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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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マゼラン対マゼラン



「出現しました。〈ヤマト〉です」

超光速レーダーのオペレーターが声を発した。地球人類が〈冥王星〉と呼ぶ星の中にある地球人類の知らない場所。ガミラス〈地球討伐隊〉基地である。その内部はまるでサンゴか蟻塚か、それとも巨大な海綿かヘチマダワシの中にでも人が住(すま)わっているようだった。

すべての柱は直線を持たず、湾曲しながら他の柱と繋がっている。そして壁には電気系統の配線や空調などの配管が、まるで木の根か血管のような模様を浮かばせ張り巡らされているのが見える。

これらはすべて、昆虫サイズの一億匹のロボットが、まさに蜂や蟻のように働いて造り上げたものだった。〈重機〉を持たないその者らには、星の重力に逆らいながらまっすぐの物を造るのは難しい。そのため床以外のすべてが歪んだ曲線で構成される。ゆえに内部の光景は大蛇かクジラの胃袋にでも呑み込まれたようでもあるが、しかし極めて合理的で堅牢な造りであるのも間違いない。

肌の色が青いのを除けば地球人とほぼ同じ――もっとも、どの人種に似るとも言い難いものがあるが――姿かたちの者達がそのような基地の中を立ち働いていた。

オペレーターの報告も無論、地球のどの言語で言われたものでもない。「そうか」と、司令官であるシュルツという名の〈男〉が応えた言葉もまた〈ガミラス語〉だ。

シュルツ――無論、その名も地球人類が正確に発音するのはほぼ不可能だが――はスクリーンに映し出された〈ヤマト〉なる船の映像に眼を向けた。一体なんの冗談なのかと思うような、水に浮かべる船の形まんまの宇宙戦闘艦。

しかし、その舳先には、巨大な黒い穴が口を開けている。それが見せかけの空砲でないのは、すでにはっきり力を見せつけられていた。波動砲搭載艦――最も恐れていた船が、自分の前に遂にやって来るときがきたのだ。シュルツは言った。

「〈ヤマト〉か……」

「波動砲……」と副官のガンツという男が言った。「撃てるのでしょうか?」

「さてな。『可能性は低い』とは情報屋どもは分析しよるが」

これまで何百繰り返し考えてきたかしれないことを、シュルツはあらためて思いやった。情報部は、『〈ヤマト〉はおそらくワープと波動砲の発射を続けて行うことはできまい』とのレポートを出してきた。だから撃てはしますまい。護衛の船がない限り、〈ヤマト〉は決して地球人が〈プルート〉と呼ぶこの星に対して波動砲は使えぬものと考えられます。

そのときシュルツは、『なるほど、簡単な理屈だな』と彼らに応じた。しかしそれはどの程度、確実なものと言えるのだ。するとやつらは弱気になって、『まあ八割と言うところかと』と応えやがった。勝算としては充分でしょう。

充分じゃない。そんなの、全然充分じゃない。つまり〈ヤマト〉は一発で我らをまとめて片付けて、後はサッサとやつらの言う〈イスカンダル〉へ行ける確率が二割あると言うことだろうが。どうするのだ、そのときは。わたしは死んでいるだろうから何も心配することはないが、君らは本国の親衛隊にどう釈明するのかね。

『それは』と、分析屋どもは詰まって言った。『その通りです。どんなに率が高かろうと、この賭けには乗れません。この星から全兵員を避難させるしかないでしょう。あるいは、〈ヤマト〉が来る前にあれを沈めてやるかですが、それも容易くはゆかぬとあれば……』

そうだ。まったく、実に簡単な理屈だった。〈波動砲〉などという超兵器を見せつけられては、そうするより他にない。あれがただこの〈メーオーセー星〉を撃つためだけに船に搭載されているのは誰が見ても明らかなのだ。一体全体あんなもの、他にどんな使い道があるのだ。あれを見ても撃たれることを心配しない人間が司令官としてもしこのわたしの席にいたら、そいつは指を使っても数をかぞえられないほどの低脳だろうとシュルツは思った。いや、案外、そのくらいのバカの方が、円周率を一億桁まで暗記できたりするのかもだが――。

〈ヤマト〉か。シュルツは画(え)に映る船の艦橋部分に眼をこらし、いずれにしてもあの敵船の指揮官が『あの星には固有の原住生物がいるかもしれぬので』だとか、『たとえ子供を救うためでも一個の星を消してはならぬ』とかの理由で波動砲が撃てるのに撃たぬ決定をするなどというのは有り得ぬと考えた。地球の社会にそのような狂った理由で反対する者がたとえどれだけいようとも。

無論、この自分にしても、もしそんなキテレツな読みをする者が部下にいたならすぐ軍から追い出して薬の実験台か何かの仕事でもさせるしかあるまいとシュルツは思った。どうせそれより頭が悪くなる危険などただのひとつもなかろうし……。

波動砲が撃てるなら、〈ヤマト〉は撃つに決まっている。しかしその見込みは薄い。むしろあれは欠陥兵器――情報部は決して希望的観測でものを言っているわけでもなかろう。賭けはできぬが、〈ヤマト〉は撃てない。今あの船を指揮する者は、『ワープ船もう一隻とタッグを組めれば』と考えているに違いないなとシュルツは思った。地球に波動砲搭載艦がもう一隻あるならば、こちらに勝ち目は万にひとつも有り得ないのだ。たとえ今の千倍の戦力を持っていたとしても。

そうだ。そのときはこの星は一発で吹き飛ばされておしまいだ。それに対して、どんな対抗のしようがあるか。

あるわけがない。全然、ひとつもあるわけがない! あんな船をもう一隻やつらが持っていたならば、この自分も今ここにとてもいられたものじゃない。全員で荷物まとめて逃げる以外にもう仕方がないではないか。

〈イスカンダル〉と呼ばれる者の助けがあったとは言えど、地球人はあの戦艦を苦しいなかで造り上げた。やつらの社会はガタガタで民は絶望しきっているはずなのに、なんと言う……これが地球人類の底力なのかとシュルツはあらためて畏怖を覚えずいられなかった。〈ヤマト〉が〈外〉に出るのを許せば、地球人は間違いなく、ワープ船を数年のうちに百も建造することになろう。

〈数年〉――そうだ、地球の自転・公転周期はガミラス本星のそれと大きく変わらない。そうでなくては〈人間〉のような生物は発生しない。地球のやつらと我々は同じ〈人間〉。なのにどうしてこうも違っているのだろうかとシュルツは思った。己の手を見る。色が青いのは肌に含まれる色素のせいで、やつらに白いのや黒いのがいるのと同じだ。はたまた、静脈が青く見えるのと同じこと。切ればやつらとほとんど同じ赤い血液が流れ出る。

当然だ。元はと言えば同じ〈種〉から――しかし違う。決定的に違うものがあると、この〈八年〉の戦いのなかでシュルツは感じさせられてきた。似ているようでも地球人の血はより熱く、心臓はより強い力で体にそれを巡らせているのじゃないか。我々は確かに遊星を落とし、やつらを地中に押し込めはした。けれどもそれは眠れる巨獣を覚ます結果を生みはしないか……。

今、スクリーンに〈ヤマト〉が映る。間違いなく乗っているのは地球で最高の指揮官だろう。このわたしから基地の戦力のほとんどを奪い、最小限の力で迎え撃たせるのを余儀なくさせた。波動砲などどうせ使えぬとわかっていても、そうさぜるを得なかった。