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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅴ

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「そうですけど……、そんな人が幕の副長なんて、同じ空の人間として恥ずかしいですよ」
「気持ちは分からなくもないが、CS(空自の指揮幕僚課程)に行こうかという者が、思ったままを軽々しく喋るようではいけない」
 片桐は不服そうに口を結んだ。春に指揮幕僚課程の選抜一次試験を受けた彼は、一週間ほど前に、日垣から合格の報を受けたばかりだった。その時は「有り得ない奇跡」と上官の前で大騒ぎしていたが、ひとしきり感情を発散した後は、時間を惜しんで勉学に励むようになった。八月下旬に予定されている二次試験に向け、純粋な希望と期待感を静かに募らせる彼にとっては、自分が目指す教育課程を出ながら尊敬に値しない言動を取る高級幹部が、許しがたい存在のように感じられるのだろう。

「別に、空同士とか、そんなん関係ないだろ? それに、自慢できる1等空佐殿がここにおられるし」
 小坂は、自分より五歳ほど年下の片桐に陽気に笑いかけると、日垣のほうにずんぐりした身体を向けて、姿勢を正した。
「私が先ほど言った『噂通りの人』というのは、日垣1佐のことです。防大の同期で空自に入った人間に、私がここに異動する話をしたら、とても羨ましがられたんですよ。素晴らしい人の下で勤務できる、と言われて。その時はよく分からんかったですが、同期の言うとおりです。こういう方にご指導いただけるとは、本当に光栄です」
「急に何なんだ。おだてても何も出ないぞ」
 居心地悪そうに髪に手をやる日垣の横で、宮崎が、わざとらしく口元に手をやりながら、奇妙な目つきで小坂のほうを見た。
「ちょっと、今頃うちの部長の魅力にお気付きなの? 僕はここ来て1時間で惚れちゃったわよ」
「それ、どういう意味に取ったらいいですかね?」
 オネエ言葉にたじろぐ小坂に、一同が失笑する。その中で、片桐だけがにわかに立ち上がり、1等空佐をまっすぐに見つめた。
「おだてとかじゃないです。本気でそう思ってますから」
「片桐まで急にどうしたんだ」
 日垣はいよいよ困ったような表情になった。しかし、直轄チームのベテラン勢は、温かな笑みを浮かべて、彼らの会話を静かに見るばかりだった。皆、片桐と同じ思いなのだろう、と美紗は思った。