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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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唇だらけのおしゃべりルーム

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「ごめん、君とは付き合えない」

私に突きつけられたのはまさかの答えだった。

「なんでなんで!? 自分でいうのもなんだけど
 私って顔もスタイルも性格もいいじゃない!
 付き合って断る理由なんてなにもないでしょ!?」

「いや……なんていうか……」

「私の何が不満なの!? なにが悪いの!?
 あなたが治してほしい部分はすぐに直すし
 それですぐに好きになれってわけじゃないけれど
 あなたに好かれるだけの努力はやってみせるわよ!」

「…………」

「黙ってないでなんとか言ってよ!
 私はあなたに好かれるためだったらなんでもする!
 だから私にしてほしいことや治してほしいことは――」

全部言う前にフラれた。
このことを誰かに話したくて友達に連絡を取る。

「ということで、私がフラれた理由がわからないの。
 治すための努力はしているし、彼の好みにだって沿わせるのに」

「でも、あたしはその男じゃないから……」

手ごたえのある答えはもらえなかった。
でも納得はいかない。

友人関係はそこまで多くないので、
もっと効率よくさまざまに情報交流する方法はないか。

そんな私が見つけたのが『おしゃべりルーム』。



部屋の中に入ってみると、壁一面に唇がくっついていた。

唇たちは各々好き勝手なことをしゃべっている。
話題も趣味も年代もバラバラで、女子高のおしゃべりみたい。

そのうち1つの唇は、ほとんどしゃべっていない。

「おしゃべりルームなのにこの唇いるの?」

誰もいない一室で私はひとりつぶやいた。
事前におしゃべりルームの利用方法については聴いていたので
唇たちの会話の中から入りやすそうな会話をしている唇へ近づく。

「ねーーちょっと聞いてよ。昨日サイアクなことがあって――」

『えーーなになに』
『それサイアクじゃん』
『もっと話してよ』

「でね、私はどこを治せばいいかって聞いたんだけど――」

唇たちは時に聞き役に回り、ときに話し役に回った。
本当にとりとめのない会話を何時間も行った。

おしゃべりルームを出るときには不思議な充実感があった。

「あーーっ! いっぱい話してすっきりしちゃった!
 おしゃべりルームって最高ね。
 いろんな人とたくさんおしゃべりできるわ」

この日以来、私はおしゃべりルームを通うようになった。


「私って全然お酒飲めないんだよね。それでさ――」
「思うんだけど友達って男女でも成立すると思って――」

本当に毎日くだらないことや些細なことを話しまくる。
もうここでの会話が楽しくてしょうがない。

日ごとにおしゃべりルームの滞在時間は増えていった。

気が付くころにはもうほとんどの友達が去っていった。
これではまずいと思い友達と飲み会を開くことに。

「それでね、昨日のことなんだけど案内されたのが喫煙席で
 私ってほらたばこ嫌いだからもーーう具体悪くなっちゃって」

「へぇ」

久しぶりの会話だというのに、
友達はひたすらスマホの画面を食い入るように見ている。

そのポーズはまるで"興味ない"というボディランゲージにも思える。

「ねぇ、私の話聴いてる?」

「きいてるきいてる。話続けて」

「私、カセットテープでも自動音声でもないんだけど」

「なによ、聴いてるじゃん」

「私はもっと真剣に聞いてほしいの!」

もう耐えれなくなって私は店を出た。
こんなんじゃなかった。
おしゃべりルームでは私の話を聞いてくれていた。

もう私にはあの場所しかない。

「――ということがあったのよ」

さっそくこのことをおしゃべりルームで愚痴る。
解決策やら何やらが出るわけじゃないけれど、
少なくとも話を聞いてくれる相手がここにはいる。

「もう私ここを出たくないよ。
 外ではフラれるし、誰も私の話を聞いてくれないし。
 ここでずっとおしゃべりしていたいよ」

『そうだよね、私も同じこと思ってた』
『あたしもあたしもーー』
『みんな全然会話しないもんね。ネットばかりで』

「そう! 本当にそうなの!」

『ここでずっとおしゃべりする方法が1つだけあるの。
 ここだけの話だけど……聞きたい?』

私はすぐに返事をした。

 ・
 ・
 ・

数日後、私は思い切り告白された。

「前はフっちゃったけど……付き合ってくれないかな?」

前に私の告白を断った男がやってきた。
さらに友達からは多く遊びに誘われるようになった。

「ねぇ、あんた最近変わった?」

「そ?」

「なんか話しやすくなった」

「へぇ」

さすがは長い付き合い。
新しい彼氏では気付かれなかった変化も目ざとく感じたんだろう。

とはいえ、私の言葉は薄味の一言コメント。

今の私の唇から出てくる言葉はごくごく少ない言葉。
今の私は無口になれた。


一方、私の唇を置いてきたおしゃべりルームでは……。


「きゃーーー! どうしようどうしょうどうしよう!!
 告白されちゃったよ!! やったぁーー! みんな聞いて!!
 私告白されちゃったの! 友達との関係も良くなったし、
 やっぱりみんなしゃべる子よりも無口な子が好きなのね!!

 おしゃべりルームにいた無口な唇と入れ替えてよかったわ!
 今の世の中おしゃべりよりも無口が求められるのね!!
 唇を取り換えてよかったーー!!」


おしゃべりルームでは私の唇が
信じられないほどの文字数でしゃべっていた。