと参加してみることに。

「クリーン屋敷へようこそ。
 今日は1日ぴかぴかのお部屋で過ごしてくださいね」

「わぁ、なんだか気持ちよさそうだ」

屋敷は見た目からして清潔そのもの。
清潔という言葉の住所を調べると、この屋敷が出てくるに違いない。

ふと、そのすぐ横を見てみる。

「うわっ……なんですかあれ」

目をそむけたくなるようなゴミ屋敷。
粗大ごみが家の形をしているだけだ。
というか、なんで寄りにもよってこんな場所に。

「まぁ、水風呂みたいなもんです」

「……は?」

案内役が意味わかんない事言ったのはさておいて、
俺は今日一日クリーン屋敷で過ごす。
隣のゴミ屋敷のことなんて忘れよう。

「すっごい! どこもかしこもぴかぴかだ!」

フローリングは光を反射するほど磨かれている。
窓のサッシにも、ほこり1つ見当たらない。

どんなに口うるさい小姑をここに呼んだとしても
ぐうの音も出ないだろう。

「うーーん! 気持ちいいなぁ! 来てよかった!」

逆にキレイ過ぎて、こっちがゴミを出さないように気を遣う。
髪の毛一本落ちたとしても、周りがキレイ過ぎるのですぐわかる。

気が付けば、自分の汚した部分はその場ですぐにきれいにしていた。

「あはは、なにやってんだろ」

クリーン屋敷ではわずかの汚れもすぐに目立つ。
その場で掃除しないといつまでも気になってしまう。

 ・
 ・
 ・

そうこうしているうちに、体験時間が過ぎた。

「お疲れ様です。おたのしみいただけまし……あれ?
 どうしたんですか、そのお顔。だいぶ疲れているように……」

「なんか……くつろげなかったです……」

結局、クリーン屋敷でくつろぐどころか
変に気を使ってしまい掃除ばかりの時間になってしまった。
心休まる瞬間なんてない。

「はぁ、やっと念願の家に帰れる……」

家に帰ると思わず言葉を失った。
出かける前と変わらないはずなのに、ゴミ屋敷同然に感じる。

「こ、こんな小汚い場所で寝起きしていたのか……!?」

出かける前は自分なりにキレイしていたはずだが、
クリーン屋敷から見てみると落差に絶望する。

「ダメだ! こんな場所耐えられない! きれいにしなきゃ!!」

慌てて掃除して家をぴかぴかに仕上げる。
ほぼまる1日かかるほどの大掃除だったが、
これをやらない限り絶対に家には入れなくなると思った。

「よし、これで普通に過ごせるぞ」

クリーン屋敷を体験してから、潔癖症っぽくなった気がする。

最初は部屋の掃除だけ気になったが、
そこから派生して自分の手や肌も気になり始める。

そうなれば後はもうドミノ倒し。

つま先から頭のてっぺんまでアルコール消毒したり、
どこまでも清潔でないと我慢できない。

「はぁ……はぁ……これで大丈夫だ……」

クリーン屋敷に行ってからというもの
わずかな汚れにも敏感に反応してしまうようになった。
今じゃ床にほこり1つ落ちてるのは許せない。

「掃除してたらおなか減ったなぁ……なにか買いに行くか」

そこで家をでてコンビニにいくと、失神しそうになった。

「な……なんて汚さだ!! あああ! ダメだ! 気になる!」

床も棚も窓も汚れている。
もう見ているだけで耐えられない。
こんなところで食料品を買うなんて信じられない!

そこで、やっと自分の抱えた問題に気が付いた。

「ま、まずい……このままじゃ、仕事もできないぞ……!」

仕事場に行っても平常心を保てる自信がない。
下手をすれば、仕事そっちのけで掃除を始めてしまうかも。

そうなれば仕事もなくなり、お金もつきて、行きつく先は……死。

「あわわわわ……な、なんとかしないと!!
 このままじゃ日常生活もできなくなってしまう!!」

どうすれば元に戻ることができるのか。
それには間違いなく荒療治が必要になる。

どうすれば……。

そして、クリーン屋敷のことを思い出して足を運んだ。




翌日、クリーン屋敷……の横にあるゴミ屋敷から出ると
世界にある汚れなんてほとんど気にならなくなった。

「ああ、俺は今までどうしてあんなに神経質だったんだろう」

ゴミ屋敷で1日過ごすとなれば頭おかしくなりそうだったが、
逃げられない環境となれば、勝手に人間は慣れてしまう。

クリーン屋敷の後遺症はすっかり治った。

「ご利用、ありがとうございました」

ゴミ屋敷から客が去っていくと、
また別の新しい人がクリーン屋敷の方へと向かっていった。

そして、隣にたつ不衛生なゴミ屋敷を見て眉をひそめる。

「おい、どうしてクリーン屋敷の横にゴミ屋敷があるんだ?」

案内係は答えた。


「水風呂のようなものです。
 サウナの横においておけば、
 体温をいい具合に調節してくれるんですよ」