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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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タイム・ハラスメントにご用心!

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会議室に到着すると上司は顔を曇らせた。

「1分の遅刻だ」

「え、い、1分……?」

「なぜ遅刻したのか理由を教えろ」

「トイレに行っていて……それで」

「社会人として5分前行動は必須だろう。
 最近の若い奴は時間を守らない、たるんでる。
 この先の日本の社会が思いやられるな」

と、腕組しながら語る上司のズボンはチャック全開。

あなたの方が思いやられる。
そう心の中で毒づくも上司の説教は止まらない。

「反省しているなら、反省文を2時間以内に提出だ」
「今後は必ず5分以内に会議室に来ること」
「今の仕事は3時間20分で片付くだろう」

「いいか。時間を守らない奴はクズだ!」

上司の説教にメッタ打ちにされた私は、
反省というよりも疑問の方が心に残った。

「もう! たかだか1分くらい、なんなのよ。
 どうして1分程度も許すことできないの!」

会社を辞めると、『タイム・ハラスメントをなくそう運動』の会長になった。

「時間をしばるなーー」
「しばるなーー」

「未来を切り分けるのはんたーーい」
「はんたーーい」

「タイム・ハラスメントをゆるすなーー」
「ゆるすなーー」


スタートは小さなSNSから始まった運動だったが、
その規模はどんどん大きくなって一大ムーブメントになった。

「やっぱり、みんな時間ばかり気にする現代に
 心から嫌気がさしていたのね!」

私の考えを後押ししてくれる仲間の存在に嬉しくてたまらなかった。



タイム・ハラスメントという言葉が流行語大賞を取り、
気が付けば私が大統領になる頃には
もう時計なんて気にする人はいなくなった。

『3番線にもうそろそろ電車が来ると思います~~』

『お湯を入れて、いい感じになってきたら完成です』

『新番組"報道2015"はご覧のチャンネルで、夜くらいに放送!』

遅刻という言葉もすたれ、
約束という存在も都市伝説へと化していた。

でも、前のように時間を気にして怒るような人は誰もいなくなった。

「やっぱり、人間は時間なんて気にしちゃいけないのね。
 たかだか1分も許せないような人間こそ
 時間を守れない人間よりもクズだわ」

私はかつての上司へ、遅れての反論をした。


「あの、大統領。突然なお話ですみません。
 きっと、聞くと大統領はお怒りになると思います」


「そんなわけないわ。
 これでも私はタイムハラスメントをなくそう運動の会長。
 怒りについてのマネジメントには自信があるわ」

「でも……」

「私の全財産を取られた? 気にしないわ。
 それとも、夫が浮気をしてた? ふふっ、気にしないわ。
 私の支持率がマイナスになったりしたのかしら?」


「いえ、あと3時間くらいで地球が滅亡します」


「なんでもっと早く言わないのよっ!!」

私は秘書をひっぱたいた。


「さささ、3時間ってなによ!?
 どうしてもっと早く気付かなかったの!? バカなの!?」

「いえ、この国以外は残り24時間くらいだと知ったんですが
 この国だけ、時間にルーズなもので24時間前に確認してから
 大統領の耳に届くまでの伝達が遅れて……」

「だからって残り3時間!?」

「ええ、3時間後に地球が隕石で滅亡します」

慌てて車に飛び乗ると、近くの時計屋さんまで急がせる。
時間なんてここ最近気にしたことなかったから、
時計のたぐいを持ち歩いていなかった。

「ああ、渋滞ですねぇ。
 信号もきまぐれに変わりますからなぁ」

と、運転手。

「残り3時間しかないのよ!?
 こんな車中で見ず知らずのおっさんと心中なんていやよ!!」

私は町で唯一の時計屋さんに走って駆け込む。
心の中ではずっと1秒ずつ数えていた。

「いらっしゃい。時計が必要ですか?」

「いま!! いまなんじ!?」

「えと、午前9時ですけど」


残り5分。


自分の未来を悟った私は秒針を見つめながら、
刻一刻と迫る世界崩壊への心の準備をはじめた。

「いろいろ……あったわね……」

――残り3分。


上司がたかだか1分を気にすることが
なぜだからわかないところからすべて始まった。

――残り1分。


未練がないかと言えばうそになるけれど、
とても満足する人生だったと心から思う。


――残り5秒。













「本当に充実した人生だったわ」

0。





「……あれ?」

全然隕石は落ちてこない。
もう10秒以上も過ぎている。なにこれ。

「ちょっとどういうこと!?
 まさか隕石落ちてこないの!?
 こんなに人を走らせておいて!
 ちゃんと時間通り落ちなさいよ!!!」

予定された時間は1分も過ぎている。
かつての上司のようにがなりたてて店を出た。


心の余裕がなくなり1分の遅れすら許せない私の頭上に
隕石が真正面から迫っていた。