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秋上がりの女

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秋上がりの女
飛躍する週末
週末をどう過ごすか、独身女性の選択は広い。新入社員の時代は、エステと友人たちとのお喋りとであっという間に終わったけれど、年次、部門を重ねていけば、仕事も面白くなるし人間関係も多様になってくるから、週末の過ごし方が変わる。このごろ、年上の男性と共にする週末が楽しみになってきた。この変化は大きい。女の飛躍である。飛躍のために、幾人もの男たちとの出会いと別れがあった。女にいちばん大事なのは、自立、だと思うし、自立できるようになったと思える。
初秋の日曜日、男たちとデートを約束する。初秋と言えば「秋上がり」。自立とともに純米酒が好物になり、舌の味覚をフルに使って味わう飲み方に変わってきた。舌を含めて、口というものは、食欲にも性欲にも大切な器官だとわかってきた。
<<清々しい香り、豊潤な旨みと冴える切れ味。じっくりと力をたくわえ、穏やかで深みのある旨口酒>>
ラベルの見事な解説を一字一字、たどるだけで酔い心地になってくる。そして、自分がそんな女であることをたしかめてもみたくなった。新酒というものは誰にも好まれるが、ひと夏をすぎ土用を越した酒、秋上がりにも、フアンが増えてきている。
新酒がいちばんと言われて成長し、いろんな男からつけられた雑味が昇華されていき、40歳を目の当たりにした女が、「清々しい香り、豊潤な旨みと冴える切れ味。じっくりと力をたくわえ、穏やかで深みのある旨口酒」になろうとしている。30歳前後までの強迫観念、焦りとはまったく別の新たな感覚、認識を手に入れようと決めた。
女は、年上の男たちとのデートをくりかえし、急速に自己変革する自分に気が付いてもいた。気が付くとその変化を意識するよう一層の変化を自分に促した。例えば、化粧、同性とのライバル心ではなく、男性の視線を受けとめるようになった。着る服も変わった。装飾品も控えめなものから、目立つものになっていった。内と外との、螺旋的な変化であろう。しかし、まわりの男たちは、意外にこの変化の深層には気付かない。どうしたものか、疑問が生じてくる。疑問は解かれなければならないだろう。
夜の社交、飲み友達たちが、この疑問に答えてくれた。男たちは、女の変化をもちあげて褒めるのだった。居心地がよいこと、この上ない。心地よい精神マッサージをうけ、気分のシャワーを浴びて、しかも溺れることなく、機嫌よく、明日の仕事に差し支えのないよう、男たちとの夜遊びを切り上げるのだった。
年上の男性との付き合いはいつでも切ってしまえるようなところがよい。割り切れるのだ。この割り切れる人間関係、とても貴重であろう。思うに、この世の中の人間関係は割り切れないものが多い。家族をはじめ、上司、部下など、無理数ばかりである。ストレスが増えるわけだ。
割り切れると、世界は単純になる。おつきあいを大事にしなければと考えてしまうから、使う言葉にも制約がでてくる。しかし、出会いが一度きりになっても良いと思うと、心のままを表現できる。その局面では自由なのだ。自由は、自立に欠かせない要素である。
わりきるなら、恋愛も性欲も、見直すことができる。
年上の男性たちは、お金持ちだし時間がある。だから、デートには、目いっぱいおしゃれをして出かけていく。おしゃれに時間やお金がかかるが、惜しくはないお金や時間である。この好循環は気持ちがよい。もし、デートのつど、お小遣いをもらえたらと思う。
そう考えたら、娼婦というような仕事について、楽ではなさそうだが、あこがれのような気持ちも生まれてくる。毎月、あと30万、いや20万ほどあれば、もう少し高級なエステに行けるし、京都では都心の「田の字」エリアで、念願の広いマンションを借りることができる。一流企業とは言え男社会のなか、他人の二倍働く意欲、気力気持ちがないと、競争にならない。同期の男性がつぎつぎと昇進するのを見て無力感に襲われてしまうこともある今日この頃だ。年収も頭打ちになった。「ガラスの天井」が見えてくる。
年上の男性たちを飲み友達にし始めて、人生がひとまわり、ふたまわり、大きくなったように思う。知らない世界が広がっていく。昼と夜、一人二役、得をした気分である。生き方が二重構造になったように思える。夜のバーで、虚実を交えて言葉で遊ぶのだ。
この日曜日は、二人の男とデートすることにした。二人という設定はもちろん初めてだが、とても興味がある。自分の体や心がどう変化するのか試してみたかった。スポーツ選手が技術を磨いて大会に出場する気分である。
二人は、なじみのバーの常連で、くりかえし口説かれていたから、ふたりとも平等にと思ったことでもあった。なじみのバーで知り合った何人かの候補から、この二人に絞り込んだ。比較しやすい二人である、小説にもしやすいなどと、自分にうそぶいてみた。
二人の男には、それとなくセックスをにおわせた。モナコに行きたいから、お小遣いがほしいとほのめかせて、夢を告げながら、どこか割り切った付き合いであるよう、演じてみたが、この二人は女の自尊心を損なわない表現で、上手にその誘いに乗ってくれた。
メールでやりとりしながら、日曜日、都心のシテイホテルのロビーで落ち合うことにした。もちろん、別々のホテルで。京都は町中にホテルが多く、しかも小規模なので、待合わせしやすくて、人目につかないのだ。
アイフォン時代は、女性を根本的に解放した、のだそうである。米国では、車を運転する、ピストルを持つ、に続く、第三の男女平等のための武器と評価されているらしい。海外事業部の同僚の解説を聞きながらうまいこと言うと感心した。携帯は、男女平等を性の世界にも波及させ、女性が入手する性に関する情報量には男女差がなくなった。男性中心社会で受動的になりがちな女性のセックスは、大きく変化しはじめている。独身のみならず、人妻にもチャンスがもたらされた。女権拡大論者の著名な学者が提起する、妻の婚外交渉権さえ、ネットの投稿を読めばわかるように、事実上ありふれた風景と化しつつある。ましてや、独身女性の実力行使が非難されるわけがない。女は理論武装でき、自信たっぷりである。
勘違いする男
一人目は、優男。大手企業の中堅社員だろうか、楽しい男であった。三条河原町のホテルで、朝の十時に落ち合った。お昼過ぎまで付き合ってから、もう一人と夕方、落ち合う計画である。
ホテルの喫茶は河原町通に面していて、通りを眺められるのが好きだ。繁華街に面しているホテルは京都ではほとんどないから、この喫茶が好きである。午前10時と言う中途半端な時間は、男が指定してきた。日曜日なのに、早起きなのか、そうなら遊び人とは思えない。それとも家族と何か約束があるのだろうか。分析してみる。十時なら、この男と昼過ぎには別れて、一度帰宅することができる、準備して、夕方、もう一人と会う約束なので、好都合である。女は10時という男の提案に応じた。
中国人の団体客がロビーにはあふれていたが、人込みを抜けて喫茶に向かった。喫茶は、泊まり客の朝食のピークを過ぎていたから、落ち着きをとりもどし静かな雰囲気となっていた。広い店に、客はほとんどいない。人の視線が気にならない会員制の高級ホテルの雰囲気となった。
作品名:秋上がりの女 作家名:広小路博