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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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カメレオン人種差別

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仕事の関係で海外に出張することになった。
無料で海外に行ける旅行気分は初日でぶっ壊された。

「ヘイ、アーユージャパニーズ?」

「い、いえす……」

屈強な黒人が目の前に立っていた。
数分後、俺の財布からすべての金がなくなった。

「ヘイ。ドゥーユーハブ、マニー?」

「の、のー! ノー!」

その後、今度は別の外国人にかつあげされた。
俺の衣服はそのときに奪われた。

「ヘイヘーーイ。アーユー……」

「ノウ!! ノーーーッ!!」

すぐに別の外国人に絡まれ、
身ぐるみはがされた後、車まで奪われた。

「うう……こんな治安悪いなんて……」

治安の悪さと、日本人=金持ちという先入観で
ここいらのゴロツキは俺を真っ先に狙っていた。

「はぁ……この先どうしよう……。
 カードはあるから金は残ってるけど、
 それも時間の問題だろうな……」

ここで生活する限り、外に出なければいけない。
そうなれば怒涛のカツアゲ3連打が再来するだろう。

失意の先で見つけたのは、『肌専門店・カメレオン』だった。

「いらっしゃいませ」

「あの、ネットで噂を見たんですが……」

「ああ、はい。外国の方ですね。
 事情はだいたい見当がつきます。
 カメレオン手術をご希望ですね?」

「まあ……」

ネットによれば、肌や顔を自由自在に変えられる
『カメレオン手術』がここで受けられるとのこと。

もし、そんなのができれば
俺の肌を黒くして、顔もこの国に合わせることができる。
金持ちの日本人として狙われなくて済むはず。

「でも、本当にできるんですか……?」

「できますよ。ほら」

店主はみるみる自分の黒い肌を、
アジア圏に代表される肌色になり、
顔つきも日本人の温和な顔に変わっていった。この間1秒。

「人種問題や差別はそうなくなりませんからね。
 海外から来た人でカメレオンなされる方も多いんですよ」

「手術お願いします!!」

俺はふたつ返事で手術をお願いした。
手術が終わると、自由自在に肌や顔を変えられる自分がいた。

「すごい! どこからどうみても現地の人だ!!」

「これからカメレオンの説明をしますね。
 まずは、定期的なメンテナンスが必要なので
 1ヶ月に1度来てください」

「そして、カメレオンは実際に肌を変えてるのではなく
 光の反射を利用して"そう見える"と偽装しています。
 カメラのフラッシュや、テレビの照明など強い光をあてられると
 一部でカメレオンに変調をきたす場合があります」

「最後に、泥棒といった悪事には利用できません。
 この技術は警察にも技術公開しているので
 悪用したところですぐに足がつきますので」


「……わかりました!」

「本当に?」

「わかりました!!」

わかってないが強めの返事で押し切った。
俺はもともと説明書など読まないタイプなのだ。

色黒の黒人となって町に出てみると、
以前のような"ヨソモノ"への視線は一切なくなっていた。

「おい、駅まではどの道に行けばいい?」

あげく、あまりに自然に溶け込みすぎて
現地の人と誤解されて道案内まで頼まれる始末。

これはすごい。

「これなら海外旅行もずっと楽しめそうだ!!」

カメレオン手術のメリットは旅行でも発揮された。
飛行機の移動時間で肌の色を変えれば、
空港に着くころにはあっという間に現地人。

タクシーでぼったくられることもないし、
どのお店に入っても白い目で見られることもない。

さらに嬉しいのは、
現地の人が同じ国という安心感から話しかけてくれる。

「ひらたく言えば、モテるということだ!!」

最初はカメレオン手術の実験もかねていた海外旅行。
いつしか目的がすり替わり、現地ガールフレンドを作るための旅になった。



幸せで順調すぎる日常が半年ほど続いたころ。

『私が大統領になった暁には黒人を国から追い出します!』
『移民してきた中国人なんて全員ゴミだ!』
『戦争に負けた日本人ごとき我が国の敵ではない!』

「ひええ、なんだかすごいな」

俺の住んでいる場所では、国のトップを決める選挙の影響で
他の民族への追い出しが過熱していた。

「カメレオンやっといてよかった……。
 こんなピリピリした環境でのこのこ外を出たら、
 たちまち投石刑か火あぶり決定だったな」

いつものように肌の色を変えて外に出た。
俺を見た女の人が飛び上がって叫んだ。


「きゃああああ!! バケモノ!!」

「え?」

女の人の悲鳴でギャラリーがぞろぞろと集まる。
その眼はどれも、最初に感じた"ヨソモノ"を見る目。

「何言ってるんですか。私は見ての通り、この国の人ですよ」

「ウソをつけ!! 右と左で肌の色が違う人間がいるか!」

「……へ?」

「さてはお前は宇宙人だな!!」

「えええええ!?」

慌てて鏡を取り出して自分の姿を見る。
顔の右から半分が黒色、左から半分は白い肌をしていた。
まるでカレーライス。

「そこの宇宙人を捕まえろ!!」
「捕まえて倒すんだ!!」

「な、なんで!? どうしてこんなことに!?」

道端の石を投げつけれながら、必死に原因を考えた。
今になって思い出されたのは店主の説明。


――定期的なメンテナンスが必要なので1ヶ月に1度来てください


「わ、忘れてた……」

半年もあの店には行っていない。
カメレオン機能が壊れてしまったんだ。

「ひーー! 助けて――!!」


「宇宙人を逃がすな!!」
「地球を守れ!!」
「変人はこの国から追い出せ――!」

追いかける過激派の人たちをなんとか巻いて、
カメレオンのお店へとたどり着いた。

「いらっしゃ……どうしたんですか、その傷!?」

「じ、人種差別という獣に襲われまして……」

店主にカメレオン手術のメンテナンスを頼むと
肌をしばらく触れてため息をつかれてしまった。

「……無理ですね」

「えええ!? ムリってなにが無理なんですか!?」

「メンテナンスをさぼったことで、肌が癒着しています。
 もう二度と昔みたいに肌を変えることはできません」

「そんな!? それじゃどうすればいいんですか!?」

「カメレオン手術を上塗りすることはできます。
 どうします? これからずっと日本人の肌になりますか?
 それとも、この国の現地人の肌になりますか?」

最後のカメレオン変化はどの肌にするか。
どうする……。

悩みに悩んだ末に選んだ結論は……。

「あの、こういった肌にしてほしいんです」

俺が選んだ肌は、どちらの肌でもなかった。
今まで試したことなかった肌だった。



数日後、俺の住んでいる地区では心霊現象の町で有名になる。

ポルターガイストはもちろん、
写真やテレビの撮影に男の影が映るというもの。

暴力や人種差別が横行しピリピリしていたはずの町も、
今では幽霊さわぎにおびえて閑静な町となった。

聞けば、治安も世界で一番いい町らしい。


「ふふふ……これも俺のおかげだな!」


透明な肌色を選んでよかった。
これからもまだまだ楽しめそうだ。