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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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30歳で即死の独身爆弾

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30歳になるとみんな死ぬ。

そんなキャッチフレーズで行われた「独身爆弾」。
健康診断のときに男女関係なく爆弾をつけられた。

「いいですか、みなさん。
 この国は少子化と無職率の高さが問題なんです!
 そのどちらにも爆弾による解決が必要なんです!」

というわけで、30歳になっても独身の人間には
独身爆弾が爆発し木っ端みじんになって死ぬ。

かくいう俺は29歳と11か月。

残されたタイムリミットは1ヶ月。
1ヶ月以内に結婚しなくちゃならない。

「はは……残り1ヶ月なんて無理だよ……」

今日も結婚サイトを巡回しては、
売れ残りの女たちの写真を見て凹んでいる。

遺書も書き終えたわけだし、
妥協した結婚生活を送るくらいなら
いっそこのまま死んだ方がいいのかもしれない。


『婚活パーティのお知らせ』


そこに届いた1通のメール。

「ちょっと……行ってみようかな」

あれだけ死ぬ気満々なのに、
やっぱり心の奥底ではやっぱり怖い。

白馬の王子様ならぬ、白馬のお姫様を求めてパーティへ参加した。

「はじめまして、私こういうパーティ来るの初めてなんです」

「えっ……おふっ……そうなんですねっ」

パーティ会場についてそうそう俺は一目ぼれのドツボに落ちた。
彼女は他の参加者とは空気感がまるで違う。
雑誌から切り抜いた女性が出て来たみたいだ。

"ぼくと結婚してください"

その言葉がのどまで出かかったが、
無職・童貞・ニートという3重苦のコンプレックスが口をつぐんだ。

そうこうしているうちに、彼女はほかのイケメンに声をかけられ去ってしまった。

パーティ終了後、俺は自分を呪いに呪った。

「あーーくそっ!! なんで!
 なんで俺は声をかけなかったんだ!
 このまま1ヶ月が経過したら死ぬぞ!!」

布団の上でもんどりうっていると、メールが届いた。


"今日はありがとうございました。
 よければ、またどこかでお話したいと思っています"

「な、なにぃぃ!?」

自分に都合の良すぎる展開に思わず驚いた。
今週、と即答するとがっついている印象がしたので
思わず来週や再来週はどうですかと聞いてしまった。

"それじゃ、再来週の日曜日に"

「な、なにやってんだ俺!
 残り1ヶ月しかないのに再来週て!
 1回目のデートでプロポーズする気かよ!!」

自分で自分を突っ込んでしまう。
とはいえ、再来週まではたっぷりシミュレーション。

初デート?の時点で俺の爆弾は残り1週間となっていた。

「こんにちは、お久しぶりです」
「あ、え、ええ……おふさしぶりです」

女性と話すことに慣れてない俺は思わず噛んでしまう。

それはさておき。
まずはシミュレーション通り軽い会話で距離を詰めて……。

「実は最初にあったときから、私あなたのことが好きでした」

「いやぁ今日はいい天気で……はぁぁぁあ!?」

工程をいくつかスキップした展開にびっくりした。
むしろ、それを言い出すのは25歳の彼女ではなく
29歳11か月の俺だろうに。

「付き合って……くれますか?」

「喜んで!!」

トントン拍子にことが運んで自分でもびっくりした。
今まで就職の面接でもさんざん落とされてきた俺にとって
こんなスピード展開は生まれて初めてだ。

波乱の切り出しでスタートした初デートは終始円満。
なんかもう自分の家庭像まで語り始めるほど。
いつプロポーズしてもおかしくなかった。

「それじゃ、また来週」
「はい。また来週に」

別れた段階で来週プロポーズする決心を固めていた。
この距離感なら確実に成功するだろうと思っていた。

そして、現実はというと……。


「はい、結婚しましょう」


現実もちょろかった。

「やったぁぁぁぁぁ!!!!」

独身爆弾が残り1日のところで結婚にこぎつけた。
婚姻届けを出すと、独身爆弾を解除してもらえた。

「はい、これで独身爆弾は爆発しませんよ。
 この先も頑張ってくださいね」

「はい!」

なにを頑張るのかよくわからないがとりあえず返事をした。
その夜、旧友たちを集めて最後の独身パーティを行った。

「いやぁ、まさかお前が結婚できるなんてなぁ」
「人間わからないもんだよ」
「絶対爆発すると思ってたもん」

「わははは、もう明日の誕生日を恐れることはないぜ」

飲み会は終始おめでとうムードに包まれていた。
たった一言を言われるまでは。


「で、無職爆弾のほうは?」


「……えっ?」

「独身爆弾は解除できたけどよ、
 まだ無職なんだろ? 無職爆弾はどうしたんだよ?」

「自分にふさわしい職場が見つかるまでは、
 社会の歯車にならないって言ってたじゃん」

「そういや、政府だって言ってただろ
 "そのどちらにも爆弾による解決が必要"だって」

市役所の人が言っていた"がんばれ"の意味がわかった。
就職して無職爆弾の解決も頑張れって意味だったんだ。

「あは、あはははは……」

これから就職するなんて100%不可能。
結果的に最後の晩餐となった居酒屋の焼き鳥を口に運んだ。

もうだめだ。

 ・
 ・
 ・

「はい、お弁当できたよーー」

あれから1年後が経った。
俺には子供ができて幸せな生活を送っている。

「お父さん、いってきまーーす」
「あなた、行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」

今の仕事は何よりも俺に向いている。

自分のペースで仕事ができて、残業はなく、
苦手な上下関係もないがそれなりに忙しい。

無職爆弾の前日に行った決断は、本当によかった。

「1年前、この職に就くって決めてよかったなぁ」


主夫だって立派な仕事だ。