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道化師 Part 3

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13


亮さんと二人でいるのは初めて、いつもヒロが側にいてくれるから。緊張している自分、この人はヒロを抱いた人、ヒロが一番尊敬する人。僕は二番目。
「ミユキ、ヒロにとってお前は一番だからな、そんな顔するな」
ソファで膝を抱える僕の心を読んだ様な言葉。
「だって……」
こんな複雑な思い上手く言葉に変えられない。
「俺はヒロにとって親みたいなもんだ。疲れた時や悩んだ時に体や心を休める場所なんだよ。俺は、その場所に変わらぬままいてやるだけ。ミユキは違うだろ、ヒロと肩を並べ一緒に外に飛び出して行けるじゃないか、ヒロと同じ様にお前も疲れたら帰ってきていいだからな。もう、家族だって事、忘れるなよ」
嬉しくて涙がボロボロ頬を濡らしていく。
「おいおい、ミユキも泣き虫だな。ヒロもよく泣くけど、ミユキの方が上だな」
ヒロの泣き顔、そう言えばよく見るようになったかもしれない。知り合った頃のヒロからは想像もつかないが、意外と寂しがり屋だとわかった。
「出会った頃のヒロは無表情で可愛げのない子供だったけどな。今は可愛いだろ?」
「はい、亮さんといる時は特に子供っぽくなりますね」
思い出してクスクスと笑ってしまった。
「ミユキも俺たち大人に甘えろよ」
僕の知らない中学のヒロの素行の悪かった頃の話やら、色々話してくれる。ヒロも苦しんだ時があるからこそ、僕の痛みもわかる。パズルの欠けたピースをお互いに補い合い成長していけばいいと、僕の心に勇気をくれる。

そんな時、玄関で何か音がした。
二人の間に緊張が走った。

「僕が見てくる」
「ドアは開けるなよ」
わかったと廊下を行くとドアの新聞受けに封筒が入っている。
僕宛の手紙、見覚えのある字、ゾクリと寒気が走る。
『ミユキ、必ず迎えに行くから待っていなさい。草薙君が生きている姿で会えるか楽しみだよ』
震えが止まらない、立っている事も出来ず座り込んでしまった。
僕のせいでヒロが危ない、兄さんは僕を取り戻す為に……生きている姿でって、ヒロを…どうするつもりなの?もう、終わりにしたい、お願いだよ。
ここにはいない兄に懇願する様に呟いていた。
戻ってこないミユキが心配になり見に行くと、廊下に座り込みぼんやりとしている。その手には何か白い紙が見えた。
「ミユキ、どうした?」
亮の声も聞こえていない様にぼんやりとしたままのミユキ、手から手紙らしき物を取りその内容に怒りを抑えられない。
「ミユキ、リビングに戻ろう」
肩を抱き起こし促すと感情が抜け落ちた人形の様にフラフラと歩く。
さっきまで笑みを浮かべ未来を思い描いてた姿がたった一通の紙切れで泡と消えていく。

亮の所に直接入れられた手紙、ここも安全ではないのか。
手紙の内容が気になった、ヒロにメールをしておく。襲われたとしてもヒロに勝つには余程の手練れでないと無理だろうが、用心し過ぎることはないだろう。
数回の呼び出し音の後、不機嫌なサクヤの声に
「龍成の携帯に何故お前が出るんだ?」
『龍成は会議だ。何だ、用事があるなら早く言ってくれないか?』
「かなりご機嫌斜めだな、ミユキに脅迫の手紙が来た。ターゲットがヒロとミユキだ」
『手紙?郵便受けに入っていたのか?』
「いや、玄関の新聞受けだ。ここも安全ではなくなったと言うわけだ」
『わかった、ヒロたちは俺が迎えに行く』
「ミユキは今日はここにいる。学校休んでるからな」
『見たのか?』
「あぁ…」
サクヤの舌打ちが聞こえた。
「龍成といるようになって口が悪くなったな」
『煩い、亮はミユキを龍成の家まで連れて来れるか?』
やっぱりそこだよなとため息が溢れた。
「大丈夫だ、店は休む。悪いが魁斗に来るように言ってくれるか?ヒロから連絡が入るだろうから頼む」
『わかった、直ぐに連絡するよ。亮、大丈夫か?』
「あゝ、大丈夫だ。ミユキがちょっとな、ダメージが酷い。俺だけでは下手に動けんからな。ヒロを頼む」
サクヤとの電話を終えると、待っていた様にヒロからの電話が鳴った。
『亮さん、何があったんだ?』
「ヒロ、龍也と龍成のところに行ってくれ。お前達はサクヤが迎えに行くから、学校から出るな」
『ちょっと亮さん、何がどうなってるんだ、説明しろよ』
「ヒロ、ここに脅迫紛いの手紙が届いた。龍成の所に避難するだけだ。心配するな」
『ミユキは?ミユキは大丈夫なのか?電話に出してくれ』
「ヒロ、ミユキは大丈夫」
大丈夫と言いながらもソファに座るミユキは大丈夫とは言い難い。瞳からは光が失われ、息をしているのかも疑わしいほど蝋人形のような姿。
電話の向こうからは俺を呼ぶ声がしてるが、後でなと電話を切った。
ヒロ達の部屋に行き、ミユキのコートを持ってくる。今は魁斗を待つしかすることがないのはわかっているが、手紙のかなり危ない文句に、どうしようもない不安を感じる。

身動ぎひとつしないミユキの肩にコートをかけ、抱きしめる。腕に暖かいし、微かだが息遣いも聞こえる。体からは生きてる証を感じるが心からは何も感じない。
全てを拒絶することで自分を守っているのだろうか。



昼休みに亮からメールが入っているのに気がついた。ミユキと二人だけを置いてきたから、心配の様な不思議な気持ちでミユキの声が聞きたいと休みを待ち兼ねて廊下に飛び出したのに。
『ヒロ、学校を出るな』
不安を感じるメール、何度電話しても話し中。やっと繋がれば脅迫紛いの手紙?龍成の所に避難?ミユキの声が聞きたいと頼んでも大丈夫と電話を切られ、要領の得ない内容にイライラする。ホントにミユキは大丈夫なのか?亮の言葉が信じられない。
「ヒロ、怖い顔で何かあったのか?」
携帯を握りしめ睨み据えるように立ち尽くすヒロに龍也と一海もミユキに何かあったと悟った。
「龍也、サクヤさんが迎えに来るそうだ。学校を出るなって」
それだけ言うとヒロが背中を向け廊下を歩いて行くのを龍也が追いかけてきた。
「おい!ヒロ、何処に行くんだ?ミユキの所か?それなら俺も行くからな」
龍也には一海がいる。
「頭が痛いから保健室で寝る。ミユキには亮さんがついてるから、大人しくしてるから、心配するな。少し一人にしてくれ、落ち着きたいだけだから」
龍也もしぶしぶわかったとしか言えない。
「一海、ごめん。龍也と一緒にサクヤさんを待っていてくれ」
一海は、は~いと軽く返事をして龍也の腕を取り、食堂に向かい始めたが、一人駆け寄り
「危ないと思ったら逃げてくださいね。思うままに」
と微笑み手を振り龍也の元に戻った。一海はぼんやりとしているようで、案外龍也より聡いかもしれない。
二人の後ろ姿が廊下の角を曲がるのを待ち、すぐさま学校を飛び出した。
作品名:道化師 Part 3 作家名:友紀