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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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飯テロリストのバッドエンド

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日本人の平均食事時間は30秒。

「食事? ああ、あれね」
「栄養補給でしょ? それ以外に何があるの?」
「別に楽しみとかじゃないよ、食事だもん」

忙しすぎる現代人は食事の時間を取らなくなり、
より効率的に。
より効果的に。

行きついた先がゼリー飲料による食事が一般化していた。

「我々はそんな食事離れした連中に、
 飯テロを行うテロ集団『Q-Shock』である!!」

「「「 おぉーー!! 」」」

テロ前の決起集会で俺は声を張った。

「みんないくぞ!! 飯テロを仕掛けるんだ!!」

その日、無差別飯テロは空港で行われた。


「……なにかいい香りしないか?」
「この香りなにかしら……おなかが減ってくる……!」

ウナギのかば焼きの香りに空港が包まれる。
このにおいをかいでお腹が減らない日本人はいない。

続いて、作戦2。

空港のネット回線をジャックし、
スマホの画像においしそうな肉の画像を表示させる。

「なにこれ?! おいしそう!」
「ちくしょう! お腹がへっちまう!!」

飯テロは大成功。
誰もが忘れかけていた食事の醍醐味を思い出すはずだ。

そして、作戦3は……。

「テロリストだ!! 飯テロリストだ!!」

「ちぃ! 特定栄養食品委員会か!! 引き上げるぞ!!」

飯テロは完全に遂行されることなく、空港を去った。
味トに戻ってからも、メンバーは不満げだった。

「委員会の奴らが来なければ、もっと飯テロできたのに」
「くそっ……あと少しのところで……」

食事の楽しさ、嬉しさをもっと多くの人に広めたい。
けれど、より効率的かつ迅速に食事をするべきとした
『特定栄養食品委員会』とはかねてから対立していた。

「リーダー、どうしますか?
 この地域は委員会の奴らにマークされています。
 新しい飯争地域を探した方が……」

「いや、まだた。テロはこの地域で行う」

「し、しかし! リーダーもご存知でしょう!?
 委員会の奴らは、Q-Shock対策に本部をこの地域に移動させて……」


「その本部を狙う」

俺の一言で、メンバー全員の顔が変わった。


「みんな思い出せ、小学生の時の給食の時間を。
 献立を見て一喜一憂しただろ? プリンを取り合ったじゃないか。
 それがいまじゃどうだ」

「ゼリー飲料のパックひとつで、味が変わるだけ。
 そんなもの、飽きないだけで楽しいものじゃない。
 俺たちはそれを変えるために飯テロリストになったんだろ!!」

俺の大演説に、失いかけていた情熱の火がともる。

「そうだ! やってやろうぜ!」
「本部の連中に飯テロしかけてやるんだ!」
「見てろ! 俺たちの強さを!」

数日後、作戦は決行された。

「社長! 大変です!! 本部の窓に大きな天丼の横断幕が!!」
「なにぃ!?」

高層ビルには長い長い横断幕が広げられた。
香りすら感じそうなおいしそうな丼の絵がついている。

「じゅるっ……はっ! これは飯テロリスト!?」

社長は慌てて内線をかけようとしたが通じない。
受話器から聞こえてくるのは、油で揚げるコロッケの音。

「ぐぅ!? 飯テロか!!」

秘書はすでにお腹を減らしてその場にへたり込む。
作戦通り、Q-Shockのメンバーが社長室になだれ込んだ。

「動くな!! 少しでも妙な動きをすれば、
 炊き立てごはんのにおい弾を発射する!!」

「くっ……! いったい何が目的だ!」

「この飯争地域からの退却をしてもらおうか。
 お前らが統治するかぎり、この地域の人々に食事の楽しみはない!」

「食事の楽しみ……か」

社長はなにか思い出したように目を細める。

「ああ、私も久しく忘れていたよ……。
 部活帰りに寄った定食屋のおいしさを」

「それじゃ……」

「料理もしなくなり、いつしか失敗が怖くなった。
 できそこないのマズイ料理を作るくらいなら、
 時間をかけずに、平均的な味を出せる方がいい、と」

社長はふらふらと歩き出して、社長椅子に腰かける。

「……だが、こんな世界は確かに間違っている。
 私たちは食事の楽しみというものを忘れていたのかもしれないな」

「やった! この地域から出てってくれるんだな!」

下っ端の声に俺はすぐ反論した。

「……いや、その必要はない」

「リーダー!?」

「俺たちをわかってくれたんだろ?
 だったら出ていくことなんてないじゃないか」

「いいのか? 私どもは君たちを目の敵にしていたんだぞ?」

「俺たちはテロリストだ。体制を変えられればそれで目的は完了する。
 あんただって、食事の楽しみを思い出したんだろ?」

「ああ、もちろんだ。
 今度からわが社は単に味を買えただけの食品は出さない。
 ちゃんと食事できるものに切り替えるよ」

飯テロメンバーは納得したようにうなづいた。

「だったら、俺たちはこれまでだ。
 俺たちに変わって、食事の楽しさをもっと広めてくれ」

「もちろんだ」

かくして、数年にわたって続いた飯テロリストと
特定栄養食品委員会との激しい鮮争は終わりを迎えた。

「きっと……いい食品を作ってくれるさ。食事が楽しくなるような……」

俺は最後にビルを見上げながらつぶやいた。




数日後、委員会は新しい食品を出した。

『食事の楽しみも味わえる、新商品!!
 キャロリーメイトカレー登場!!
 ご飯味のゼリーに、カレー味のゼリーを垂らすだけ!!』


「食事が楽しめるようにって……こういうことじゃねえぇええ!!」

飯テロリストは再び出動することとなった。