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白と黒の天使 Part 3

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Episode.3


店が少し混み始め、勝美さんが軽く家で飲み直しやと言うと、愁達もスッと立ち上がり、店の出口に向かおうとする。
「兄さん、僕も行っていいの?」
頷いてくれて僕はホッとした。
「可愛い二人をお外真っ暗やのに帰らすわけないやろ。遠慮せんとついておいで」
光一さんの軟派なセリフにまっちゃんは、余計に不安そうになっている。
店の外に出ると、勝美さんが車を取りに駐車場に一人向かった。
「光一さん、何処で?」
愁が僕の腰に腕を回したまま不機嫌な声を出している。
最近では僕と光一さんが仲良くしていても此処まで不機嫌じゃ無いのにと思うと僕は俯いてしまう。
「愁、ええ加減にせんかい、男の嫉妬は醜いで。友紀ちゃんが悲しそうにしとるやないか」
アホがと愁の頭をポカリと叩いている。愁が嫉妬って誰に? 光一さん?今更?僕は愁の考えてる事がわからなくなってきた。
光一さんに怒られ不貞腐れる愁の視線はまっちゃんに向けられ、ビビリのまっちゃんは、泣きそうになってる。
「愁、まっちゃんを睨むな!」
愁の嫉妬がまっちゃんに向くなんて思いもよらなかった僕は、慌てた。
だって、まっちゃんは僕より小さくて可愛い容姿、どんな風に考えれば僕と何かあるなんて思えるんだ?
「兄さん、まっちゃんは友達だよ。それにまっちゃんには、好きな人いるんだから」
僕が呆れたと頬を膨らませると、ごめんと掠れた声が聞こえた。
なんとも情けない空気の漂う中、勝美さんの車が止まる。
「どないしたんや?辛気臭い空気やけど?」
我関せずと煙草を吹かしていた周が溜息を溢す。
「愁が友紀を困らせただけ、いつものアレ」
勝美さんはまたかいなと笑っている。
僕から離れない愁は、機嫌が悪いと言うより、拗ねている感じ。子供みたいと思うと笑みが自然と溢れる。
「愁は友紀ちゃんの事になるとポーカーフェイスがグズグズやな」
そんな揶揄いを投げ、隣に座るまっちゃんの肩に腕を回し戯れつこうとしてる。
「光一さん、まっちゃんを虐めないでくださいね」
目をウルウルさせ困り顔のまっちゃんを優しげに見つめる光一さんは、まっちゃんが気に入ったみたい。
「可愛いやんか、俺、恋人にしてくれへんか?」
なぁ~してやとまっちゃんに言い寄っている。
「光一さん、駄目だよ。まっちゃんは心に決めた人いるんだから」
ネェと同意を求めるとまっちゃんは小さくて頷く。
「まっちゃんが好きなんってどんな子?俺よりカッコええんか?」
そこでなんで可愛い女性じゃないんだ?と僕は突っ込みたくなるが、まっちゃんの憧れの人は男だから口に出して言わない。
僕も詳しくは知らないけど、まっちゃんが写真に興味を持ったきっかけで、大切に持っている拠り所なんだと話してくれた写真を撮った人らしい。チラッと見た感じ、光一さんの撮った写真に雰囲気の似た感じだった気がする。
雑談しながらも車は、光一のマンションに向かっていた。勝美さんの隣、いつも賑やかな周が口を開くことなく静かな事に、僕は不安を感じていた。

