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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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黒闇抱いて夜をゆく 前編 探偵奇談7

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「お待たせしましたァ!!」

お客さんだぞ、と鍵を閉めながら伊吹は言う。

「お疲れさま、須丸くん」
「一之瀬?」

どうしたの、とそばに寄る瑞から、ふわりと香る甘い匂い。

(あ、須丸くんの匂いだ…)

ドキドキするというより、ほっとする匂い。好きなひとの匂い。女の子よりいい匂いするって、ちょっとずるいと思う。

(…だめだ、なんかぼーっとしちゃうなあ)

見慣れた横顔にときめく日が来るなんて。今まで一目ぼればかりしてきた郁は、昨日まで友だちだったひとが好きなひとになるという経験も初めてだった。だから戸惑いも大きくて、ちょっと挙動不審なのだった。

「なにぼんやりしてるの」
「え?えっと、匂いが、あの」

匂い、と首を傾げる瑞。しまった、動揺しておかしなことを口走ってしまった。

「あ、須丸くんの香水の…。なんか落ち着くんだよねえ」
「そうか?俺めっちゃ汗だくだけど。それで、そのひとは誰なんだ?」

にやにやしながら郁と瑞を見ていた颯馬が、はじめましてと自己紹介をする。そして。

「須丸くん、幽霊が見えるって聞いて。まじめに相談したいことあるんだけど、話だけでも聴いてもらえないかな?」

いまから、と瑞が眉根を寄せる。そろそろ下校時間が来る。話を聞いていたらしい伊吹がたしなめた。

「おまえらとっとと帰れよ」
「神末先輩、別に夜遊びしようってわけじゃないんですってば。あ、大事な後輩が心配なら、一緒に聞いてもらっていいですよ?」

伊吹は少しむっとしたようだったが、俺も聞くと答えた。

「伊吹先輩」
「いいんだよ」
「あの、あたしも聞きたい…!」

じゃあみんなで行きましょ、とにこやかに颯馬が笑う。どこに、と三人が声をそろえると、颯馬は校舎のほうを指さした。

「特進の校舎。特進クラスにはね、ちょっと怖い怪談が伝わってるんです。密かにね」