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道化師 Part 4

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17


龍也が出て行き、サクヤは張り詰めていた体の力を抜く。
「サクヤはいつまでたっても龍也の前では強い兄貴でいるんだな。もう少し楽にできないのか?」
今更無理なんだよ、これが普通になってしまってるからと、苦笑する。
「龍成の前だけでいいんだ、俺の弱い姿を見せるのも見るのもね。かまわないだろ?」
甘えを見せるサクヤの色香にこんな時なのに体が疼いてしまう。
「こんな時じゃなきゃもっと甘い声を聞きたいんだがな。俺の我慢を試されてるようだな」
馬鹿と甘く囁き唇にそっと口付ける。
「そろそろヒロが来る頃だろ、支度してくるよ。」
今日は珍しくサクヤが不安を感じている気がする。それを振り切るように笑顔を残し部屋を出て行く。
俺も何だろう訳もなく嫌な感じがする。
そんなに時間を置くこともなくヒロがやって来た。
「龍成さん、何があったんだ。ミユキだけじゃなく一海までって、どういう事?」
「俺もよくわからないんだ。龍也がミユキを追いかけて学校を出て行く一海を見つけて飛び出したが、間に合わなかったと。だが、その後、一海から迎えに来いと、あいつに言われて電話をかけてきてる。場所も告げて来てるんだ。何を企んでいるのかさっぱりだ」
ヒロは自分が側にいてやれなかった事を気にしている。
「ヒロ、お前が悪い訳じゃない。これから、ミユキを迎えに行くぞ」
ヒロはこの後どうするか、自分の部下が別荘で待機している事、龍也が一足先に出て行った事、大まかな情報を聞いていた。
部屋のドアが凄い勢いで開けられ亮が飛び込んで来た。
「龍成、ミユキが連れて行かれたってのは本当か?」
「あゝ、本当だ。一海と一緒に連れて行かれた。あいつの鎌倉の別荘に向かってる」
「田所が付いていたんじゃないのか?」
「すまん、田所も襲われて病院にいる。代わりに裕二を行かせたが間に合わなかった」
亮が力無くソファに腰を下ろす。
「田所まで、何故…」
黙って側にいた俺は亮が肩を落とし項垂れる姿が辛すぎる。
「亮さん、今から二人を迎えに行くから、龍成さんの部下の人も見張ってくれてる。大丈夫、俺たちも行こう」
「あゝ、まだ遅くない。すまない、龍成、お前がいてくれて助かってる。こんな事に巻き込んで本当にすまん」
頭を下げる亮にそんな事気にするなと頭を軽く叩く。
「俺は、ヒロが気に入ってるからな。お前ばかり頼るのがかなり気に入らない。だから、送り迎えが出来て嬉しかったんだがな、ヘマをしてしまった。謝るのは俺だ、すまない」
「大きな男がぺこぺこ頭を下げあってないで、さっさと行くよ」
支度の済んだサクヤさんが呆れた顔で号令を出すように二人を叱咤する。
俺の車にサクヤたちが乗り込み鎌倉に向かう。その後ろをヒロが乗ってきた車がついてくる。多分、裕二と清水だろう。



龍也は鎌倉に向けて一人バイクを走らせていた。
一海たちはもう別荘についているだろう。安城さんが見張っていてくれてるし、俺に迎えに来いと言ったのだからそれまでは無事だと信じたい。携帯のナビを頼りに少し人気の少ない所まで来ていた。安城さんは何処か聞かないといけない。何か目印になるものを探して止まる。
龍成から聞いた番号うち、数回の呼び出しで声が聞こえた。
『龍也さん、どうされたんですか?』
龍成からでなく俺からの電話でびっくりした声が聞こえた。
「近くまで来ているんだけど、どこにいる?俺、今、タミヤ旅館って看板がある二手に分かれた所にいる」
『龍也さん、一人で来られたんですか?無茶な事を、すぐ近くですから、迎えに行きます。そこにいてください』
それだけ言うと電話は切れた。
5分もしないうちに脇道から安城が現れた。
「龍也さん、こちらです。バイクは押して行きましょう」
「一海たちはもう別荘に?」
「はい、お二人の他にミユキさんの兄ともう一人私達と同業者らしき男がいました」
「何か動きは?」
「今の所何も。わざと私達に見えやすいようにしていると感じますね、何故でしょう?その木のそばにバイクを」
俺は言われた木のそばにバイクを止め、安城の隣に屈み少し離れた場所にある別荘を伺った。
「これをどうぞ」
双眼鏡を手渡され、覗いてみる。
テラスに面した大きな窓はカーテンを開けられ、中の様子がよく見えた。一海とミユキが並んでソファに座っている。ミユキが何か叫んでいるような感じだ。
一海と繋がっていた回線を切ってしまったから、掛け直すことができず、中で何を話しているのかわからない。
様子を伺っていると携帯が鳴った。
表示は一海になっている。安城さんにそれを伝え電話に出た。
「龍也、どこ?」
「お前達が見える場所にいる。どうした?」
「龍也を来させるように言ってる。龍也が来たら帰してくれるって、でも……」
「そうか、わかったすぐに行くからと伝えて」
電話の向こうで俺がすぐに行ける事を話している。
「大丈夫だから、心配するな。安城さんも側にいるからな」
「わかった、待ってる」
電話は切れた。
「龍也さん、行くつもりですか?無茶です、一人でなんて行かせられません」
「俺一人でって言ってるし、ここで逆らったらあの二人が危ないだろ、大丈夫だから、行ってくるよ」
不安そうに眺める安城に笑いかけバイクに跨る。
「行ってくるよ、必ず帰って来るから大丈夫だよ」
二人の待つ別荘に向かい坂道を走らし、別荘に着くと前にバイクを止め、一応呼び鈴を鳴らす。
俺が到着した事を一海に知らせる為にも。
安城が同業者だと言っていた男がドアを開け俺は中に通された。リビングのソファに一海を見つけ駆け寄る。
「一海、大丈夫?」
「龍也、二人とも大丈夫」
龍也が目の前に座る男を睨みつけると、その男は穏やかに微笑みを浮かべた。
「一海君には何もする気ありませんから、連れて帰って頂けますか?」
もっと冷淡な男だと聞いていたのに、今のこの男からはそんな感じが伺えない。
「それなら何故連れて来た?」
「一海君がいればヨシユキも大人しくしていますしね。ヨシユキが自分から私の所に帰って来るでしょ」
「何が自分からだ、ヒロだけじゃなく田所さんまで傷つけておきながらふざけるな」
俺が口走った言葉に初めてヒヤリとする笑いを口の端に浮かべた。俺は、罠にはまったと、ヒロの事も田所の事もミユキには伏せていたから、今初めて聞いた事実にミユキの顔が青ざめて行く。
「龍也さん、一海君連れて帰ってくれないかな?もう必要ないから、はっきり言って、もうおままごとのような家族ごっこに飽きちゃった」
立ち上がり振り向いたミユキの言葉は俺たちを騙していたんだよって言っているのに、なんて悲しそうに微笑むんだ。その瞳はお願いだからと懇願する切ない瞳。俺がここに一海と残っても何もできない。それなら、一海を連れ、安城の所でヒロの到着を待つ方が良いと判断した。
「わかった、一海は連れて帰る。ミユキ、お前は・・・・」
俺の言いたいことが分かったのか首を横に振り、オロオロとする一海にバイバイと微笑む。俺はバイクの後ろに一海を乗せ安城の所に急いだ。
俺たちの姿を捉えた安城が駆けて来る。
作品名:道化師 Part 4 作家名:友紀