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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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あなたもわたしも俺にな~れ

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「こんなの着る人間なんていないだろ!
 鎖を巻いた上着なんてどういうセンスだ! あほか!」

今日も上司から俺デザインの服を突き返される。

ファッションや装飾品が好きで、
自分でもデザインしたいと念願の会社に入るまではよかったが……

「もっとちゃんとしたのを作れ!
 こんなキテレツな服じゃなくて!」

「でも先輩! これが個性なんじゃないですか!」

「知るか! 売れなきゃ意味ねぇよ!」

俺の作る服や装飾品はどれも前代未聞のデザイン。
それだけに一般ウケしないから会社でも立場がない。

「ただいま……」

「おかえり、ご飯できてるよ」

家に帰ると同棲している彼女が待っていた。

「ねぇ、聴いて? 私最近読書を始めたの!」

「読書? 本嫌いじゃなかったっけ」

「そうだけど、なんだか読みたくなって」

前までは読書する俺を根暗だと笑った彼女には珍しかった。
そもそも読書は俺の趣味だった。

この時はまだ「ああ、そうなんだ」くらいに流したが
徐々に彼女はエスカレートしていった。

「なんか最近、きんぴらごぼうがやたら好きなの」
「やっぱりお笑いバラエティ番組が最高ね」
「正直、人混みって苦手だわ」

洋食好きな彼女が和食を食べだし、
ニュースくらいしか見なかったのにバラエティ番組を見、
社交的だった彼女がインドアになっていった。

鈍い俺でもさすがに気付いた。

「な、なぁ、どうして俺の趣味をマネするんだ?」

「マネ? マネなんてして何の得があるの?
 私は私の好きなことをしているだけよ」

自覚症状はない。
いったいなんだろうか。
もしかして、精神病の一種だとか……?

怖くなった俺は、まず病院で自分を診察してもらった。

「ははぁ、それは"自分感染症"ですな」

「えっ?」

「自分が周りに感染してしまうんですよ。
 ペットが飼い主に似るとかあるでしょう? あんな感じです」

「治せますか」
「ムリ☆」

まあ、趣味や趣向が似てくれば話も合うだろうし
問題はないだろうと思っていた。

その日の帰り、久しぶりに飲み会に参加した。

「みんな久しぶりだな。最近は何してるの?」

「読書だな」
「読書だ」
「読書かな」

「えっ」

まるで俺みたいなことを答えた。

「最近、家を出たくなくってよ」
「わかるわかる、人混みとか面倒だよな」
「すみません、きんぴらごぼう追加~~」

「まさか……俺が感染してる……!?」

俺の感染力はさらにエスカレートしている。
つまり俺の病気が進行していることを示していた。

聞きたかった友達の恋愛事情も、
参考にしたかった仕事の話ももう聞けない。

すべて"俺"になってしまったから。

「ま、まずい! なんとかしなくちゃ!」

とはいえ病院でも治す方法はないとのこと。
であれば、"人にうつせば早く治る"という風邪にならって
とにかくいろんな人に会いに行くことにした。

微量感染を繰り返して分散させちゃえば、
勝手に消えてくれるだろう。



が、そんなことはなかった。


『それでは今日のニュースはおすすめ読書について』
『今話題のきんぴらごぼう専門店に来ました~~』
『嫌な人混みを避けるとっておきの秘密です!』

テレビはどれも俺好みの内容ばかり放送している。
まるで、好物の料理を休みなく提供されている気分だ。

「みんな……みんなうつっちまったのか……」

感染者から感染者へとねずみ算式に増えた"俺感染"。
もうほとんどの人が俺の特徴を受け継いでいた。

コンビニ行っても、すべて俺が好きなものが陳列されてる。
どこへ行っても俺好み。

それだけに新しいものや、別の考え方と触れ合うことはなくなった。

「まあ……みんな同じような考え方になるわけだし、
 悪くはないのかも……」

家で悩んでいると彼女がやってきた。

「どうしたの? さっきから悩んでいるみたいだけど。
 また仕事で失敗したの?」

「いやそうじゃなくて、新しいインスピレーションが……わぁ!!」

思わずスッ転んだ。
彼女の顔が俺そっくりになっている。

「か、か、顔……! 顔が……!」

「顔?」

彼女は鏡に映る自分の顔をチェックする。

「なにも変じゃないけど? どうしたの?」

「うそだろ……感染するのは性格だけじゃないのか!?」

町に出ると、その風景に凍り付いた。
みんな俺と同じ顔をしている。
背丈まで一緒だ。

この中に俺が紛れてしまえば最後、絶対に見つかりっこない。

「なんてことだ……俺はもうだめだ……」

自分の喪失。
みんなが俺になることで、俺の特徴はなくなった。
他人との違いの無い世界で"俺"はもういなくなった。

 ・
 ・
 ・

1年後、上司となった俺のデザインを見て
先輩はもみ手をしながらほめたたえる。

「いやぁーー! やっぱり素晴らしいデザインです!
 襟をドクロにしたんですね! 斬新! さすが先生!」

「だろ?」

「誰もが個性を主張したがるようになって
 先生の奇抜な服がバカ売れするよりも前に
 私は先生の才能に気付いていましたとも!」

俺とまったく同じ顔をした先輩は言った。

病気は治らないし、世界は俺まみれになったけど。

「これはこれで……い、いいのか?」

俺の服は互いを区別するためのものとして、
ギネスに乗るほどの大ヒットとなった。