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同調率99%の少女(8) - 鎮守府Aの物語

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--- 6 内田流留という少女




 視聴覚室出て、小走りで流留は廊下を進んでいた。とくに目的地はない。苦虫を噛み潰したような表情で歩みを進める。彼女がそういう表情をしているのは、何も視聴覚室での出来事のせいだけではなかった。


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 流留が視聴覚室へと向かう前、彼女はしばしばつるむ男子生徒の一人から呼び出されていた。その男子生徒は吉崎敬大という、同学年の生徒である。彼は性格は明るく、少し適当ですっとぼけたところがあるがそれも良い味を出している人当たりのよい優しい好青年だ。女子から人気がありよく言い寄られている。女子同士の話や"そういう"事に興味はない流留の目から見ても吉崎敬大はイケメン、つまり好い男に見えた。しかし流留にとってはつるんで趣味やバカ話をする男友達の一人でしかなかった。
 それゆえ呼び出されたのも単に暇つぶしの雑談をするだけなのだと思い、全く何も気にせず彼から呼び出された場所へと足取り軽く赴いた。
 吉崎敬大はその場所で天を仰いだり腕を組んでソワソワして流留を待っていた。彼女が来たのがわかると眉間に寄せていたシワを消して表情を柔らかくし、流留に近づいて話しかけた。

「や!ながるん。こんなところに呼び出してゴメンな。」
「いいっていいって。それよりもなぁに?なんか面白いことあった?」
 流留は仲の良い男子生徒の一部からは、ながるんというニックネームで呼ばれている。
 流留は雑談か、何か面白い出来事を聞かせてくれるのだと流留は思っていた。一方で吉崎敬大は流留の中性的な声質だが可憐な可愛さを感じる声による言葉を受けて、しばし俯いた後深呼吸をしてじっと流留を見つめた。そしてやや大きめの声で自身が胸のうちに抱えていた言葉をひねり出した。

「俺、ながるんのこと好きなんだ。付き合ってくれ!」
「……へっ!?」
 吉崎敬大からの突然の告白。予想だにしていなかった相手の行為と好意。その場には流留の変に裏返った声の一言が響く。
「ちょ、敬大くん!? へっ……じょ、冗談はよしてよ〜。なになぁに?あたしにドッキリ仕掛けてどういうつもりぃ〜!?そこの陰からいつものやつら見てるんでしょ〜?」

 突然の告白に流留の思考は混乱する。照れ隠しもあり呼び出された場所の近くにある物陰や木の後ろをわざとらしく見に行くなどして動き回る。その間も吉崎敬大は動かないで突っ立ったままだ。
「ははっ……」
 当然ながらあたりには流留と敬大以外誰もいなかった。さすがの流留もこれは本気の告白だと気づかざるを得なかった。今まで平穏でなんの波もなく過ごしてきた流留の日常に、初めてヒビが入った瞬間であった。

「ながるん!」
 吉崎敬大は動きまわる流留の方を向いて呼び止めた。その声に流留の動きは緩やかになり、ようやく立ち止まる。
「……なんで? なんでなの? なんであたしなのよ! さすがのあたしでも知ってるよ。敬大くん、女子に人気あるじゃん! あの子達じゃなくて、なんであたしなのよ!?」
「ながるんは他の女子たちとは違う。俺はながるんがいいんだ。好きなんだ。」
 他の女子達とは違う、普通ならば君だけは特別という意味合いにとれるその言葉は少なからず異性を意識させる効果がある。その一言に流留は違和感を覚えた。それは違和感というよりも、自分があると信じて疑わないものが崩れていく。それへの畏怖の念とも言えた。

 流留はあとずさった。その反応を敬大は見て歩幅を合わせて近づいてくる。もう一歩下がる。敬大は2歩近づいてくる。
「やめて。あたしはそういうの望んでない!あたしはみんなと適当に雑談して遊べればそれでいいの!だかr
「だったら馬鹿話して遊ぼうぜ!それは今までと変わらないことを約束する。みんなの前では今までどおりしよう。その上で、俺と付き合ってほしいんだ。ながるん……いや、内田流留さん!!」
「そんなこと言われたら……絶対みんな今までどおりじゃいられなくなるよ……。なんでコクってくるのよ……。」
「今までどおりでいられるって。ここには俺とながるん以外誰もいない。他の奴らにこのことなんて話すわけねぇし誰にも知られずに済むって。」
「そんなの当たり前でしょ。告るのにわざわざ他人に言うやつなんでいないよ。」

 さらに口論を続けようとしたその時、さきほど流留が照れ隠しに見渡した物陰よりさらに離れた陰で、物音がした。

「誰だ!?」「誰?」

 微かに走っていく足音が響いたことに二人とも冷や汗が出る。流留は吉崎敬大に詰め寄った。
「ちょっと敬大くん!本当に誰もいないんでしょうね!?」
「いねぇよホントだよ!」
 敬大は頭をブンブンと横に振ってハッキリと否定する。

「なぁ、ながるん。頼むよ。付き合ってくれよ!」
 気を取り直してなおも食い下がる敬大に、流留は再三繰り返して断る。
「だから。あたしはいつもどおりの生活で話の合う人達と馬鹿やれればそれでいいの。誰かと付き合うとか、そういうの求めてないの!あたしの日常に波風立てないでよ!今日の事は忘れてあげるから、あたしに近寄らないで!」

 流留はダッシュしてその場を離脱し始める。それを敬大は強い口調で呼び止めた。
「ちょっと待てよながるん! 近寄らないではひでぇだろ。それにどこ行くんだよ?」
「……ゴメン。さすがに言い過ぎた。告ったのは忘れてあげるから、敬大くんも今日のことは忘れて今までどおり振る舞って。それからあたし今日は別の用事あるから、急いでるからもう行くね。」

 流留はダッシュほどではないが小走りでその場から離れた。その場には、吉崎敬大がポツンと残されるのみになっていた。