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子供でもいいかもしれない

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探り合い



 毎日、フロアーでテーブルの間を行ったり来たり、ただ何も考えずオーダーされた物を運ぶ作業に時間が過ぎていった。
この店で働くようになって、一ヶ月、この店が会員制だということを知った。
従業員は俺を含めて3人。
受付のモトさん、ボーイのアキラさん。二人とも20代後半で、なかなかの美丈夫だ。
訪れる人たちは常連の人ばかり、穏やかな時間を求めやってくる感じだ。
たまに木島はピアノに向かい、気ままにジャズを奏でる。その音は心にそっと忍び込み癒していくような、穏やかで優しい音色。あの野獣のような木島が・・・と、初めて聞いた時の俺はポカンと呆けた顔をしてしまった。
いつごろからだろう、俺が木島に指図をされなくても仕事をこなし、生意気な口を利かなくなっていったからだろうか、木島は俺をからかう事もしなくなった。
俺が仕事に慣れて安心したのかと思っていたのに、俺を見る顔つきが段々厳しいものになってるような気がするのは、俺の考えすぎだろうか。
凄く気になる。愚痴も言わず俺なりに真面目に働いていると思うのだが・・・
ちょっかいをかけてきていた時の方が、木島の視線や行動に意識を傾ける事はなかったような気がする。
今は、気になって仕方ない。
そんな俺の態度が変だったのか、雨で客足も途切れたため店を早仕舞いした夜、木島はカウンターから背を向けたまま、店に残るように言ってきた。
 片付けも終わり、モトさん、アキラさんが連れ立って
「オーナー、お先に失礼します。おやすみなさい」
「あぁ、気をつけて帰れよ、明日休みにするからゆっくり休め~」
「えぇ~また休むんですか~」
「アキラ、またとはなんだ!お前だってモトとゆっくりしたいだろう?」
木島はアキラさんを冷やかしながら、店の鍵を手の中でくるりと回した。
「おい!モト、店の鍵だ。明後日、ピアノの調律にタモツが来るから開けてやってくれるか。俺は用事があるから9時ごろになりそうだ」
モトさんは木島から鍵を受け取り
「解りました。あの人が珍しく休みなんですか?」
木島をからかう感じでモトさんが言った。その言葉に木島は余計な事をと、睨みつけたが、モトさんはそんな視線をさらりと受け流がす。

きょとんと二人を見ていたアキラの腕を掴み店を出て行きかけ、ドアに手をかけたまま
「では、お疲れ様。久しぶりだからと張り切り過ぎないように・・・」
にっこりと笑顔付の挨拶を残してドアが閉まる。
ドアには、おしぼりがばさりとあたり床に落ちた。
木島が投げたのだろう・・・そんな大人気ない木島を俺は初めて見た。俺がずっと見ていたことに罰の悪い表情を少し残し、
「そこに座れ!」
と、不機嫌な照れたような声で命令する。命令口調で言われたのに俺の口元はニヤリと緩んでいた。
俺の中の緊張が一瞬途切れた。
だが、木島の最初の言葉は俺の予想していた言葉とは違っていた。
「ヒロ、お前・・・男に抱かれてると安心できるのか?」
何を・・・唐突に・・・
返事のない俺にかまわず
「昨日、龍也に会った。心配してたぞ!お前まだホテル通いをしてるそうじゃないか。何が足らないんだ?快楽だけか?それとも人肌のぬくもりか?」

龍也・・・余計な事をと思ったが、最近は龍也を避けるように一人になることが多かっただけに、不審を抱かせた俺にも迂闊だった部分はある。
しかし、ホテル通いと思われていたとは・・・・笑える。今の俺にそんなことが出来る時間がどこにあると言うのか・・・。
龍也といる時に、携帯に別れた男からメールがあったりした事も・・・。疑われても仕方ないか・・・と、それにしても人肌が恋しいなどと思ったことなかったが、そんな風に見えているのか?
物思いにふけっている俺をただ興味深げに見ていた木島は、

「俺の勘違いだったみたいだな!龍也を避ける理由が他にあるってことだな。一人で抱え込んでいたいことか?それとも、龍也にだけは知られたくない事か?」

鋭いとこを突いてくるよな~~この男・・・

「そうだな!あんたになら言ってもいいかもしれない。聞き流してくれてかまわない。」
「そうか!その答えでなんとなく解った。避けてる龍也、そして一海もか、二人には、ってことだな」
「まぁな」
「どっちに片思いだ?達也か?否、違うな!一海か?」
「嫌な男だな、あんたは!少ない言葉から正解を引き出してきやがる」

心の内を何もかも見透かされそうで、イライラしてくる。
俺を見つめる木島の鋭い視線から逃れるようにカウンター内に入り、グラスに氷とブランデーを注ぐ。
グラスの中で氷がカランとお互いを探り合う二人の間で軽い音を響かせる。

作品名:子供でもいいかもしれない 作家名:友紀