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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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>行方不明希望者はこちら

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俺は新しいバイトを始めた。
車の免許があれば誰でもできる仕事だ。

「それじゃここで下してください」

行方不明希望の客とスタッフは一度降りると、
すぐ横に止まっている別の車に乗り換えて去っていった。

俺の仕事、終了。

どうやら俺のバイトは行方不明者を送り届けているらしい。
女子中学生がやりがちなプチ家出みたいなもんだろう。


>>行方不明希望者が出ました。送迎をお願いします。


カーナビ兼スマホから連絡が入る。

「やれやれ、今日は2件か……」

しぶしぶワゴン車を走らせる。
目的地に着くと、どこかで見たような顔だった。

ああ、思い出した。
たしか清純派女優のTだ。がぜん緊張してきた。

「ねぇ本当に行方不明になれるのね!?」
「ええ、そうですよ」

後部座席では声を弾ませた女優とスタッフが話している。

「楽しみだわぁ。しみったれた夫と
 変わり映えしない毎日はもう嫌だったもの。
 行方不明になって人生リスタートしたいわ」

「きっとできますよ」

いつも通り、乗り換えの車まで送り届ける。
2人はさっさと車に乗り込んで去ってしまった。

車にひとり残された俺は、
遊園地にでも行くように楽しそうな女優の声が
いつまでも車の中で反響している気がした。




「コンパスよし、スマホよし、地図よしっと」

持ち物を何度も確認して忘れ物の可能性をしっかりつぶす。
これだけ準備万端なら迷うことは絶対ない。

「あんなに楽しそうにウキウキしていたんだ。
 いったいどれだけ楽しい場所なんだろう」

好奇心の赴くままに、俺は行方不明希望を出した。
間もなく地味なバンが家の前に止まった。

「行方不明希望者の方ですよね? どうぞ乗ってください」

車には運転手しかいなかった。
俺は運がいい。
これなら道を動画で録画していても怒られない。

車は大通りを避けて、マニアックな道を進む。
やがて山道に入り人里離れた場所へとやってくる。

「こんな道があったんだ……」

このころにはもう地図に載っていない道ばかりを進んでいた。
本当に行方不明になるとまずいので、
窓から目印となるビー玉を道に落とした。

まるでヘンゼルとグレーテルみたいだ。

「着きましたよ」

車が到着したのは、タイムスリップしてきたような田舎の町だった。
広大な畑が広がって自給自足の生活をしている。

「では失礼します」

車はそそくさと去っていった。

町……というより、村は最新鋭の機械が充実している。
農作業をしている人は誰もいない。
みんなベンチでしゃべったり、家でゴロゴロしている。

世界から切り離された場所。
ここが行方不明者の町なんだ。

「あっ」

以前、送迎した女優も町で見つけた。
ミーハー心丸出しで声をかけることに。

「あのっ、女優のTさんですよね」

「えっ!? あんた私のこと知ってるの!?」

「え、ええ」

「嬉しいわぁ。この村ってみんな行方不明希望者ばかり。
 誰も過去は詮索しない空気になってるの。
 だから私を女優と知ってくれてる人なんていないと思ってた」

事情はわからないけど、行方不明になりたくて町に来ておいて
さらに自分のことを知ってもらいたいだなんて矛盾してる気が……。

「てか、あんた見ない顔だけど最近来たの?」

「はい、ついさっき」

「ちょうどよかった! だったらまだ道覚えているでしょ?
 私をこの町から出してよ!」

「自分から来たんじゃないんですか?」

「ファンがうざいから行方不明にはなってみたけど、
 私をちやほやされないのはもっとイヤだって気付いたんだもん!」

「……わかりました。
 まあ、俺もちょうど帰るところだったんで」

もっとユートピアな場所を想像していた。
ありふれた田舎だと知ったらここに留まる理由もない。

スマホのGPSをつけて現在地を確認する。


>>位置を特定しました。場所はリオデジャネイロ


「はぁ!? ちょっとそれ壊れてるんじゃないの!?」

GPSは完全に壊れていた。
この場所につくまではちゃんと機能していたのに。

地図も使えないとなると……道を戻るしかない。

「大丈夫、まだ道は軽く覚えています。
 それに目印のビー玉も置いてきました」

「早くこんな町出ましょ」

わがまま女優と一緒に町の出入り口へとやってきた。
でも、そこはもう見覚えのある道じゃなかった。

「道が変わってる……?」

がくぜんとしていると、行方不明者の1人がやってきた。

「ああ、道が違うのかい?
 そりゃそうさ。町では毎日道を作っては壊している。
 同じ道なんてできないようにしてるからねぇ」

「うそ……それじゃ、来た道を覚えていても意味ないじゃない!」

「ビー玉も道そのものを作り変えられたんじゃ意味ない……」

「なにせここは行方不明者の町。
 誰か一人でも行方不明から戻ってしまえば、
 ほかの人も行方不明じゃなくなるかもしれんからのぅ」

言葉を失った。
甘く見ていた。

スマホで録画した道の情報も。
来た道で落としてきたビー玉も。
GPSも地図もなにもかもここでは役に立たない。

「私たち帰れないの!? ねぇどうすればいいのよ!!」



「1つだけ方法を思いついた。
 あなたはまだ離婚してないですよね?」

「それがどうかしたの?
 離婚なんて手続きや慰謝料やら面倒だもん」

俺はすかさず女優の唇をうばった。


 ・
 ・
 ・

女優とのキス写真をネットに投稿した直後。

「女優Tさん! 相手の男性とはどういう関係なんですか!」
「不倫についてはどう思われてるんですか!!」
「視聴者にコメントをお願いします!!」

狙い通り、ネタ切れ報道陣が行方不明の村に、
どこから湧いてきたのか一気に押し寄せた。

俺と女優の答えは最初から決まっていた。


「「 詳しくは記者会見でお話します 」」


「記者会見の準備だ――!」

俺たちは報道陣の車に拉致されて、行方不明者の町を後にした。
ここまでの道順は、列をなしたファンと報道陣をたどるだけで迷うことはない。