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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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体のパスワードを忘れました...

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朝起きたら、体にログインできなかった。

幽体離脱のままふわふわと天井をさまようこと1時間。
眠気がすっかり冷めた頭だったのに、パスワードが思い出せない。

「ああ、くそ!! パスワードが思い出せない!!
 絶対忘れないようにって大事な言葉にしたのに!!」

大事な言葉にしたのは覚えている、
のどまで出かかっているのにパスワードがあと一歩で出ない。

ベッドで寝ている体を眺めながら漂うことさらに1時間。
思いつく限りのパスワードを声に出したが、効果はなし。

「ダメだ……大事な言葉だとまではわかるけど、糸口すらつかめない。
 しょうがない、このまま漂ってもダメだ」

これまでの体をあきらめて、新しい体を用意してもらうことに。
普通に日常生活を過ごして入れば、そのうちふと思いつくだろう、

一度パスワードを思い出せば、体は取り戻せられる。

新規の体を用意して、なじめない体の重さを感じながら会社へ行った。

「やれやれ、今日は朝からとんだ災難だよ……」

「あれ? 誰だお前?」

体を新規にしためんどくささが出てきた。
新しい体なので、誰も気づいてくれない。

「俺だよ、佐藤だよ。同じ同僚の」

「佐藤? 佐藤なら、さっきそこであったけど」

「はぁ!?」

慌てて外に出ると、俺の体が逃げているのが見えた。

「おいこら!! そこの体!! 待ちやがれ!!」

慌てて俺の体を追いかける。
慣れない新しい体はなじまない。

それでも日頃の運動不足が幸いして、みるみる差は詰まっていく。

「つかまえたぁ!!」

俺はなんとか自分の体を捕まえることができた。
高校時代のラグビー経験が生きた。

「さぁ、俺の体を返してもらおうか!!」

「わ、悪かったよぉ。1日でいいから金持ちライフを味わいたかっただけなんだ」

「金持ちライフ?」

「あっしの本体は貧乏なホームレスでねぇ。
 一度でいいからセレブ体験をしてみたかったんだよ。
 お前さん、金持ちじゃろ?」

「まあ、この周囲の土地を買い占めるだけの財力はあるわな」

でも、俺はしっかりと釘を差した。

「だからといって、人の体を取っていい理由にはならない!」

「ああ、ああ、反省しているよ。
 本当に心から反省している、もう二度と体を取らないよ」

「本当だな?」
「本当さ」

「それじゃ協力してほしい。
 お前はその体を取ったんだからパスワードを知ってるはずだ」

「いえいえ、それが知らないんですよ。
 パスワードをわからなくても、乗っ取ることはできたもんで。
 思い出す手伝いならいくらでもします」

「それはありがたい。
 何か大事な名前のパスワードにしたんだけど、何も思い出せないんだ」

俺の体を手に入れている逃亡者は、
その体の記憶をフル活用してヒントを与えてくれた。

「たしか、部屋に置かれているものだったような……?」

たったその一言。
それだけで十分だった。

「ああ!! ああ! 思い出した! 思い出したぞ!!
 ついにパスワードを思い出すことができた!!」

「本当ですか! 力になれて光栄です!!」

しかし、慎重な俺は逃亡者に再度念を押した。


「いいか? 今から俺は自分の体に戻るためにパスワードを言う。
 お前は聴いたからと言って、二度と俺の体を乗っ取るなよ?
 それが誓えなければ、ここですぐに警察につきだす」

「誓います、誓います!
 私は今後ぜったいに、体を乗っ取りません!」

「本当だな?」
「本当です!」

「絶対に体を乗っ取らない?」
「乗っ取りません! 二度と!!」

逃亡者には口約束で終わらないように細かい資料を描かせた。
これで、いつか仮に俺の体で悪さはできない。

「これで完璧な防犯対策だ!!
 二度と俺の体を盗まれる心配はないぞ!!」

「それで、パスワードはなんて言うんです? 大事なものなんでしょ?」


「パスワードは、
 『Ore no BED no sitani Zen zaisan』だ!
 これだけ大事なことなら、二度と忘れない!
 しかもこの長さ! パスワードとして完璧だ! 完璧な防犯性!」


翌日、俺の体は二度と盗まれなかった。
その代わりに、隠していた財産は根こそぎ持っていかれた。