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ウサギになりたくなかったウサギ

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「ああ……もう、お別れです。きっと、子どもたちに伝えてくださいね。どうか、どうか、お願いします」

チョウの最後の声は、消えそうなほど小さくなっていました。
でも、ウサギが長くて大きな耳をよりいっそうぴんと伸ばしたおかげで、一言だって聞きもらすことはありませんでした。

動かなくなったチョウの身体を、風が空高く舞い上げていきます。
タンポポ色のチョウの姿はどんどん小さくなって、やがて見えなくなってしまいました。たくさんの花びらが舞い上がるように見えていた光景が、まるで夢の中のできごとのように思えます。

チョウたちのなきがらがいったいどこに運ばれていったのか、ウサギには分かりません。今はもうどんなに風が吹いても、タンポポとシロツメクサの花がゆらゆらとゆれるだけです。
チョウたちの姿が消えてしまった花畑が、急に広く寂しい場所のように感じられました。でも、ウサギの頭の中に、タンポポ色のチョウの言葉が浮かんできたのです。

―あなたのその長くて大きな耳がどんなに素晴らしいか、わたしはよく知っていますよ。わたしたちの声は小さくて、他の動物たちは誰も聞き取れないのです。あなたの、長くて大きな耳でなければね。

大キライだった、やたらと長くて大きな耳。
こんなへんてこな耳を持つウサギになんて生まれたくなかったと思っていたけれど、この耳でなければチョウたちの小さな声を聞くことはできませんでした。

立派なトラも、力強いクマも、さっそうとしたオオカミでさえも、あのタンポポ色のチョウの最後の願いを聞いてあげることはできなかったに違いありません。
タンポポ色のチョウとの約束を守るために、この長くて大きな耳が役に立ったのです。そう思ったら、大キライだった自分の耳がとても誇らしく思えてきました。

ひとりぼっちになってしまったこの花畑も、来年の春になれば、たくさんのチョウたちがひらひらと飛びまわることでしょう。
そのときがきたら、ウサギはタンポポ色をしたチョウとの約束を守って、伝えてやらなくてはなりません。
チョウたちの親がどんなに子どもたちのことを大切に思い、愛おしく思っていたのかを。

さわさわと風が吹く中で、シロツメクサをかじるウサギは、長くて大きな耳を、ほこらしげにぴんと立てて見せました。

ウサギは、二度と自分のことを大キライだなんて思うことはありませんでした。