光一さんのマンションはかなりハイグレードで溜息が溢れそうな洗練された趣味の良い部屋、白い壁に程よく飾られた写真が、部屋のシックなイメージを引き立たせ、流石だなと益々尊敬してしまう。
隣で凄いなあと感嘆符付きで吐息を零していたまっちゃんは、壁に飾られたひとつの写真を凝視していた。
「まっちゃん?」
その写真は太陽が昇り始め雲の隙間を縫うように陽が広がり、地上は霧が町の半分を覆い、陽が射した所から息を吹き込まれたように町が蘇っている様な光一さんらしい写真だった。
「凄いなあ」と隣を見るとまっちゃんの見開いた瞳から涙がポロポロ溢れ頬を濡らしていた。
そんなまっちゃんを僕は初めて見た。悲しい様な嬉しい様な切なそうな……。
「まっちゃん……」
僕の声に視線を向けたまっちゃんは、「夢のようだ……」と囁きほんのりと微笑んだ。
「友紀ちゃん、まっちゃん、ココア入れたる、こっちにおいで」
光一さんが僕たちを呼んでる。まっちゃんに大丈夫かと首を傾げると、うんと頷き、目元を拭った。
擦ったら赤くなると、僕はその手を取り、胸に抱き込んだ。僕の腕の中にすっぽりと収まるまっちゃん。
「僕の服で拭いちゃって」と耳元で囁くと腕の中で微かに頭が動いた。
僕の後ろでみんながウッと息を飲み、愁が怒りの炎をメラメラさせていたなんて呑気な僕は、振り返った瞬間青ざめた。まっちゃんはヒィと引きつけを起こしたような声をあげ、僕の背中に隠れた。それが火に油を注いだとは、嵐は問題の写真の話になっても収まらず、かなりみんなの神経を苛み、まっちゃんに至っては死にそうな程の被害を被っていた。
僕は、当然、愁の機嫌を直そうとアレヤコレヤと声をかけ、擦り寄り頑張った。でも、それはしたくても出来なかった事をしているにすぎない僕は、嬉しくて甘え放題。愁を怒らすと僕は甘えられるという図式が僕の中に出来上がってしまった。

まっちゃんの携帯から問題の写真のデータをもらった勝美さんは、画像処理はある程度出来るがどうするんだ?と何故か僕と周に視線を向ける。僕が感じた様に勝美さんも周が何か知っていると思ってるみたい。
「問題のデータの前後大幅に処理してくれないか?」
周が、少し考えその周りの状況を見たい、と言う。
「吊るされてるのが誰かじゃないんだな、犯人らしい人物を探せばいいんやな。やってみる。まっちゃんもう一回見せてくれんか?」
光一さんも加わり、移したデータを処理し始める。
「友紀、お前も知ってるのか?あれが誰なのか?」
愁が、不安そうに僕をみつめる。だから、この前の出来事を話し広海のいる生徒会が動いているらしい事を告げる。
「周、広海から何か聞いてるのか?」
珍しくイライラしている周。
「相談されたな。大人に相談すべきか、悩んでいるだが。かなり悪質だからちょっと俺も調べた、やばい筋が裏にいるみたいなんだ」
かなり辛そうな表情に、親父に相談するべきか?と肩を抱き聞く愁に力無く首を横に振る。
「周兄、広海は大丈夫だよね」
僕はこんなに頼りなげに俯く周兄を見た事無くて戸惑っていると、周は大丈夫だと僕の頭を撫ぜてくれる。
「お前ら仲良しなんはええけどな、お前らだけで解決しようなんてあかんで、俺ら大人がおるんや、上手いこと利用せんかい」
僕たちが話しているのを後ろで作業をしながら聞いていた光一さんは、大人びた子供が悩んで落ち込んでる姿に呆れもするが、その一生懸命さが微笑ましくもあるけどなと、苦笑いしてる。
「光一、これ見てみ、なんやカメラかビデオやと思うで、こいつら映像流してんのとちゃうか」
その言葉にみんなが作業してる勝美さんのPCを覗きこんだ。
「周、広海呼べ」
光一さんは、意に沿わない映像をすごく嫌う。その表情は整った顔だけに背筋が凍るほどの怒りを感じる。
カメラのような物の周りに人影を探し、松ちゃんのデータを念入りに目を通す。
流石にプロ、いろんな方法で細かなデータを解析していく。まるでテレビでよく見る科学捜査班のようだと僕は、この人たちって凄いと改めて思った。