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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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『今日はよろしくお願いしますね。』と言われると…。

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『お母さん、もうから泣きそう…。どうしよう…。まだ葬儀場にも着いてないのに…。』
とオロオロした声が届いた。
ため息を付いた私は、
『も~、切り替えて頑張って~!!今日のばあちゃんが、“よろしくお願いしますね。”って言ってるんだから、その思いを汲み取って、ピアノ弾いて来て!!』
と言った。
オロオロの声で、
『はい、頑張ります。』
と言って電話を切った。

そして葬式が終わりお母さんから電話がかかった。
『ちょっと~、ちょっと~。白髪で短髪のばあちゃんだった。写真の前髪は立ってなかったけど、前髪が立ちそうなしっかりした髪の毛に見えた。顔もしわくちゃの面長だった。』
と興奮していた。
『へ~、それは良かった。』
と言いながらふと頭の中に葬式の光景が見えた。
『お母さん、遺族の人かな~…、なんかめちゃくちゃ泣いてない?!そんな光景が見えるけど…。』
と伝えたら、
『えっ、見える?!そうなのよ、そう!!孫たちがワンワン泣いてて、孫が一人一人ばあちゃんに向けて、“おばあちゃんへ。”って手紙読んだの。手紙の一つ一つにお母さんも感動して涙が止まらなかった。みんなに愛されてたばあちゃんだったみたい。』
とその場面を思い出してるように感じた。
それを聞きながら肯いてると、お母さんが、
『それでね、そのばあちゃんは魚を捌くのが凄く上手だったみたいなの。魚屋さんだったみたい。それで誰の手紙かちょっと分からないんだけど、誰かが、“おばあちゃんはとても魚を捌くのが上手で、それがとても速かったです。でもあまりにも速くてマネをしようとしたけど、結局分かりませんでした。”っていう所がおかしくて笑ってしまった。』
と言った。
するとそのばあちゃんが魚を捌いてる姿が見えた。
『お母さん、なんかそのばあちゃんが魚を捌いてる姿が見えるんだけど…。どういう事?!』
と伝えたら、
『えっ?!もう上で仕事してるの?!それとも生きてた時の姿?!』
とお母さんも分からずいると、上が出て来て、
『行いが良かったのでしょうかね~。行いが良いと、上に来るのも早いのかもしれませんね~。』
なんて言い出した。
そのままお母さんに伝えたら、
『早いっ!!もう!!へ~、こんなに早い人もいるんだ~。』
と驚きながらも納得していた。
私は魚を捌くばあちゃんの姿を一生懸命見続けた。
どうして孫たちは分からなかったのかが気になったからだ。
見てると確かに早い。
アジを捌いてるらしくて、包丁を持ってる手よりも支えてる側の手に何か答えがありそうに見えた。
何分速すぎて目が追い付かない瞬間がある。
そこが答えなんだと思った。
どうも薬指に何かがありそうだ…。
薬指でクルッとひっくり返してるようにも見える。
そのばあちゃんにどうやってやるのか声をかけてみた。
すると一言、
『聞くもんじゃない。見て覚えるの!!』
と…。
私は、
『はい。』
と一言を返した。
その事をお母さんに伝えたら、
『薬指…、薬指か~。見て覚える…ね~。昔の人だわ~。戦争時代の人だね~。』
と言った。
簡単には教えてくれないばあちゃんだったのかもしれない。
葬式が終わってお母さんに、
『お世話になりました。』
と言った後、孫たちに対してなのか、
『また会える。すぐすぐ。』
と魚を捌きながら、こちらを見もせずにそう言った。
たぶん魚屋さんが忙しかったのだろう。

とこんな事が起こっている。
そんな中、お母さんはどんな風にピアノを弾いているのか気になった。
だからと言って私にその姿を見る力はない。
力はないけど、疑問に思った私の気持ちに上が応えてくれた。
ある葬式の最中、ふと頭の中にお母さんの姿が見えて来た。
会場中にピアノが鳴り響いている。
お母さんが弾いてるのは分かるけど、お母さんの存在感を感じない。
そんな私に上が一言、
『出しゃばってはいけませんね。お母さんは素晴らしいですね。これを謙虚を言うのかもしれませんね。』
と言った。
私は黙って肯き、しばしお母さんを見ていた。
すると何か別のものがそーっと重なって見え始めた。
なんだろうかとそっちに集中。
それは雲の上に立っているキリストだった!!
『何してるの?!』
と聞いてみた。
キリストが、
『んっ?!お仕事ですよ~。お母さんのお手伝いをしてますよ~。』
とこちらを見ずにそう言った。
首を傾げどういう事だろうかとジーっと見ていたら、キリストが両手を前に出して動かしている。
まるで指揮者のように…。
するとキリストは、
『お母さんのピアノに合わせて指揮をしてるんですよ。お母さんの音には欲がないですから、気持ちよく合わせられますね。亡くなられた方たちを神の下へと送るのが私の仕事なのですね。私はそれを神に約束し、人の地へと一度下ったのですよ。私には全ての人を救いたいという想いがありますからね。ですから、宗教というものは関係ないのかもしれませんね。神であれ仏であれ、何を信じていようと行いをしているのは神や仏ではなく、本人ですからね。お母さんのピアノは上に上げやすいですね。その後その方たちがどう裁かれるかは、神のみぞ知る…ですかね。』
と言って、黙って指揮を続けていた。

式が終わってその事をお母さんに伝えたら、めちゃくちゃ驚いていた。
そしてお母さんは受話器の向こうでしばし黙り考え事をしていた。
そして、
『…あのね、今日の…、今日だけじゃなくよくあることなんだけど、線香をずっと焚いてるからすっごい煙たいのよ~。それでお母さん、煙を吸って咳き込んでしまいそうになるんだけど、それがならないの…、不思議と…。あなたからキリストの話を聞いて、もしかして助けてくれてるのかもって思ったんだけど…。』
と言った。
へ~と思っている私にキリストが、
『はい。お母さんのピアノはとてもいいですね~。とても委ねやすいですよ~。』
と言って来た。
お母さんにそれを伝えると、感激して、
『あ~っ、委ねやすいなんて…、ありがとうございます。こちらこそとても弾きやすいです。いつも咳が出そうになるのに、パッと止まります。いつもありがとうございます。これからも一生懸命弾かせて頂きます。』
とキリストに言った。
キリストは優しく笑うと、
『これからもよろしくお願いしますね。私はこちらの雲の上でお手伝いさせて頂きますね。』
と言った。
お母さんは一人感動していた。
この感動を身を持って分かるのは、お母さんだけなんだろうな~と、仲介屋の私は一人そう思うのだった。
心からその感動を感じてみたい…と思うだけで、な~んにも感じやしない。
ふと私は思った。
お母さんの周りの煙、キリストがうちわで扇いでるのかな~なんて…。
でもまっ、何はともあれ…、お母さんがちゃんと仕事をしていたのでなによりなにより…だった。

お母さんが葬式へと行く前に見える人が、全て見えるわけではないということも分かった。
全然違う人が見える事もたまにある。
こんな時はお母さんに、
“よろしくお願いしますね。”
なんて言葉も聞こえない。
どうしてだろうかと首を傾げていると、式の途中が見えて来た。
遺族の方たちが誰も泣いていない…。
どうでもよさそうな空気を感じる。
怖い、怖い…、どういう事だっ?!と分からない。