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拝み屋 葵 【参】 ― 西海岸編 ―

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「僕はね、マリオンに惚れてしまったんだ。J・Jと知り合えたおかげで、とにかく楽しみながら生きていこうと思えるようになったんだ。それで色気が出たんだろうね。彼女は、薬物中毒でしかない僕にも分け隔てなく接してくれたし、優しくもしてくれた。J・Jのこともあったし、大丈夫だと思って打ち明けたんだ。彼女は医学的に解明してみようって言い出した。そして、医学部のツテを頼って僕の体のことをいろいろ調べ始めたんだ」
「そういうことやったんか」
「僕はね、ちょっと身体が丈夫なだけで、ハリウッドのスーパーヒーローみたいな能力は何もないんだ。ちょっと走っただけでも息切れするしね。切り刻まれても死なないってだけ。だから、身体のことを公表するって脅されて、言いなりになるしかなかった」
「投身した二人は?」
「あの二人は被害者だよ。アオイが捕まえた男たちに暴行を受けたんだ。それを苦に、自ら命を絶った。……本当に心苦しいよ」
「アンタはん、ええ男やんけ」
「僕が?」
「身体張ってJ・Jを助けて、二人の被害者が出たことに心を痛めてはる。“人の心”っちゅう“魔性”を持った“化け物”や」
「人の心を……?」
「ま、胸張ってコソコソと化け物しとったらええねん」
 葵は、マックスの丸まった背中をバシバシと叩いた。
「難しそうだな」
 マックスは痛みに顔を歪ませながらも笑っていた。
「殺してくれると思っていたんだよ」
「そら穏やかやないな」
「神様からお告げがあったんだ。『海を渡ってきた聖女が救いを与えるだろう』って。そのときの僕にとっての救いは、消えてなくなることだった」
「せやから、アジア系の留学生をナンパしてはったんか」
「ナンパしたつもりはなかったけど。でも、アオイに救ってもらったから、これからは堂々とひっそり化け物として生きていくよ」
 マックスは葵のように笑おうとしたが上手く行かず、顔面を引き攣らせた。
「救いを与えるっちゅう“海を渡ってきた聖女”は、きっとウチのことやないと思うで」
「え?」
 驚きの表情を見せるマックスに向けて、葵は、にっと白い歯を見せて笑った。

           ― 『西海岸の聖女』 了 ―