小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ギタリストに1輪のバラを 第5回 信じられない現実

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 


 そして数日後、ヒサトが通院する日が来た。この日ばかりは、タクヤに一緒に行ってほしいと頼んだ。彼は最初は付いていくのを渋ったが、ヒサトの予想外の粘りに負けて同行することにした。

 病院での待合場では、ほかの来院者たちが2人をもの珍しそうな目で見た。中には、彼らを見てひそかにくすっと笑う女性や、ひそひそ話をする女性もいた。
(だから行くの嫌だっつったんだ)
 タクヤはそんなことを考えながら、某少年週刊誌の大人気連載漫画に目を通していた。

 やがて、名前を呼ばれたヒサトはタクヤと2人で病室へ入った。ヒサトは医者と対面した瞬間、かすかな不安に襲われた。いつものように症状の様子を聞かれ、淡々と答える患者。問診のあと検査を受けるため、ヒサトはレントゲン室へ入った。準備作業をする看護助手の女性が、ちらりと彼のほうを見た。彼は「華奢」を絵に描いたような男で、白く細いウエストとへそがやたらに色っぽかったため、彼女は恥ずかしそうに目をそらした。

 レントゲン検査を終えた彼は廊下に戻り、再び名前が呼ばれるのを待った。彼の傍らにはタクヤがいたが、なぜか一言も会話を交わさなかった。数分後にヒサトの名前が呼ばれ、再び2人は診察室に入った。椅子に座った医師は、咳払いをすると口を開いた。
「浅川さんとご友人の方に、信じられない現実を告げなければなりません」
 医師の言葉に、ヒサトはおびえきった顔をしてタクヤのほうを見た。タクヤは難しそうな顔で仲間の顔を見た。
(信じられない現実…ってことはあの日、やたらに明るかったヒサトは精いっぱいの演技をしていたのか?)
「何でしょう。早く言ってください」
 待ちきれなくなったヒサトは思わず無礼な口を利いてしまった。医師は数秒間目を閉じると、立ち上がってレントゲン写真を掲げた。そして、目を開いてヒサトの目を見て言った。
「浅川さんの肺は、正常になりました」
 それを聞いたヒサトは、医者の前にいるにもかかわらず大声で
「ええっ!!?本当ですか」
 と叫んだ。
「はい。このレントゲン写真を見てください」
 医師に言われたとおり、ヒサトも自分の胸のレントゲン写真を見た。確かに、どこから見ても正常な胸である。

 患者は言った。
「これは、夢ではないんですね?」
 医師は答えた。
「はい。私も長いこと医師をやっていますが、このような症例は、あなたが初めてです」
(僕は…僕は薬をしっかり飲んでただけなのに…)
「じゃあ、完治ってことですか」
「そのとおり」
 ヒサトはすばやく立ち上がり、医師と握手をしながら何度もお礼を言った。そのあと、斜め後ろに座っていたタクヤのほうを向き、彼の名を呼んでハグを交わした。彼らの姿を目にした看護師は何を思ったのか、苦笑いしてから微妙に視線をそらせた。