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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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幻覚風俗店からエスケ―――プ!!

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「いらっしゃいませ、幻覚風俗店へようこそ。
 ここでは都会の喧騒を忘れた最高の癒し空間を提供しますよ」

「この店、大丈夫ですか?
 覚せい剤とかやばいもの使わないですよね?」

「あはははは、使わないですよ。
 一流の政治家さんも頻繁にご利用されています。
 そんな危ない薬のお店ではありません」

そう言って、店員は白い薬を出した。

「では、こちらが幻覚剤です」

「めちゃめちゃ覚せい剤っぽいじゃないですか!」

「だから大丈夫ですって。安心してください。
 ほら、国からもちゃんとお墨付きいただいますし」

店員が見せた証明書は本物っぽい。
これならさすがに大丈夫だろう。
それじゃ、さっそく……。

「あ、待ってください。
 幻覚と現実の区別がつかなくなる人がいます。
 現実に戻る合言葉を決めておいてください」

「そんなのいりませんよ。
 2次元に恋をするとか、そういうタイプじゃないんで」

「そうですか? では行ってらっしゃい」

俺は粉を水に溶かして一気に飲んだ。


目の前は一瞬で酒池肉林の桃源郷。
水着の女が手招きしている。

「おおおお! すごい! これが幻覚!」

たぶん、現実の俺は動いていないんだろうけど
体も自由に動かせている。すごいぞこれ。

酒のプールで泳いで、美女にちやほやされて最高だ。

「ああ、もう最高だ! このまま死んでもいい!」

さながら朝の布団のように、ありとあらゆる現実を無視して
今はこの堕落を味わい尽くしたい。

そこで俺は現実に戻らないことを決めた。

「現実なんて辛い会社と退屈な毎日。
 顔を合わせるのはブスばかり。
 ずっとこの幻想の中で暮らそう!」

 ・
 ・
 ・

幻覚生活をどれだけ過ごしただろうか。
この世界には時計がないので時間がわからない。

気が付けば浦島太郎のように、時間が経っているかもしれない。

「ねぇぇ、どこ行っちゃうのぉ?」

水着の女がなまめかしく誘う。
でも、それももう飽きた。
美人は3日で飽きるとはよくいったものだ。

「現実に帰ろう。ここは楽園だけど、新しい発見はない。
 新しい楽しみもない。いつも同じだ。
 だったら現実の方がまだいい」

問題なのはどうやって現実に戻るかだ。
自分をつねっても何をしても俺は目を覚まさない。

「おおい! 現実に戻してくれ!! かむばーーっく!」

効果はない。
こうなったらアリババ方式だ。

「戻れゴマ! リセット! エスケー――プ!!」

最後の呪文を唱えた瞬間。
目の前が一気に変わり、店員の顔が見えた。

「お疲れさまでした、どうでしたか?」

「あ、"エスケープ"で現実に戻るんですね」

大満足したことを話すと店員は嬉しそうにした。

「では、またのご来店をお待ちしております」

店の出口に手をかけたときだった。
俺はふと気が付いた。

(あれ? 金って払ったっけ?)

まあ、でもわざわざ戻って払う必要もないのでそのまま店を出た。
店を出ると道路を泳ぐクジラにひかれそうになった。

「バカやろ――! 飲み込まれたいのか!!」

クジラの運転手は吐き捨てながら去っていった。


「……え!?」

なにこの世界観。
コンクリートは海のように波打っている。
みんな歩くのではなく、泳いで道を進んでいる。

「どうなってる!? 副作用で俺の頭がおかしくなったのか!?」

店員に詰め寄ると、店員はにこりと笑った。

「いらっしゃいませ、幻覚風俗店へようこそ」

「質問に答えろ! お前、俺になにをしたんだ!!」

「いらっしゃいませ、幻覚風俗店へようこそ」

「お、おい……」

「いらっしゃいませ、幻覚風俗店へようこそ」

店員の目の奥に電子機器らしき光が見えた。
こいつは人間じゃないのか……!?

「なんだよこれ……聞いてないよ……!
 エスケープっていえば現実に戻れるんじゃないのか……!」


その瞬間、目の前の光景が一気にかわった。

今度は荒れ果てた荒野で馬にまたがっている。
俺の服装はカウボーイの西部劇ファッション。

「え!? なんだこれ!?」

ここが現実じゃないことは間違いない。
とすれば、さっきのも幻覚だったのか。

「え、エスケープ!!」

次は目の前に広大な草原とバカでかいドラゴンが火を噴いている。
俺の手には伝説の剣が握らされている。

「ひえええ! エスケープ!!」


「エスケープ!」
「エスケープ!」

「エスケ――――プ!!」

世界は何度も切り替わり、そのたびに何度も世界を体験した。
まるでテレビのチャンネルを変えるように。

でも、一向に現実世界へと戻ることはない。

「もうだめだ……それらしい合言葉はすべて試したし……。
 ビビバビデブーも、アブラカタブラもダメだった……」

ゾンビだらけになった世界で、
ゾンビとはまた別のことで絶望していた。

あんなに忘れたがっていた現実が今は恋しい。

「貧乏で、退屈で、つらいことばかりだったけど……。
 俺には現実世界が一番だ……」

もう戻れないあの世界。

「ま、この世界も楽しいっちゃ楽しいし。
 せっかくだしゾンビでも倒して遊んでおこおか。
 いけぃ! 俺のガトリングガン!」

その瞬間。





「お客様、お目覚めですか」

ベッドの上で目が覚めた。
見慣れた部屋。ここは幻覚風俗店。

「おたのしみだったみたいですね。お疲れさまでした」

「ここは現実ですか!? 現実ですよね!?
 現実であってください! お願いします!!」

「え、ええ現実ですよ?」

「道路にくじらとかいませんよね!?」

「は、はぁ!? いませんよ?」

店員は"なにいってんだ"と言いたげな顔をしている。
でもそのリアクションが現実感の証拠だ。

「でも、どうして現実に戻ってきたんだろう」

「お客様、"お会計"とおっしゃっていたじゃないですか。
 合言葉がないお客様には"おあいそ""お会計"のたぐいが
 現実世界に戻る合言葉になってるんですよ」


遊んでおこおか いけぃ! 俺のガトリングガン

遊んでおこ おかいけぃ! 俺のガトリングガン


「……あ」

あれが偶然"お会計"になっていたんだ。

「良かった……本当によかった。
 もう現実に戻れないんじゃないかと思った」

「このお店のモットーは現実の大事さの再認識ですから」

店員はにこりと笑うと、レジの機械をうちはじめた。


「えと、時間が延長に延長をかさねたので……。
 代金は、 255,322円になります」


レジのディスプレイに表示された25万を見て、俺は凍り付いた。


「え、エスケー―プ!!!」

消えたのは俺の財布の金だけだった。