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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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新発売! 閉じ込める絵本!

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「ちょっとそこ抑えてて」

最初は友達だった。

押し花を造ろうと本に花を押し付ける友達の指を
ふざけて本に挟んだのがきっかけだった。

「うわっ!」

友達の体は本に挟み込まれて、花と一緒に本の中へ。
本を開くと状況がわかってない友達が本のページをうろちょろしている。

こちらの声はおろか、あっちの声も聞こえない。
なにか必死に大声を出しているみたいだが、なにも聞こえてこない。



友達を本に閉じ込めてから数日。

友達は本のページを行ったりきたり。
お腹が減ったりトイレに行ったりすることはない。
どうやら本の中では時間が止まっているみたいだ。

さすがに何もないまっさらな世界じゃかわいそうなので、
俺はページのはしっこに小さなテレビの絵を描いた。
これでも俺はイラストレーター。

本にいる友達は、さっそく興味を持ったようでテレビに向かう。

でも、しばらくテレビを見ると飽きたようにまた寝転んでしまう。

「うーーん、テレビじゃすぐ飽きちゃうのかな」

友達を退屈させないためにはどうすればいいか。
悩みに悩んだ結論は、「人」だった。


『最近、この地元一帯で神隠し現象が報告されており
 警察は誘拐の可能性も考慮しながら操作を進めています』


ニュースでは変わり映えしないニュースをやっている。
一方で、すっかり本は賑やかになった。

かつて真っ白なページには友達だけだったが、
今では何十人もの人たちが言葉を交わしたり遊んだりしている。

俺も、みんなを楽しませるためにたくさんの遊具や施設を描き加えた。

「なんだか楽しそうだなぁ」

イラストレーターという仕事は孤独が常に寄り添っている。
誰かと話したくても、人とのつながりは皆無。

でも、本の中で楽しそうに駆けずり回る人々を見ると
本当に幸せそうに感じてならない。

「俺も……本になろうかな」

そう言葉にする頃には、すでに心は決まっていた。


そこで、自分が本になる前に、とにかく描きまくった。
本の中をよりよい空間にするために必要なものはなんでも。

大型スーパーに大遊園地、超豪華ホテルに温泉。

細部もちゃんと描いてから、自分の頭を本に挟んだ。
一瞬だけ目の前が白くなったかと思うと、もう本の中に入っているのがわかった。

「おお……! すごい! 本当に動いている!」

自分の描いた絵が動いているのには感動を覚えた。
そして、俺が閉じ込めた人々は楽しそうに過ごしている。

もっと早く本の世界に入っていればよかった!!




どれくらい経っただろう。



準備しておいた施設は遊びつくしてしまい、
俺に残されたのは退屈の足かせだけになった。

他の人は飽きずに、本の生活を楽しんでいるみたいだけど
それは他人とのつながりがあるからだろう。

たった一人で遊園地回り続けてもいつかは飽きる。

俺は本の中に入っても自分という本からは一歩も出られず
他人から新しい刺激も感動を受け取れずにいた。
そして、すべてを味わったら退屈しか残らない。

「はぁ……戻れないかなぁ」

周りにはたくさん人がいるのに孤独を感じてならない。
真っ白な空を見上げてため息をついた。

「そういえば、この本、全部描き上げてなかったな」

俺が本の中に入る前。
埋まっていないページはすべて絵を描いた。

それこそ、飽きが来ないようにテイストを変えて。
いつしかそれは絵本のようになっていったが、
最後に「ある言葉」を書き忘れていた。


持ち込んだペンを空に掲げてすべらせる。

反転させてみると、正しく見えるように工夫してその言葉を書いた。



おしまい


一瞬、また目の前が白くなったかと思うと
本に入っていた全員が一斉に本から飛び出した。

「も、戻った……!?」

全員が口々に喜びや感動を交わし合っている。
でも、ここは俺の部屋じゃない。

いったいどこだ。


『さて、今日の特集は絵本では異例のダブルミリオンとなった
 傑作絵本『うごく絵本』を描いた謎の作家に迫ります!

 作者不明のこの絵本、描いたのはいったい誰なんでしょう!?』


テレビでは俺の本が紹介されていた。
でも、そんなのはどうでもよくなった。


窓から見える風景には、
俺をはじめ、本に閉じ込められた人たちの分身が溢れていたから。

ダブルミリオン倍……どれだけ人が増えたのかは想像にお任せする。