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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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魔法文房具2つめの魔法

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「このハサミください!!」

今ではすっかり見なくなった文房具屋さん。
見た目は廃墟にも近いこの文房具屋はそれでもひっそり営業中。

「毎度ありがとうございます」

「こちらこそ。うちの子、この店のじゃないと嫌だって言うんで」

「まあ、うちは魔法つきですからねぇ」

文房具でもことさらに性能が良いものがある。
それは技術ではない。
「魔法」がかかっているからだ。

この店では古くから「魔法文房具」を売っていた。

魔法文房具の購買層はほとんどが小学生。
「魔法あり」というのがステータスになるんだろう。

「お子様も安心の魔法を2つかけています。
 1つは、誰かを傷つけたり自分を傷つけない魔法。
 もう1つは……」

「お母さん! 早く帰らないとヤッチャマンはじまるよ!」
「あ、すみません。では、また今度」

親子はあわただしく店を後にした。
次にやってきたのは、店にあまり現れないタイプの人間。

「コニチワ、わたし、あなたの文房具興味ありマス」

「ようこそ、魔法文房具やさんへ。何かお探しですか?」

「オーダメイド作ってほシイ。できルカ?」

たどたどしい日本で、客が外国人だと容易にわかった。
けれどそれで対応を変えることはない。

店主は静かに話を聞くことに。

「はい、どういった文房具と魔法ですか?」

「世界で一番インクでやすいペン作て欲しい。
 失くしても手元に自動で戻ってくる魔法ツケて。
 誤字脱字も自動修正ネ。それにそれに……」

客はなおも様々な機能をつけたした。

「わかりました。でもそれを作るとなると
 新しい魔法の開発が必要になります。時間をいただけますか?」

「もちろんネ。時間いくらカカルいい。金はいくらでも出すヨ」

店主は客のムチャぶりにも近い注文にこたえられるべく
魔法の開発にいそしむことにした。

店番に立つよりも、店の奥で魔法開発に没頭する時間が多くなった。

寝る間も惜しんで研究を続けた結果、
客の求めていた「ボールペン」を作ることができた。

「時間はかかったが、満足のいく逸品だ。さっそく連絡しましょう」

しかし、渡された電話番号には何度連絡しても出ない。
魔法は得意なものの、機械は苦手なので連絡が取れない。

「まあ、依頼されて商品を忘れるなんてことはない。
 きっとひょっこり戻ってくるに違いないねぇ」

そう信じて店主は待った。
店主は人が良すぎた。


店の魔法ハサミがごっそりなくなっていることに気づいたのは
常連の子供たちの方が先だった。

「ねぇ、なんでハサミないの?」

「え? あれれ? おかしいなぁ、最新の魔法入れてたのに」

文房具にはじめて2つ魔法を入れた新作。
それが棚からごっそりと消えていた。

「ま、まさか……」


※ ※ ※

一方、まんまと魔法ハサミを持ち出しに成功した
客……もとい、窃盗団は大笑いしていた。

「ハハハハ!! やぱり、日本人おおマヌケな!
 あんな注文なんて最初からどうでもよかタ!」

多すぎる注文に、店の奥に引っ込む店主。
そのスキをついて最新の魔法文房具を持ち出した。

素直で真面目な国民性のスキをついた作戦だった。

「この魔法ハサミを本土で売れば大儲けネ! アハハハ!!」

魔法はすべて日本語で作られる。
だからこそ持ち出す必要があった。

「さて、さそくこのハサミ使てみるか。
 本土で売る前に魔法動作チェク必要ネ」

窃盗団はさっそくハサミの刃に自分の指をあててみた。
すると、歯の表面に魔法のコーティングが発生する。

「オオ!! これなら傷つかなイ! これはすごイ!!」

感動した窃盗団は次の魔法を試した。
といっても、やり方はわからない。
なにが変化してるかもわからない。

「どうナッテル? これ魔法出てるカ?
 おかしい。魔法2つある聞いタ」

窃盗団がハサミの第2の魔法を探しているうちに、
目の前には明かりランプの車が集まってきた。


「動くな!! 魔法窃盗の現行犯で逮捕する!!」


※ ※ ※


窃盗団が逮捕されたころ、
魔法文房具やさんにはまた親子が来ていた。

「先日のハサミ、うちの子も気に入っていました。
 安全なので私も安心です」

「それはよかった。励みになります」

「それに、2つ目の魔法も親としては本当にありがたいです。
 うちのこ、ケータイ持たせても連絡しないもので」



「ああ、ハサミの現在位置を常に教えてくれる魔法ですね。
 やっぱり小学生は危ないですから。
 あの魔法も入れておいてよかったです、私としても」

魔法文房具屋の店主は満足そうに笑った。
まもなく、窃盗団の持ち出したハサミが届くころだ。