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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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初めまして、ラピスさん。

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去年の八月だったか…、ひろみ(本名)さんからメールが届いた。
見てみると、そこには一枚の写真があった。
どう見ても犬だった。
体は横になっているのか、座っているのか分からないけど、カメラ目線で、たぶん顔を横にもたげている瞬間だと思う。
どうしてそんなにも分からないのかと言うと、毛むくじゃらでどこに手や足があるのか…、どうやってその姿勢になっているのかが分からなかったからだ。
しかし顔だけははっきりと写り、犬だと分かった。
しかし犬の種類までは分からなかった。
ただ、デカい犬なんだろうな~というのは分かった。
そしてその写真の後に、一言、
『どうでしょうか?』
とあった。
???と意味が分からなかった。
でも、じっとその写真の犬を見た。
私は初め、ひろみさんは、
“大きなかわいい犬でしょ?!”
と言いたいのかと思ったので、
“大きな犬ですね~。”
と返事をしようとした。
がしかし、犬から伝わる気持ちが違った。
その犬は真剣に伝えて来た。
『走りたいけど走れないの…。』
と…。
『えっ?!』
と私は自分の目と心を疑った。
何度も瞬きをして、目をギュッと閉じて、もう一度その写真を見た。
その犬からもう一度、
『走りたいけど走れないの…。』
と言葉が届けられた。
やっぱりそう言っているようだ。
『どうして?!お年寄り?!』
と私が聞くと、
『走りたい…。みんなが走ってるの見ると羨ましい…。いつもいいな~って見てる。走りたいけど走れない…。』
と言って来た。
その犬が走り回ってるみんなをじっと動かずに、目で追い掛けてるのが見えた。
時折、自分の力で呼吸している息使いも混じって感じた。
お年寄りなのかは分からなかったけど、
『若い時は走れるけど、お年を取るとね~。だんだん走れなくなるもんだからね~。』
とは言ってみた。
それは無視されて、
『もう一度走りたい…。あの時みたいに走りたい…。それだけ。それさえ叶ったら何にも言う事はない。』
と仕切りにそう言ってくるのだった。
全く意味が分からない私は、一応その犬に、
『ひろみさんに今の話を伝えるよ。』
と言ったら、
『もう一度走りたい…だけ伝えて。』
と言った。
本当にそんな事伝えて大丈夫なのだろうかと思っていたら、上(神様)が出て来て、
『ん~…、今年…いっぱい、ありますかね~。…年を越せますかね~。』
と一言言った。
犬の気持ちをメールする事に悩んでた気持ちが一気に吹っ飛んだ。
『えーーーーっ、それは言えないわ~。無理だわ~。なんで急にそんな事言うかな~?!まだ、一度も会ったことない人にそれは言えないわ~。』
と私の声を叫んだ。
私の気持ちに上は何も言ってはくれない。
犬は黙って話を聞いている…というか、受け入れている姿に見えた。
オロオロとうろたえているのは私だけだった。
でも、そんな事はやっぱり言えないので、犬の思いだけをひろみさんへとメールしようと決めた。
がしかし、首をひねり、それであってるのか疑いながらもメールした。
メールを打ちながら、上は何度も同じ事を言い続けたけど、私には出来なかった。
上は、
『このような事を聞いてくるという事は、何を言われても良いと覚悟の上、聞いている…と私は思いますがね…。だからこうして私の口から言葉が出ているのではないですか。』
と言われたけど、
『写真の犬が、“走りたいけど走れない。もう一度走りたい…。”と言ってますよ。』
とだけ打った。
私には荷が重すぎる…、だから…、無理だった~。
すぐに返事が来た。
『名前はラピス(本名)と言います。九才のボルゾイです。』
と来た。
私は名前より種類にたまげた!!
まさかボルゾイの持ち主と知り合えるなんて思ってなかったから、家で一人、
『ずげーーーーっ!!おまえ、ボルゾイか~っ!!すげーーーーっ!!ボルゾイ飼ってる人がいる~。すごいわ~!!ボルゾイ触りた~いっ!!』
とその犬、ラピスに向かって叫んでいた。
叫んでいる最中のラピスの表情は言うまでもなく、
『だから何?!』
と冷めていた…。
そして怖かった…。
だから、気を取り直して、本題に戻った。
そう叫んでいる中、ひろみさんからメールの続きが来た。
『そうだと思います。走りたいんだと思います。この子は、足が悪くて、走ることが出来ないんです。』
とあった。
私はそのメールでもっと冷静になった。
犬が言ってた事…本当だった…という事で、もっと落ち着いた…というか、落ち着かされた。
私はもう一度写真のラピスに向かって、
『走れないの本当だったね!!ビックリ!!何で?!どうして足が悪いの?!』
と聞いたら、ラピスの顔がムッとした。
ムッとはするけどそれ以上の事は教えてくれなかった。
私も噛み付かれたら怖いので、それ以上は聞かなかった。
そして、お年寄りではなかった…。
通りでムッとされたり、冷めたりするわけだわ。

それから、ひろみさんからのメールとは関係なく、ラピスが直接話し掛けて来たりしていた。
長く息を吐くし、ため息も多かった。
自力で呼吸しているのが伝わって来た。
しかしそれをひろみさんへと伝える事は出来なかった。
飼い主の気持ちを考えると…、その立場になって考えると…、何もしてあげられない事にひたすら苦しむ気持ちしか出て来ないから、私は伝えられなかった。
そんな気持ちの中、外で遊びたいのか外を見つめてるような姿が、頭の中に映されることも度々あった。
そんなラピスに私は、
『どうしたいの?』
と声を掛けていた。
長いため息を付くとゆっくり考え、
『ママが寂しがるからね~。でも、もう自分も辛い…。』
と応えていた。
『その気持ちをひろみさんに伝える?!』
と私は聞いてみる。
ゆっくりと首を横に振り、
『ママがね~寂しがるから…。言わなくていい。ママがいつも話し掛けて来るから…。』
と言うと、今ある力の中で呼吸をする。
『足は痛いの?!』
痛みの具合とか状態とかを知らないから聞いた。
ラピスは肯くと、辛そうに、
『痛いよ。それが辛くて、もう我慢したくない。だから早く楽になりたい。でも、ママには言わないで、悲しむから…。』
と言った。
『あいちゃん(私;仮名)、何もしてあげれないよ~。どうしたらいい?!何が出来る?!』
と聞くこともあった。
ラピスは首を横に振るだけで、自分のわがままを言わない。
痛みに耐えてるのは見て分かるのに、それでもわがままを言わない。
もしかしたら唯一のわがままは、
『上にいる仲間たちに会いたい…。』
と言う言葉だったのかもしれない。

私は話を聞いてあげることしか出来ないから、声を掛けられたら耳を傾けていた。
たまにエアーボルゾイと称して、ラピスを触ったりして、
『毛がフワッフワ!!気持ちがいい~。』
と遊んだりもしていた。
ラピスも、
『ボルゾイの毛だよ~。』
と言っていた。
楽しく会話をしてるように見えるけど、所々に必死に息を続けている息使いも感じていた。
『ママに伝えて~。』
と言う時は、ひろみさんを悲しませないようにお気遣いの気持ちで、
『ママには言わないで~。』
と言う時は、言われなくてもなかなかそう伝えられるものでもないから、ただただ肯き返すだけの時もあった。