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未知との遭遇

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ホラーが好きだ。でも怖いのは苦手だ。
矛盾しているようだが、なんとなくわかってくださる方もいらっしゃるのでは。好き好んでホラー映画を見る癖に、いざ重要なシーンでは両手で目を塞ぐタイプの人間である。小学生の頃には、トイレで花子さんを呼び出す儀式(たしかノックを2回、間をおいて3回というやつ)や、こっくりさんをして当時の友達とおおいに盛り上がった。
だが、怖いのは苦手である。

思い返せば、物心ついた時からホラー映画や、恐怖!心霊現象!といった特番(夏によく放送されるやつ)が好きだった。遊園地に行けばお化け屋敷には必ず入ったし、修学旅行などの肝試しもわりと楽しんで行っていた。気がする。肝試しについては正直あまり記憶がないのだがともかく、今でもホラーが好きだ。以前は一度ホラー映画を見ると怖くて眠れなくなっていたが、最近はそうでもない。恐怖に耐性がついたからというよりは、単に忘れっぽくなったからである。
そう、最近になって急激に物忘れが激しくなってきた。すっと立ち上がった瞬間に何をしたかったのか忘れてしまい、呆然と立ち尽くすこともしばしばである。だがこれも悪いことばかりではなく、同じ映画を何度観ても新鮮に感じられるし、同じ漫画を何度読んでもワクワクできるのだ。何事も気の持ちようである。

話が逸れた。
ところで、人それぞれ怖いと思うポイントは違うと思う。
例えば、リングという有名なホラー映画がある。井戸から髪の長い女性が這い出てくるあの場面を知らない人はいないだろう。
あの映画で私が怖いと感じるのは、貞子の呪いから誕生したビデオテープ、通称「呪いのビデオ」である。かなり前の記憶なので曖昧だが、全体的に映像が荒く、モノクロで、飛び飛びだった。白い空に黒い太陽が映り、真っ白な部屋で椅子の影が長く伸び、女性が鏡の前に立ち、櫛で髪の毛を梳かしている場面がある。すこし角度が変わり、後に立っている少女が映る。つまり全体的に意味不明で、不気味なのだ。それがたまらなく怖い。

だが、見せ場の貞子が井戸から出てくるシーンはというと、確かに怖くはあるが、どちらかというとゴジラが登場した瞬間、ウルトラマンが空から登場した瞬間の感覚に近い。「おお、ついに来た!」という感じ。物語のクライマックス、最高の見せ場である。黒々とした髪に青白い肌、血走った目。爪が剥がれ落ち、長時間水に浸かっていたためか、画面越しにも体が水を吸い、膨張しているのがわかる。「メイクさんの技術はすごいなあ」と感心し、「こういう役をやる女優さんはどんな気持ちなんだろうか」と、コレはまったく余計なお世話である。

人それぞれ怖いと感じるポイントは違うと先述したが、私が怖いと思うものは、呪いのビデオのように「よくわからない」ものだ。
例えば怪奇現象だって、誰が何のためにやっているかわからないから怖いのであって、
「生前この部屋で一人暮らしをしていたウメ子さん、享年87歳。ある天気のいい日、のど自慢を見ながら、眠るように寿命で死亡。未だに自分は生きていると思い込んでいて、風呂場で演歌を熱唱する日課を続けている。毎晩風呂場から聞こえるうめき声の正体はこれである。その他物音などの怪現象も彼女の生活音である。極めて温厚で、近所の猫にたいそう懐かれていたようである。好物はおはぎ。」
とここまで詳細にわかっていたらどうだろうか。怖いどころか、風呂場の呻き声とデュエットしたくなくなるだろう。部屋で物音がしても、ああおばあちゃんね。で終了。おはぎ作りも上達。怖いとは無縁の状況である。
だが、こういう情報もなく風呂場でうめき声が聞こえたり、深夜に物音がしたらどうだろうか。怖いに決まっている。勝手にあれこれ想像し、見えない何者かの存在に怯えるようになるだろう。たとえそれが、優しいウメ子おばあちゃんだったとしても。

未知のものは魅力的である。心霊番組など、もし幽霊の存在が科学的に証明されたとしたら、誰も見なくなると思う。
小学生の頃、スライムが好きだった。あのぷるぷるした触り心地と鮮やかな蛍光グリーン、鼻を近づけるとなんともいえぬ変なにおい…まるで地球外生命体のようで心が躍った。
ある日理科の授業でスライムを作ることになった。私はワクワクしていた。きっと危険な、ドクロマークのラベルが貼ってあるような薬剤を使うのだろう。気が引き締まった。
だが、蓋を開けてみると、スライムの材料は水と片栗粉だった。この時私はたいそうがっかりした。まさか、水溶き片栗粉とは、まるで3分クッキングのような気軽さではないか。ロマンの欠片もない。「これ、食べても平気ってことだよね?」クラスメイトが嬉しそうに聞いてきた。勝手にするがいい。もはや授業前までのスライムへの情熱は、すっかり消え失せていたのであった。
作品名:未知との遭遇 作家名:百歳