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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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殺人音楽コンダクター

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被害者は体を動けない状態で口だけは解放している。

「お前!! 俺をどうするつもりだ!!」

「音楽の一部になってもらおうかと」

「ああ!? ここで大声出せばどうなるか……!
 おおおおい!! 誰か!! 誰か来てくれ!!!」

「いや、あの、無駄ですよ?
 この時間、この場所、この日には誰も来ないよう
 きちんとリサーチしていますから」

僕はこれでも職人気質。
最高の殺人音楽を作るのに余念がない。

「お、俺になにか恨みがあるのか!?
 だったら俺の双子の弟の方がもっとあくどいことを……」

「いえ、ターゲットは毎回ランダムです。
 音楽に一番不釣り合いなのはマンネリだと自負してますから。
 やりやすさを優先してしまっては、音楽が泣きます」

ナイフを研ぎ澄ませ、録音装置をセットする。

「ところで、あなたのお好きな音楽は?」

「は?」

「どんな曲を聴きますか?」

「しょ、湘南の嵐とか……」

「わかりました。最高の音楽をお願いいたします」

僕はリクエストされたグループの曲、カラオケverを再生する。
そして、慣れた手つきでナイフを被害者に突き立てた。

 ・
 ・
 ・

「うん、うんうん。今回もすごくいい。
 ビブラートが耳を心地よく撫でて、
 力強い悲鳴と曲が最高にマッチしている」

録音した曲を再生すると、自分でも完成度にほれぼれする。
CDに焼いて棚に入れる。
棚にはいくつものCDができていて壮観だ。

「さて、次のレコーディングに行かないと」

次のターゲットの下へと向かった。
いつも通り気絶させ、安全な場所へ運び、機材をセットする。

「それじゃ、あなたの好きな曲はなんですか?」

「助けて!! お願いよ!!」

「……そういう曲はありませんよ?」

「あなた狂ってるわ!! おかしいわよ!!」

「いえいえ、僕は人の悲鳴と曲を重ねて作る
 殺人音楽がなによりも好きなだけですよ。
 音楽が好きな気持ちは、あなたにもあるでしょう?」

これ以上話しているとスタジオ撤収時間もあるので急ぐ。

「で、あなたの好きな曲は? 答えなければ殺します」

「え、エケーイーのライトローテーション」

女のレコーディングを終えて、家に帰る。
出来立ての音声をヘッドホンで聞きながら、ゆっくり目を閉じた。
めくるめく殺人音楽の世界が……。

「あれ? この曲、前に浸かっただろうか?」

CD棚に向かってみるも、同じ曲はない。
この曲は初めてだ。
なのに、なんだろう。デジャブのような感覚は。

その答えは、レコーディングを重ねるごとに明らかになった。

「この曲も前に使ったような……」
「あれ? このメロディーどこかで……」

回を重ねれば重ねるごとに、既視感ならぬ既聴感を感じた。

被害者が選ぶ曲はどれもバラバラ。
ボーカルとして出す悲鳴もバラバラ。

でも、ベースとなる曲はどれも似たり寄ったり。

「うーーん。最近の音楽はどれも同じようなのばっかり……」

殺人音楽の魅力はどれも「まるで違う」という点。
声質も、声の出し方も被害者によって十人十色。

なのに曲がどれも「売れているっぽい曲」に寄せたものになれば
どの殺人音楽も同じような出来上がりになってしまう。

いわば、どんな料理にも大量のマヨネーズをかけたみたいな。
全部マヨネーズ味確定。

「これは……なんとかしないと!」

次回のレコーディングにはスタジオに大量のCDを持参した。
いつも聞いている「好きな音楽は?」も質問しない。

「今からいくつかタイプの違う曲を流します。
 自分が好きな曲をどんどん絞って、1曲を決めてください」

持参したCDを被害者に聞かせて、
新しい「好きな曲」を探させる方法を試してみた。
が、これは失敗。

「わかんない!! もうわかんないわよ!!!」

「え、ええーー……」

閉じ込められ、拘束されている極限状態の被害者。
かつて好きな曲を答えられることはできても、
今から音楽を楽しめる精神状態にはなかった。


この失敗をいかして、今度は被害者ではなく僕自身。
そう、殺人音楽を楽しむ僕自身の好きな曲を流すことに。

「それじゃ、今回は"パッヘルベル"でカノンのニ長調を」

「なにそれ」

クラシックを流しながらレコーディング開始。
でも、その場で違和感には気付いた。

「ぎゃあああああああ!!!!!」

「……うーーん。なにかズレを感じる……」

本人が好きでもない曲。僕が好きな曲。
どうしても被害者との間にズレが生まれてしまう。
これでは最高の殺人音楽にはならない。

まるで、タイプの全然違う歌手にカバー曲を歌われたみたいな。

「完全にスランプだ……」

僕は自分の部屋で大量の殺人CDに囲まれ頭を抱えた。
新しい殺人CDはどれも似たようなものばかり。

わざわざ手に取って聞きたくなるほどの訴求力はない。

「はぁ……でもベースの曲を変えることはできないし、
 かといってボーカルを変えるなんてできないし」

途方に暮れてしまった。
しょうがないので情報収集もかねて、音楽番組を見ていた。

入れ替わり立ち代わりで
たくさんの音楽ユニットが新曲を披露している。

「……あ!! 見つけた!! これが打開策だ!!」

僕はついに解決策を見つけた。


※ ※ ※


部屋には縛り付けられた被害者がふたり。
体は完全に固定され、口だけはふさがれてない。

「ふへは……あはははは……」

片方の被害者は完全に正気を失っている。

でも大丈夫。
正気を失う前の最初の段階で曲は聴いている。

僕が思い至った打開策は、デュエットだった。

「うん、やっぱり間違ってないと思うなぁ。
 きっといい殺人音楽ができる気がしてならないよ」

似たような曲でも、合唱ならぐっと雰囲気が変わる。
我ながらアイデアの勝利だと思う。

ただ、1つ心残りがあるとすれば……。


「俺の双子のアニキを殺したCD……あれは最高だなぁ。
 てめぇも、あれに負けないくらいの最高の殺人音楽を奏でてくれよ」

殺人音楽の魅力がわかる仲間が増えたことは嬉しい。
心残りは、新たなステージに入った音楽を聴けないことだろうか。

「まかせてください。最高の音楽にしてみせますよ」

僕は新たな音楽家に笑いかけた。
そして、痛みにのせた絶叫を思い切り奏でた。