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本当に捨てたいのは

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「男友達はたくさんいるけれど、みな、恋人に到っていないの。空騒ぎするだけのお友達が掃いて捨てるだけいる。そろそろ、一人に絞ろうと思っている」と余裕があるように見せるのが精いっぱい。
「そうした方がいいと思います」としみじみと言う。
「どういう意味よ?」とアリサは聞き返す。
「深い意味はありません」と仰々しく手を振る。
 深い意味がない。あるだろう! 売れ残るとでも言いたいのだろ?
 
家に帰っても、父親との会話はない。まるで独り暮らししているのと一緒である。部屋に誰もいないのは寂しい。それで熱帯魚を飼うことにした。本当は猫とか犬が飼いたかったけれど、父親が嫌いだというので諦め熱帯魚にしたのである。実家に戻って数か月のことである。
自分以外の生き物が同じ部屋で生きている。小さな存在だけどつながっている。そこに安らぎをも感じることができた。今では、父親以外につながりを感じることができるのは熱帯魚だけである。しかし、アカネの結婚話を聞いてから、熱帯魚を見る度に、つながりよりも、自分がいかに孤独であるかというのを思い知らされるだけだった。
言葉も通わない。触れることもない。そのうえガラスの水槽が隔てている。そんな熱帯魚を見るにつけ、イラつくばかり。とうとう捨てることを決意した。
声を発することもない熱帯魚に向かって、
「かわいそうだけど、川に戻って。もう飼う気がしないの。だって、心が通じないもの」と語りかけた。

 日曜日の昼、ゴミ袋に熱帯魚を詰めて出かけようとする娘に向かって父親が言った。
「そのゴミ袋は何だ? 今日はゴミを出す日じゃないぞ。ルールを守らないと、隣の婆さんが目くじら立てて怒鳴り込む」
「ゴミじゃない。熱帯魚を入れたの」
「熱帯魚をどうする気だ?」
「川に返すの」
「川に返しても、すぐに死ぬぞ」
「いいの。死んでも。生きたまま、生ゴミに出すのは残酷でしょ」
「この前は生き物が飼いたいと言っていたのに、今度は捨てるのか? 全く気まぐれな奴だな、いったい、誰に似たんだろ?」
 昔、母親はよく言っていた。顔も性格もお父さんと瓜二つだと。若い頃の父は恰好よかった。結婚するなら父のような人がいいと思ってきた。だが、今、目の前にいるのは、しょぼいジジイである。かつての理想の相手ではない。本当は熱帯魚よりも父親を捨てて、どこでもいいから遠くに行きたい。
「今日、夕飯、カレーでもするか?」
 父親のカレーはとてもうまい。悔しいが、十年経ってもかなわないと思うほどおいしい。
「分かった」と返事をする。
「じゃ、帰りに材料を買ってこい」
 アリサは思わず父親との侘しい夕食を想像した。それに引き替えアカネはきっとイケメンの旦那と美味しい夕食がするだろう。そう思うと、アカネは父親に目の前にある壺を投げつけたい衝動に駆られた。
じっと見つめる娘に向かって、「どうした?」
「何でもない。私、結婚したら、どうする?」
「願ったり叶ったりだ。相手がいるのか?」
「今はいない」
「早く見つけろ。もう賞味期限切れもいいところだぞ」
賞味期限か。確かにそうだ。もうじき四十に手が届く。
「言われなくとも分かっている。とりあえず、熱帯魚を海に返してくる。夕食はカレーね。五時前までに、材料を買って戻る」
作品名:本当に捨てたいのは 作家名:楡井英夫