小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

未来は嘘をつく

INDEX|7ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

相変わらずって言われていた



神崎ナースがナースステーションに戻ると、いつもと変わらず、個室の病室は、静かだった。
贅沢なことだけれど、相部屋のほうがたぶんこんな時は賑やかで、少しそんな雰囲気を羨ましくも思っていた。
一人っきりの病室で、日曜の午後のテレビの音を聞きながら、僕は、さっきまでいた初恋の彼女との不思議な感覚を思い出していた。
久しぶりの再会の彼女は、昔ながらのイメージでもあり、それでいてまったく違った彼女にも思えていた。それは、単に今まで僕が彼女とまともに話したことも無いってことが理由だったかもしれないし、彼女のことを良く知っているつもりで、本当は何一つ知らなかっただけだったのかもしれなかった。
ただ、間違いない事は、僕の初恋の子は、今もすごく魅力的な子だった。
今日が彼女との初めての出会いだったとしても、その想いは同じような気がしていた。

そんな彼女がラインで連絡をくれて、病室にやってきたのは5日後の金曜日の夕方だった。
病室に現れた彼女は、真っ白な半袖シャツにGパンと赤いバックスキンのスニーカーだった。
手には、大きなトートバッグを抱えていた。
「夕飯って6時だよね。ネットでこの病院の食事時間調べちゃった。病気じゃないんだから何を食べたって平気なんでしょ?いろいろ作ってきたから迷惑じゃなかったら食べてみて。好き嫌いはわからなかったから、嫌いなものがあったら残しちゃっていいからね」
言いながらバッグから、かわいい柄の布に包まれたタッパーを4っつも取り出していた。
「そんなにいっぱい作ってきたの?」
タッパーの大きさと数に少し驚いていた。
「残ったら、冷蔵庫か、それが嫌なら持って帰って私が食べちゃうから大丈夫」
笑顔で言われていた。
「うん、うれしいです。もう少しで食事を配りに来るから一緒に食べるね。角川さんも食べていけば。ごはん半分分けてあげるからさ」
あと10分ぐらいで廊下にワゴンの音が響いて、味気ない器に乗った食事がやってくるはずだった。
「私はいいよぉー。彼女でもないのにそんな事したら変だもん」
笑顔で顔の前で小さく手を横に振りながらだった。
「ご飯一緒に食べるのって、別に彼女じゃなくても平気だと思うけど・・デートでディナーってわけじゃないんだし・・」
少し笑顔で答えていた。
「あぁーあ、森山君って相変わらず女心ってわかんないんだなぁー・・」
小さく首を振りながら、もう少しでため息って感じだった。
「なんだそれ」
「いいのいいの、それもまたいいから・・」
わけのわからない返事をされていた。
「そっちこそ、彼氏に怒られないの?夏休みだから時間あるかもしれないけど、こんなとこ来ちゃって・・お弁当なんか作って来ちゃって・・」
言い返していた。
「どうだろうねぇー・・ねぇ、どう思う?」
速攻で、聞き返されていた。
「そんな事わかんないよ。彼氏の事全く知らないし・・どんな性格かもわかんないし・・」
同じ大学の同級生だってことはこの前に聞いていたけど、会ったこともないんだからって思っていた。
「そうじゃなくて、森山君だったらどう?ってこと。わかってる?森山君が私の彼だったらってことよ」
言われてびっくりしていた。
「えぇーえ、考えたことないし・・」
「今、考えるに決まってるでしょ。さてさて、どうですか?森山君」
なんだか、尋問されているようだった。
「うーん。いい気分じゃないかも・・でも、さ、そういう優しい彼女で嬉しいかも・・うーん。どう?そういう子だから好きっていうのは・・」
なんだか、答えながら何を言ってるんだかって思っていた。
「へぇー そういう模範解答ね。だから、相変わらずなんだって・・」
なんだか、笑われていた。
「相変わらずって何がなの?わかんないんだけど・・」
本当にわからなかった。
「いいのいいの。わからなくっても・・ずーっとわかんないだから急にわかるわけなんかないんだから・・」
言い終えて、言ってやったって顔で満足そうだった。
「じゃぁ いいよ、それで」
こっちは、もう、そう言うしかない気がしていた。
「じゃぁ、聞くね。自分の良く知らない女の子が彼氏のところにお弁当持って現れて、一緒にご飯を食べてたら、付き合ってる彼女どんな気持ちでしょう?森山君の彼女はどうですか?」
また、聞かれていた。
「うーん。どうだろう・・」
「なに、それって・・他人事みたいに・・」
呆れられていた。
「だってさぁ、そんな事したことないし、でも、友達なら・・いいんじゃない・・」
あいまいな返事しかできなかった。
「まだ、一緒に食べてはいないけど、いま、それですけど・・」
その通りのことを言われていた。
「うーん。わかんないって・・俺、彼女じゃないし・・」
「ほらね、だから、女心がわかんないのよ。森山君って・・昔っから変わんないんだもん。ずっと部活で短い髪の毛だった人が、長髪になって格好つけてもね」
髪の毛まで触られていた。
僕は苦笑いを浮かべるのが精いっぱいだった。
問い詰められて笑われていたけれど、やっぱりこの子といると気持ちがよかった。
それに、不思議とずっと彼女とは昔からこうしているような気がしていた。

作品名:未来は嘘をつく 作家名:藤花 桜